第8047回「宮本輝著"本をつんだ小舟" その27、にごりえ 樋口一葉 ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第8047回「宮本輝著"本をつんだ小舟" その27、にごりえ 樋口一葉 ストーリー、ネタバレ」




 第8047回は、「宮本輝著"本をつんだ小舟" その27、にごりえ 樋口一葉 ストーリー、ネタバレ」です。「にごりえ」につきましては、今井正監督が映画化しています(写真はウィキペディアから引用)。感想とストーリーにつきましては、既に書いているブログから再掲させていただきます。


「その27、にごりえ」樋口一葉著

『 ある日突然死ぬ人の謎に  暗くやりきれない  世界の底の深さを感じる 』(宮本輝氏筆)


 「にごりえ」のラストは、お力という娼婦が刺殺されて終わっています。殺したのは源七というなじみ客でした。時代はまだ御維新から時代が経っていませんので、斬り傷から犯行を推定することは困難でなく、かつて武士だった巡査は無理心中だと断定しています。


 宮本氏は、ふと合意の上での心中ではないかと思い、母親に聞きます。ですが、母親にも確信はありませんでした・・・・。映画版で気になったのは、事件後、長屋の人々が源七の家をのぞいた時の反応です。過剰な反応をしていますが、何を見たかは描かれていません(原作にも特段の記述はなかったと思います。)。


 『 (映画化作品は、)樋口一葉の三中篇が原作です。名文なのですが、擬古文で書かれていますので、実際に読む人は少なくなっていくと思います。・・・・最終話「にごりえ」の意味ですが、短歌などにも使われていますように本来は「淀んだ入り江」を指しますが、転じて、娼婦街の意味に使っていると思います。


「第1章 十三夜」(略)


「第2章 大つごもり」(略)


「第3章 にごりえ」

 原文の朗読とともに、丸山福山町(本郷)の通りが映し出されます。両側には居酒屋が居並んでいますが、実質的には遊女街でした。その一軒"菊之井"が舞台です。その店で働いている酌婦のひとりが、お力(淡島千景)でした。あだっぽい姐さんです。


『 おい木村さん信さん寄つてお出よ、お寄りといつたら寄つても宜いではないか、又素通りで二葉やへ行く氣だらう、押かけて行つて引ずつて來るからさう思ひな、ほんとにお湯なら歸りに屹度(きっと)よつてお呉れよ、嘘つ吐きだから何を言ふか知れやしないと店先に立つて馴染らしき突かけ下駄の男をとらへて小言をいふやうな物の言ひぶり、


 腹も立たずか言譯しながら後刻に後刻にと行過るあとを、一寸舌打しながら見送つて後にも無いもんだ來る氣もない癖に、本當に女房もちに成つては仕方がないねと店に向つて閾をまたぎながら一人言をいへば・・・・ 』(青空文庫から冒頭部分を引用)


 土砂降りのため、酌婦たちは茶を引いていました。しかし、お力は客を引いてきたのです。朝之助(山村聡)は高等教育を受けながらも、働いていはいないと話します。ただ、金には不自由していないようです。漱石が描くことになる高等遊民であり、さらに後に永井荷風が実践したライフスタイルを実行している不思議な人物でした。


 お力は朝之助に魅かれますが、彼女には源七(宮口精二)という馴染がいました。源七は、かつては布団屋を経営していたのですが、自らのだらしなさのために、零落しており、長屋住まいとなっています。かみさん(杉村春子)と息子の三人暮らしです。


 お力は酌婦ながらも、売れっ子であるため、ある程度の自由は確保されていました。店の外でも、気軽に朝之助と会います・・・・。面白くないのが、源七でした。源七の怒りに火をつけたのが、かみさんとの口論でした。「出ていけ」、その一言が源七をある行為に追い込みます。


 ある夜、 お力の姿が見えません、若い衆が騒ぎます・・・・。翌日、お力と源七の遺体が発見されます。お力は背中だけでなく、逃げ出そうとしたところを斬りつけられたようです。一方、源七は切腹していました・・・・。「無理心中だな」、担当した官憲の所見です。


(蛇足) ラスト、源七が長屋から出てこないことに長屋の衆は騒ぎ出します。よびだされた元女房は戸を開きますが、中をのぞいた途端に愕然とします。長屋の衆も同じ反応を示していました。いったい何を見たのでしょうか。』


(追記) 「本をつんだ小舟」につきましては、あとわずかです。過去に書いたブログに興味がありましたらお手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"小舟"と御入力下さい。