第5109回「高倉健劇場、その9、あなたへ Ⅱ.ストーリー 富山、大阪、竹田、門司経由、平戸へ」 | 新稀少堂日記

第5109回「高倉健劇場、その9、あなたへ Ⅱ.ストーリー 富山、大阪、竹田、門司経由、平戸へ」

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 第5109回は、「高倉健劇場、その9、あなたへ Ⅱ.ストーリー、ネタバレ 富山、大阪、竹田、門司経由、平戸へ」です。


 この映画では、過去と現在が交互に描かれています。物語の発端は、NGO法人の女性が持ってきた二通の絵葉書でした。一枚には、ただ「ありがとう」とだけ記され、もう一通には「あなたへ 私の遺骨は 故郷の海に散骨してください」とかかれていました。


 亡き妻の洋子(田中裕子さん)は、生前にNGO法人に自らの遺志を託していたのです。富山刑務所で刑務官を勤める倉島英二は戸惑います。墓の準備をしていた倉島は、自分が全否定されているように思えたのです。


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 ですが、遺志は遺志です、とりあえず洋子の故郷である平戸行きを決意します。かつて、ふたりで退官後に旅行しよう考えていたワンボックスの改造車で・・・・。過去と現在が交錯する物語ですので、便宜上、洋子のエピソードを先に紹介させていただきます。


1. 童謡歌手・洋子の物語

 倉島が、洋子を知ったのは、毎年行われている慰問公演によってでした。最後の曲として洋子が歌っていたのが、宮澤賢治作詞・作曲の「星めぐりの歌」でした。倉島に強い印象を残します・・・・。しかし、この2年間、洋子は来ていません。


 そんな洋子を見かけたのは、富山刑務所が定期的に開催している矯正展の会場でした。倉島は話しかけます。「"自分"も受刑者も、洋子さんの歌を楽しみにしていました。慰問に来なくなったことには、理由があるのでしょうか」、答を期待せず、倉島はバス停まで見送ります。


 しかし、会場に戻ろうとした倉島に、洋子は答えたのです。「私が歌っていたのは、ただひとりのためでした。すいません」、愛する人が塀の中にいたのです。それを聞いた倉島には、その受刑者の最期が思い起こせます。あの男のためだったのか・・・・。


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 倉島と洋子の距離が一挙に縮まったのは、竹田城跡のイベントのことでした。少ない客の中、寂しそうに洋子は、「星めぐりの歌」を歌っていました。和太鼓演奏に移った段階で、倉島は洋子に声をかけます。「もう歌手はやめようと思うの」、洋子はそう答えます。


 ふたりは結婚します。それなりに幸福であり、それなりにお互いを尊重した夫婦生活でした。大阪に行ったこともあります。ふたりに大きな変化をもたらしたのは、洋子の発病でした。急性リンパ腫でした・・・・。


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2. 刑務官・英二の物語

 ここからは、映画の進行にあわせて書かせていただきます。殺人事件はありませんが、良質なミステリに仕上がっています。なぜ、亡き妻は散骨を望んだのか・・・・。「ありがとう」の余白にこめた洋子のメッセージとは・・・・。


「第1章 旅立ち」

 倉島英二は、ワンボックスの改造を済ませます。これまで世話になった上司の塚田(長塚京三さん)に、別れを告げます。退職願を託しますが、塚田は休暇届を出しておくと答えます・・・・。塚田の妻役として、原田美枝子さんが出演しています。短い出演ですが、存在感のある女優さんです。


「第2章 ダム・サイトにて:山頭火を愛する元教師」

 道の駅、ガソリンスタンドで二度顔をあわせたのが、杉野(ビートたけしさん)でした。埼玉からキャンピング・カーで来たと話しかけてきます。「キャンピング・カーと言っても、どこにでも泊まれるわけじゃないんだよ。ほんとに変な国だ」


 一緒に向ったのが、ダム・サイトにあるオート・キャンプ場でした。倉島のたてたコーヒーを飲みながら、杉野はしゃべります。杉野も妻をなくしていたのです。ひとくさり種田山頭火のエピソードを紹介した後、「教師やってたから、講釈っぽいけど、放浪と旅の違いって分かりますか」と聞いてきます。


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 ベルトリッチ監督の「シェルターリング・スカイ」でも、同じ問題提起が行われていました。杉野の答えは、明快でした。「旅には目的もあれば、目的地もある。終われば、帰る場所もある」、杉野は暗に帰るべき場所がないことを告白していたのです・・・・。


 翌朝、倉島が目覚めると、杉野は旅立っていました。ドアノブに一冊の本が掛けられていました。山頭火の句集でした。


「第3章 大阪にて:物産展の男」

 大阪に向かう途中の駐車場で、ひとりの男が倉島に声を掛けてきます。全国の物産展を回り、イカめしを売っている田宮(草彅剛さん)だと名のります。バッテリ切れだと思ったのですが、やはり自動車は動きません・・・・。大阪まで乗せてくれないかと、倉島に頼みます。


 倉島が了承すると、鍋をはじめ食材まで積み込みます。田宮は、倉島が断らないタイプの人間だと見抜いていたのです。しかも、仕込みの手伝いまで頼みます。相棒がまだ来ていなかったのです。倉島は気持ちよく手伝います。販売目標は2000食、難なく売り切ります・・・・。


 遅れてやってきたのが、年上ですが、田宮の部下に当たる南原(佐藤浩市さん)でした。3人は、居酒屋で打上げをします。その席で、田宮は、全国を移動する辛さをこぼします・・・・。田宮と南原は、次は門司の物産展に参加すると話します(伏線です)。


