那須の山奥


「ポカラ」 と名付けられた 忍者屋敷のような 古民家 に

絵を描きながら

火を焚きながら

訪れる人と会話をしながら

一人で住んでいる 仙人のような人がいました


おじさん でも おじいさん でもなく

絵かき や アーティスト という表現も しっくりこない

春のうららさん



お酒が大好きで ご飯をたべているか心配する人たちが

手土産や ご飯片手に うららさんを訪れる

そんなひと




数日前に見えない仙人になってしまった と知ったのは 今日の事





夏至の日には どこからともなく 

「ポカラ」の周りに人が集まり テントが張られ

火が焚かれた庭では 夜通し人々が踊り楽しみ

池の真ん中にある島は 表現者たちのステージになり

カエルの鳴き声と 時には 雨音と

溶け合った音と歌声が奏でられ

厳かに 華やかに 生き物らしく

食べ 飲み 笑い 佇み

物語のような世界が広がる祭りがありました



那須の街中で うららさんを見かけると

こっそり おりてきた 仙人 そのもの



夜に うららさんの家を訪ねると

ほんの少しの電気だけが付いた 薄暗い家のなかで

たいてい 囲炉裏ごしに お酒片手に 座っていて

拾ってきた薪をくべながら 

時には 誰かが持ってきた食べ物を一緖に食べながら

時間じゃない時間をすごすのです



うららさんの囲炉裏の前にいると

火を眺めながら じっとしていると

魂がタイムスリップしたように

時間が止まったかのように

すべての世界と繋がっているのに

すべての世界から離れているような

そんな不思議な時間が流れるのです



車に乗って アスファルトの道に出て

街灯が多くなってきて

体に染み付いた 燻された香りで

あぁ うららさんちに いたんだな と 

わかるのです



うららさんが 死んじゃった


亡くなった とか 召された よりも

死んじゃった という表現がぴったりで

すごく 人間らしいのに

すごく 人間らしくないひと




ひとりで ひっそり 飛んでいったのかと思ったら

震災の後 最近できたお弟子さんと福岡に移動して

周りの人たちと 楽しそうに しこたまお酒を飲みに飲み

お風呂の中で この世とお別れしたのだそう



そんなところも うららさん らしい



知る人は

「うららさんは 『那須の家には もう 戻らない』

つもりでいたんじゃないかな」 と 言っていたとか


でも どうやら 電気はついたまま 

作品も置いたまま とのこと



そんなところも うららさん らしい




うららさんがいなくなった ポカラ は

魔法が解けたお城のように

止まっていた時間が 一気に流れていく気がする



残された 作品と 大きなお庭と 大きな棲み家が どうなるか

それは わからないけれど



うららさん訪ね仲間の まーくん は

うららさんの作品も おうちも

残しておくのは違うかもね

そう言っていた




目に見えるものが なくなる量より

目に見えなくても 残るもの 



そっちのほうが はるかに 多い






うららさん ありがとう