$縮まらない『何か』を僕らは知っている
『911 FANTASIA』 / 七尾旅人 (2007)

ヘッドフォンairplane

【disc1】
01.「お話してよ」
02.≪荒野≫
03.「もっとお話してよ」
04.≪いまのうち≫
05.≪フォークロア911≫
06.「グラウンド・ゼロ拡散」
07.≪スリーピング・ジャパン≫
08.「戦前世代」

【disc2】
01.「ソウルミュージシャンたち」
02.≪生の申し子≫
03.「昔々、レコードというものがあった」
04.≪世紀の爆笑≫
05.≪千年の願い≫
06.「甘美なる」
07.≪ロンリー・クイアのKISS抑止≫
08.「アメリカの、あの世」
09.≪ヘヴンリィ・パンク:アラマルチャ≫
10.「啓典の民たちの、あの世」
11.≪あの娘はまるでポニーみたい≫
12.「3度だけ」

【disc3】
01.「ひとつめ」
02.≪ラスト・レコード・オブ・ザ・ワールド≫
03.「ふたつめ」
04.≪世界は私のお気に入り≫
05.≪人間じゃない≫
06.≪少し浮かれて≫
07.≪airplane≫
08.「みっつめ」
09.≪FINaLCHaNT≫
10.≪The End of September 11,2051≫
11.≪彼方から≫
12.≪此方から≫


$縮まらない『何か』を僕らは知っている

 本作が出た直後だったと思うが、たまたま深夜の渋谷で七尾旅人氏に遭遇したことがある。その時、だいぶ酒に酔っていたとはいえ、愚かにもこの作品について「言葉が過剰だ」というような難癖にも近いしょうもない批判をしてしまった。今思い出しても恥ずかしいし、失礼な態度をとってしまったと後悔している。とはいうものの、当時、この作品のファンタジーや寓話性を素直に受け入れられなかったのは事実だった。
 00年代を通じて、僕は一般的な意味において、今よりも政治的にハードコアだった。正確に言えば、左翼的に世界に対峙することに執着していた。街頭での直接行動を好み、芸術の政治的矛盾に寛容になれるほど成熟していなかった。3枚組2時間51分にも及ぶこの超大作は、911にリアクションした政治的プロテストの音楽作品としても評価されてきたわけだが、仮にその観点から厳密に聴こうとすれば、あまりにも感傷的で、情緒的で、倒錯している。そして多くの矛盾を孕んでいる。プロテストとして明確な方向性がないとも言える。しかしそもそも、この作品を政治的プロテストの音楽として聴くこと自体が間違いなのではないかと思う。そのような先入観で聴くと、多くの大事な音と言葉を聴き逃してしまうだろう。5年前の僕がそうであったように。
 本作は、911から50年後の近未来の世界で、老人が孫に人類の歴史とポップ・ミュージックの可能性ついて語るという壮大な物語形式が採られているものの、聴き終えた後、とにかく強烈に印象に残るのは、七尾旅人という表現者の純度の高さだ。アポロ11号の月面着陸、オウム真理教や阪神大震災や少年の猟奇殺人を仄めかすエピソード、あるいはレコードの歴史が引っ張りだされながら、ここには俯瞰の視点というものが入ってこない。フェラ・クティ、カーティス・メイフィールド、ボブ・マーリー、ジョン・コルトレーン、といった歴史的なミュージシャンへの言及においても、教科書めいた言葉は一切排除されている。音楽的に言えば、【disc2】⑨⑪のドラッギーなアシッド・フォーク、【disc3】②のエレクトロニック・ゴスペル・ソウルが特にユニークで、騒々しいノイズや執拗なループ、七尾旅人のどもりやエフェクトで拡張された分裂的な歌声は、ことごとく予定調和を破壊していく。ある種の世界への懐疑がこの作品の出発点にあるように思えるが、核にあるのは、90年代から00年代前半という困難な時代を生き抜いた七尾旅人の個人的物語であり、祈りであり、音楽への深い愛ではないだろうか。
 「表現とは、世界が自分を意味づけるのではなくて、自分が世界に意味づけを行うことだ。そうすることで、世界のなかにある自分を確かめてみる」とかつてかいたのは武満徹だったが、今、その言葉はまさに『911 FANTASIA』のためにあるように思える。 (MUSIC MAGAZINE⑨ 2012 二木信)


$縮まらない『何か』を僕らは知っている

七尾旅人、最後のレコード到着!?
人類最後のレコードが今、回り始める。
七尾旅人、最高傑作『911 FANTASIA』ここに完成。


3枚のディスクに収められたコンセプチュアルな物語がゆっくりと語り始める。
"アメリカ同時多発テロ事件から50年後の2051年9月11日"
20世紀生まれのおじいちゃんが孫にせがまれて話し始める昔話り。

物語の始まりを告げる1969、アポロ。
人類初の有人月面探査船、着陸成功。人類は新たなフロンティアへ足を踏み入れた。
強烈なファンタジーによって世界を制した米国。その虚像と嘘。
21世紀の到来。2001年9月11日。きたるもの。
それは真実?それとも?
増殖する幻。変わりゆく世界、そして日本。大きな虚ろと穿き違えた幻想。
平和の国に、とうとう現れた、戦前世代たち。
広がる荒野。冷えた荒野。

これは真実とファンタジーがごちゃ混ぜになった愛すべき物語。
うたと語りで七尾旅人の視点から切り取った過去、現在、そして未来。
いざゆかんや、彼方へ。

911 FANTASIA