 彼らと別れた倉島が向ったのは、竹田城跡でした。亡き洋子との思い出の地です・・・・・。

 

「第4章 それぞれの門司」

 橋の見えるビューポイントで再会したのが、元教師の杉野(ビートたけしさん)でした。杉野の方から声を掛けてきたのですが・・・・。パトカーが駆けつけてきたのです。杉野は車上荒しで手配されていました。倉島も事情聴取を受けます。富山刑務所にも問い合わされます。久々に塚田と会話を交わします・・・・。


 杉野は教師ではありませんでした。あのダムサイトで交わした杉野との会話のどこまでが真実だったのでしょうか。倉島自身に被害はありませんでしたし、杉野のアドバイスは適切なものだっただけに複雑な気分にさせられます・・・・。


 事情聴取を終えた倉島は、物産展に顔を出します。田宮と南原が忙しく働いていました。今夜も、3人で飲むことにします。3人とも、ビジネスホテル泊まりです。酒に酔った田宮が荒れます。ホテルに帰りたくないと言い出した田宮が、家庭の事情を話し始めたのです。


 田宮の妻は、"男"を作っているという噂です。ですが、田宮は確認する勇気がありません。出張の多い今の仕事に対する不満も洩らします・・・・。南原は、田宮をビジネスホテルに連れ戻します。


 そんな南原が、平戸に向う倉島に一枚のメモを渡したのです。「散骨のための渡船に困ったら、この人に連絡すればいい。必ず力になってくれる」


 倉島は、あらためて、それぞれが抱える苦悩に気付かされます。自分だけでなく、杉野にも田宮にも、他人には言えなかった悩みがあったのです。ひょっとしたら、南原にも・・・・。


「第5章 平戸にて:散骨を嫌う地元漁師たち」

 1200キロの旅も、ついに終わりました。ついに平戸に来たのです。ですが、自分が散骨に同意しているかと言えば嘘になります。不決断は、倉島にも分かっていました。漁協にあたりますが、すげなく断られます。


 それを聞いていたのが、濱崎奈緒子(綾瀬はるかさん)でした。母親・多恵子(余貴美子さん)の経営している食堂の出前を手伝っていたのです。落胆した倉島が向ったのが、多恵子の食堂でした。台風が近づいています・・・・。 


 その夜、南原に教えられた大浦吾郎(大滝秀治さん)の家に行きます。船を出すように頼みますが、一蹴されます・・・・。今夜は、食堂の外に止めたワンボックスの中で眠ることにします。しかし、食堂の2階で寝るように申し入れたのは、多恵子でした。娘の奈緒子に呼びにやらせます。


 そして、多恵子は、倉島に亡き夫の話をします・・・・。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 多恵子(余貴美子さん)の夫は、漁師でした。漁師以外の仕事に手を出し、多額の借金をこしらえたました。その無理がたたったのでしょうか、海難事故で行方不明になりました。多恵子は、海難事故の場合、失踪から3ヶ月で死亡が認定されるとも話します・・・・(通常の失踪は7年で成立)。


 生命保険は、借金の返済で消え、わずかに残った金で開業したのが、この食堂だと・・・・、「バカなとうちゃん」。ですが、成長した娘の奈緒子(綾瀬はるかさん)の結婚も決まりました。大浦老人の孫の卓也(三浦貴大さん)が、その相手です。


 奈緒子は、倉島の散骨に協力しないのなら、結婚しないとも言い切っています。父親の海難事故が、奈緒子にそう言わせたのかもしれません・・・・。翌日は、台風一過で晴れます。倉島英二は、町を歩いている時、廃屋となった写真館のショー・ウィンドウに気付きます。


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 古びた写真には、それぞれの人生が写し出されていました。亡き妻の洋子が言いたかったのは、このことだったではないか、「人には、それぞれの時間の流れがある。あなたは、あなたの時間を生きて」、英二には、絵葉書はそのように語っているように思えます・・・・。


 大浦老人に再び会った時には、あれほど悩んでいた散骨の意思が固まっていました。会う前に、絵葉書も海に還しています(灯台の近くで、風に乗せています)。老人は、船を出すことを承諾します・・・・。


「最終章 平戸沖合いにて:散骨」

 船出する倉島に、多恵子は、娘のウェディングドレス姿を撮った写真を託します。「海に流してください。あの人にも、分かるように・・・・」、多恵子は洋子のための花束も用意していました。沖合いに出た漁船から、倉島は遺骨を握り、何度か海中に流していきます・・・・。


 花束も流します・・・・。しかし、流さなかったものがあるのです。多恵子から託された写真です・・・・。船に乗る前に、退職願を入れた封書をポストに投函しています。何か理由があるのでしょうか。


「エピローグ ふたたび門司にて」

 物産展は、まだ門司で開かれていました。南原(佐藤浩市さん)の携帯電話に着信音が鳴り響きます。倉島からでした。上司の田宮(草彅剛さん)に断り、倉島と会います。倉島は、無事散骨が終わったことを報告した後、あの写真を取り出します。多恵子の夫(=奈緒子の父親)は生きていたのです。


 倉島は言います。「刑務所では、外部の人間に情報を流すことを"鳩を飛ばす"と言います。"自分"の今やっていることは、まさしく、鳩を飛ばすことです」、刑務官のケジメとして、倉島は退職願を郵送したのかもしれません。


(蛇足) 降旗・高倉作品の数作は、意図的に主人公の名前を"エイジ"としています。


(補足) 写真は、"goo映画"から引用しました。


(追記) 高倉健主演作品については、今後重点的に取り上げていく予定です。興味がありましたら、お手数ですがブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に、"高倉健劇場"と御入力ください。