第8841回「梅原猛著、百人一語 その95、三島由紀夫、夕映えの海の不思議、海と夕焼、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第8841回「梅原猛著、百人一語 その95、三島由紀夫、夕映えの海の不思議、海と夕焼、ネタバレ」

 第8841回は、「梅原猛著、百人一語 その95、三島由紀夫、ただ、今もありありと 思ひ出すのは、いくら祈つても分かれ(割れ)なかつた夕映えの海の不思議である、海と夕焼、ネタバレ」です。この語は、短編「海と夕焼」のラスト部分です。前後を補って引用することにします。


 『 安里(アンリ)は自分がいつ信仰を失つたか、思ひ出すことができない。ただ、今もありありと 思ひ出すのは、いくら祈つても分かれなかつた夕映えの海の不思議である。奇蹟の幻影より 一層不可解なその事実。何のふしぎもなく、基督の幻をうけ入れた少年の心が、決して分かれようとしない夕焼の海に直面したときのあの不思議・・・・。


 安里は遠い稲村ヶ崎の海の一線を見る。信仰を失つた安里は、今はその海が二つに割れることなどを信じない。しかし今も解せない神秘は、あのときの思ひも及ばぬ挫折、たうとう分かれなかつた海の真紅の煌めきにひそんでゐる。


 おそらく安里の一生にとつて、海がもし二つに分かれるならば、それはあの一瞬を措いてはなかつたのだ。さうした一瞬にあつてさへ、海が夕焼に燃えたまま黙々とひろがつてゐたあの不思議・・・・。 』


 アンリはフランスの羊飼いの息子でした。ある日、キリストから啓示を受けます。「マルセイユの海が割れるであろう、渡って聖地を回復するのだ」、アンリは多くの少年を集め、マルセイユへ行きます。途中、ペストの蔓延のため、多くの少年が亡くなりました。


 わずかに生き残った少年たちはマルセイユで待ち続けました、海が割れる時を・・・・。しかし、海は割れませんでした。それを見ていたのが奴隷商人でした。少年たちをだまし船に乗せ、奴隷として売り払います。アンリを買ったのが、ペルシアの奴隷商人でした。


 さらに、東へと売り払われます。アンリにとって幸いだったのが、中国の僧侶・蘭渓禅師との出会いでした。禅師はアンリを奴隷の身分から解放します。禅師が赴くことになったのが日本の鎌倉でした。お供として渡り、寺男・安里として働きます。


 もはや、安里にキリスト教への信仰心はありませんでした。彼は聾唖の少年に語りかけます。そして、割れることのない海を見つめます・・・・(引用部分)。


 梅原氏は、この短編に神風が吹かなかった三島由紀夫少年期の哀しみを見ます。そして、生前は批判的であったが、「滑稽な死」を遂げた天才・三島由紀夫には同情すら感じる、と記しています。


 三島由紀夫につきましては、全集ではありませんでしたが、ほとんどの著作を持っていました(ブログにも少なからず取り上げています)。ですが、すべて処分しました・・・・。人生の最期にあたり、私に映る海と夕焼は、いかなるものなのでしょうか。


(追記) 梅原猛著「百人一語」につきましては、随時ブログに取り上げていく予定です。興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"梅原猛"と御入力ください。