第9234回「岩波グリム童話集 ―、白鳥王子128~129、名人四人兄弟 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第9234回「岩波グリム童話集 ―、白鳥王子128~129、名人四人兄弟 ストーリー、ネタバレ」

 第9234回は、「岩波グリム童話集 ―、白鳥王子 128、なまけものの糸くり女 129、名人四人兄弟 ストーリー、ネタバレ」です。


「―、白鳥王子」

 記憶を消された王子のために、結婚を約束した女性が魔法のアイテムを使って、王子の心をふたたび取れ戻すエピソードは、これまでにも何作にも紹介されています。それが、伝承童話の伝播過程を実感させてくれます。


 逆に現代の読者から見れば、エピソードの使い回しとも、童話の再構成とも受け取れる内容になっています。この童話も、訳者は前話「127、鉄のストーブ」のバリエーションとして捉えています。


 森の中にただひとり、少女ユーリア(ユーリアン)が佇んでいました。そこに急降下してきたのが一羽のスワンでした。「私は王子です、私にかけられた呪いを解くためには、この糸を切らずに持っていてくれることです。約束を守っていただければ、私はあなたを私の王妃としましょう」


 ユーリアは糸玉を持って、スワンがスムーズに飛べるようにします。しかし、白鳥に変えられたスワンが目的地に到着する直前に、木に糸が絡(から)まり切れてしまったのです。ユーリアは王子を求めて糸をたどります。最初に行き着いたのが、魔女と人食い鬼の館でした。


 ユーリアは泊めてくれと言うだけでなく、図々しくも上等なパンも要求します。「私の亭主は人食い鬼なのさ、ベッドの下に隠れて、朝早く出発しなさい」、しかし、ユーリアは鬼に見つかってしまいました。魔女は明日の朝食にしなさい、と亭主をなだめ、亭主が眠っている間に、ユーリアを逃がします。その時にくれたのが、黄金の糸繰り車でした。魔女は太陽だと名乗ります。


 二晩に出会ったのも魔女でした。月だと名乗るおばあさんは、黄金の紡錘(つむ)をくれます。さらに三晩目の星の魔女は、王子が他国の王女と結婚したことを教えてくれただけでなく、「パンとブタの脂身を持っていきなさい。途中で立ち塞がるライオンとドラゴンをこれで手なずけるんだよ」と言い、黄金の糸巻までくれます。


 早速、王宮の窓の下で、最初にもらった黄金の糸繰り車で糸を巻取ります。それを見ていたた王妃はその糸繰り車が欲しくなって、一晩ユーリアを王子の寝室の続き部屋で眠らせることにします。しかし、王妃に睡眠剤を盛られていた王子は、ユーリアの歌声が聞こえませんでした。


 二日目も、黄金の紡錘で王妃から条件を勝ち取りますが、やはり眠らされた王子の耳には届きませんでした。三日目、黄金の糸巻を渡すことで、王妃から王子の続き部屋で眠ることを了承されました。しかし、今夜は衛兵に頼み、王子には別の飲み物を飲ませてもらいました。


 ユーリアの歌声は王子の耳に入りました、そして、この人こそ、真のわが王妃であると確信した王子は、妃に問います。「古い鍵と新しい鍵がある、あなたならどちらの鍵を使う?」、王妃は古い鍵だと言います。「それでは、あなたに出て行ってもらおう」、かくして、白鳥王子とユーリアはめでたく結ばれました。


「128、なまけものの糸くり女」

 実にぐうたらな女房の物語です。糸繰りを生業(なりわい)とする夫婦がいました。ですが、この女房、家事だけでなく、生活の糧である糸繰り稼業も実に雑なことをしています。妻が糸を扱うと、糸が団子になってしまいます。さすがに亭主は細かく指示します。その改善策を講じるために、亭主が木に登っている時には、下からやる気をなくさせる発言を大声で叫びました。


 亭主の度重なる小言に妻は秘策を練ります。最終工程である茹(ゆ)で作業の仕上げを亭主に頼んだのです。「しっかり見ててね、見てないと糸が団子になるわよ」、亭主が引き継ぐと糸は団子になっていました。以後、自分の責任だと勘違いした亭主は何も言えなくなりました。一方、相変わらず女房はぐうたらな生活を続けています・・・・。


 「いいかね、こんなのは、それこそ、女の屑なのだよ」(金田鬼一訳)


「129、名人四人兄弟」

 本作は三人兄弟ではなく、めずらしく四人兄弟を主人公にした童話です。


 貧乏な家の父親は、四人兄弟が成長すると、手に職をつけるための旅に出るように告げます。そして、旅立った兄弟は、とある四辻に差し掛かります。「ここで別れて、各人自分の道を踏み出すことにしよう。そして、四年後、ふたたびここで会おう」、仲の良かった四人兄弟は、東西南北それぞれの方角に向かって進むことにしましした。


 長男が弟子入りしたのが泥棒、次男は天文学者、三男は狩人、末っ子は仕立て屋になりました。四年の歳月はまたたく間に過ぎ去ります。あの四つ辻で再会すると、それぞれがそれぞれの分野で最高水準の業師(わざし)になっていました。父親に技を見せますが、優劣つけられません。


 長男は誰にも気づかれずに盗み出すことができ、次男は何ものも見渡せる望遠鏡を持っており、三男はいかなるものも射落とせます。そして、末っ子は何ものも仕立て上げることのできる針技(はりわざ)を修得していました。たとえ壊れた物であろうと、生き物であろうと、針と糸とで復元可能です。


 そんな時に、国王の娘がドラゴンにさらわれたのです。「姫を救い出した者には、余の姫を与えよう」と触れが出されます。四人兄弟も、もちろん姫救出計画を立て、チャレンジします。次男が遠眼鏡でドラゴンの居場所を探し当て、長男がドラゴンから姫を盗みだしました。


 しかし、気づいたドラゴンが四人兄弟の乗る船に襲い掛かります。そのドラゴンを銃で仕留めたのが、狩人である三男でした。ですが、落下したドラゴンは船を大破させます。ここで活躍したのが、仕立て屋をしている末っ子でした。船を針と糸で復元し(つなぎあわせ)、無事港まで帰ることができました。


 困ったのは王でした。四人はそれぞれ、姫を助けだすことができたのは自分の手柄だと申し立てます。「よいよい、では、四人に王国の半分をやろう。仲良く統治するがよい」、かくして四人兄弟は王国の半分を手にしました。以降、四人兄弟は仲良く領国を治めたそうです。


(追記) グリム童話につきましては随時取り上げていく予定です。過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"グリム"と御入力ください。なお、番号はKHM(童話番号)です。