第4871回「名探偵ポワロ中短編、その32、ヒッポリュトスの帯、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険) | 新稀少堂日記

第4871回「名探偵ポワロ中短編、その32、ヒッポリュトスの帯、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)

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 第4871回は、「名探偵ポワロ中短編、その32、ヒッポリュトスの帯、ネタバレ」(ヘラクレスの冒険)です。ヒッポリュトスとは、アマゾネスの女王です。ウィキペディアから引用します。


 『 ヘラクレスはアマゾーン(アマゾネス)との戦いになると考え、テーセウスらの勇士を集めて敵地に乗り込んだが、交渉したところ、アマゾーン女王ヒッポリュテー(ヒッポリュトス)は強靭な肉体のヘラクレス達を見て、自分達との間に丈夫な子を作ることを条件に腰帯を渡すことを承諾した。


 ところがヘラ(ゼウスの妻)がアマゾーンの一人に変じて「ヘラクレスが女王を拉致しようとしている」と煽ったため、アマゾーン達はヘラクレスを攻撃した。ヘラクレスは最初の甘言は罠であったと考え、ヒッポリュテーを殺害して腰帯を持ち帰った。 』


 初期の007シリーズを撮ったテレンス・ヤング監督は、この伝説をベースに映画「アマゾネス」を演出しました。冒頭のDVDのジャケット写真は、2年前にブログで取り上げた際に使ったものです。http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10456939600.html


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「ヘラクレス第9の功業 ヒッポリュトスの帯(アマゾネスの女王の腰帯)」

 今回の依頼者は、画廊店主のアレクサンダー・シンプソンです。新発見のルーベンスが盗まれたと言うのです。ポワロは乗り気になれません、ルーベンスが嫌いだったからです。盗難の経緯は、実に巧妙でした。画廊の外で失業者のストを演出し、その混乱に乗じて、絵を盗み出したのです。


 絵画そのものは小品でした。額縁から切り取って持ち出したのです(乱暴です)。シンプソンの話では、フランスに盗品などを積極的に集めている大富豪のコレクターがいるとのことです。彼の手に渡れば警察も介入できない、だから、ポワロの知恵を借りたいと・・・・。


 乗り気でないポワロを動かしたのは、ジャップ主任警部でした。フランスの列車内でひとりの女子学生(15歳)が消失したと言うのです。美人ではありません。ジャップ警部は断言します。「この年頃の女の美醜はあてにはなりません。最近ミス・イギリスになった女性に15歳の時に会っていますが、この少女のように不細工でした」、ジャップのこの発言は大きな伏線になっています。


 ウィニー・キングという女子生徒は、国教会系の女学園に通っています。18人の生徒と共に、パリに留学する際に列車内で"消失"したのです。専攻は、絵画です。特徴としては、ほっそりした体形に、歯列矯正器をつけた"めがね娘"でした。ところで、消失の仕方が実に摩訶不思議だったのです。


 カレーからパリに向う最後尾車両に乗った19人の生徒たちは、たった一箇所の途中下車可能なアミアンでは誰も降りていないことが確認されています。食堂車で食事を済ませた後、しばらくウィニーの失踪には気付きませんでした。彼女が最後に目撃されたのは、食事を終えトイレに入るところでした・・・・・。


 ジャップ警部は言います。「盗まれたルーベンスをパリに探しに行くんだろう? ついでに、この事件を調べてくれないかな」、食えないオヤジです。ですが、その直後にウィニーがアミアンの近くで保護されたとの連絡が入ったのです。


 ですが、ポワロは納得していません。ルーベンスの件をひとまず置いて、ウィニー失踪事件の線を追い続けます。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 警察の捜査では、ウィニーが最後に目撃されたのは、アミアンを過ぎて直後のことでした。それ以降は、若干スピードを落としたものの、走行中の列車から飛び降りましたら、軽傷ではすみません。どのようにして、ウィニーを連れ出したのでしょうか。最大の謎です。


 生徒たちが乗っていた最後尾車両には、他に数人の乗客が乗り込んでいましたが、身元はしっかりしています。独身女性二人に、ビジネスマンがやはり二人、そして若い夫婦者と言ったところでしょうか。その妻は派手に着飾っていました。警察は、彼らの手荷物を検査していますが、目ぼしいものは発見されていません。


 ポワロが警察に確認したのは、アミアンの近辺で靴が落ちていなかったということです。何か意味があるのでしょうか。保護されたウィニーからは、注目すべき情報は得られませんでした。拘禁中、麻薬によって昏倒させられていたのです。


 学園でも大騒ぎになっており、校長のミス・ホープも今回の事件には気をもんでいました。その校長の部屋を、ポワロが訪れたのです。校長室には、有名になった多数の卒業生の写真と共に、生徒が制作した絵画なども掛けられていました。


 ウィニーの下手な絵も掛けられていました。失踪時、カバンの中に、校長へのプレゼントとして入れられていたものです。失踪した際に、生徒たちの私物も検査されています。その時に発見されたのです。フランチェスター橋が描かれていました。ポワロは、ミス・ホープと話しながら、せっせとテレピン油で油絵の表面を拭い始めます・・・・。


 もちろん、ミス・ホープはポワロの異常な行動にあ然とします。「この絵は、この学園には相応しくはありません」、拭い終わると下から現われたのはルーベンスの絵でした。「ヒッポリュトスの帯」をモチーフとしていました。ヘラクレスに腰帯を解かれたアマゾネスの女王は、全裸でした・・・・。


 では、ウィニーは走行中の列車から、どのようにして消えたのでしょうか。ポワロは断言します。「ウィニーは、最初からパリ行きの列車には乗っていなかったのです。替え玉が、歯列矯正器とメガネを着用し、ウィニーに扮しました。そして、トイレに入った際に、派手な衣類に着替え、妻の役を演じたのです」、ジャップ刑事が言っていたように、"この年頃の女性"は目立たないのです・・・・。


 校長室を辞したポワロを取り囲んだのは、学園の生徒たちでした。「ポワロさん、サインをください!」、この学園もアマゾネスでした・・・・。


(蛇足) ポワロは、ジャップ警部から靴が落ちていたことを報告されています。学園の制服でも良かったと思うのですが、靴だけでは、直接替え玉説には結びつかないと思うのですが・・・・。短編ですので、詮索は野暮かもしれません。


(追記) 「ヘラクレスの冒険 全12編」は、スーシェ主演ではドラマ化されていません。なお、名探偵ポワロ・シリーズについて、過去に書いたブログに興味がありましたら、お手数ですが、ブログトップ左側にあります"ブログ内検索"欄に"名探偵ポワロ"と御入力ください(ポ"ア"ロでは、一部しか検索できません)。