
あたしの目撃したところによると・・・
あたしが茶トラの猫だった頃、あたしがくつろいだり、漢方薬をこしらえたりするのに使っていた部屋があった。
本当に都合のよいことに、そこにはいろいろな生薬がプラスティックボトルに入れて置かれていたっけ。
週に何度かはわいわいとまた生真面目に、なんだか大勢がやってきて、それ以外にもあたし以外に出入りのある部屋だった。
つやつやの「おんなのこ」やわくわくの「だんし」なんかが出入りしていた。
あたしの目撃したところによると、脈のあるなしは、異性だろうがそうでなかろうが、そっと手を取って三本指を並べて耳をすますようなしぐさで確かめるのだ。
ところで、脈というのは、あるかなしか・・・
あるといろんな意味でOKで、なしだといろんな意味で残念なわけだけど、
だけでなく、大きいだとか速いだとか細いだとかくにゃくにゃだとかかたいだとかやわらかいだとか、その他にもいろいろあるのだ。
脈をさぐると、あるかなしかだけでなく、どうやらお尻がつまりがちですなだとか、熱がひそんでいそうですなとか、いろいろなことがわかるのだ。
そして、つやつやの「おんなのこ」たちも、わくわくの「だんし」らも、互いに手をとっては、脈のあるなしを探る練習をしてみたり、探ってみたりしていたものだった。
春に出会って、わくわくしているやらしていないやら、数か月が過ぎ、夏にはなんだか人影が少なくなる。
それにも関らず、出かけてきてせっせと脈をさぐってみたり、漢方薬をこしらえてみたりする「おんなのこ」もいたりして、それこそわくわくして脈をさぐらせてみたり、どっかへ行こうとさそってみたりしている「だんし」もいたりしたものだ。
そうなると、せっかく練習をしたものの、互いの目をのぞきこんだり、ほほ笑む顔をみつめたり、なんだかそういうことを重ねて脈のあるなしをはかりはじめるようだった。
はかりそこねて、この部屋に足を運ばなくなるものもいた。
脈ありにうきたつ心がみえみえなものもいた。
さて、脈のありなしだけでなく、どうやら「脈あり」の場合は、脈はあるばかりでなく、浮数を呈するらしい。
ほらほら、誰やらは、「浮数」の脈だぞ。脈取ればわかるぞ。
先輩達がひやかすように言う声が聞こえていた。
(浮数:ふさく の脈は、探ればすぐに触れ、とくとくとはやく数多いものだ。)
わくわくの「だんし」もつやつやの「おんなのこ」も想う相手に手をとられると、そしらぬ顔をしようとも脈ばかりはとくとくと弾むのだそうだ。