第3168回「ラヴクラフト全集、その22、狂気の山脈にて、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3168回「ラヴクラフト全集、その22、狂気の山脈にて、ネタバレ」

新稀少堂日記

 第3168回は、「ラヴクラフト全集、その22、狂気の山脈にて、ネタバレ」です。ジョン・カーペンター監督作品に、「遊星からの物体X」(※)というSFホラーがあります。南極大陸を探検中のアメリカ・チームは、氷中に埋もれた巨大宇宙船を発見します。それが、惨劇の始まりだった・・・・、という展開です。


 原作は、ジョン・W・キャンベルJrの「影が行く」(1938年)です。原作の邦題の方が素敵なのですが・・・・。今読み直しますと、明らかにラヴクラフトの「狂気の山脈にて」(1931年)に、インスパイアされた作品だと思われます。初出の雑誌も共通しています。


 この中篇は170ページほどありますので、短めの長編とも言うべき作品です。冒頭は、快調な滑り出しなのですが、途中から実に冗漫な記述となっていきます・・・・。便宜上、部とサブタイトルを付します。


新稀少堂日記


「第1部 レイク探検隊の潰滅編」

 アーカムのミスカトニック大学(架空)は、南極大陸に調査隊を派遣します。"わたし"は、その調査隊長です。ここに紹介する物語は、第2次調査隊の派遣を阻止するためのものです。"わたし"は何を目撃したのか、・・・・。大発見は、レイクの別働隊からもたらされました。南極の山脈中に超古代文明の遺跡を発見したというのです。


 発見は、それだけに止まりません。古代生物の遺体も、氷中に閉じ込められていたと連絡してきます。このニュースは、世界中を駆け巡ります。これこそ、世紀の大発見です。レイクは、遺体を解剖すると言います。しかし、その連絡以降、レイクからの無線は途絶えます。


 "わたし"は、現地に赴きます。レイクが無線連絡してきたとおりの遺跡が拡がっていました。ベース・キャンプにたどり着くと、発掘遺体は消失していますし、レイク別働隊が全滅していました。レイクの最終報告では、イヌたちが、発掘遺体を極端に嫌っていたとのことです。イヌも殺されていました。


 惨殺の状況からみて、レイクの隊員も、イヌたちも食用として食い散らされたことが分かります。一体何ものが殺したのでしょうか。"わたし"とダンフォースは、遺跡に向かいます・・・・。ダンフォースは、ミスカトニック大学所蔵のラテン語訳「ネクロノミコン」を読破した稀な人物です。狂気のアラブ人、アブドラ・アラハザード(アルハズラット)が記した奇書です。ダンフォースは、今回の探検をポーの「アーサー・ゴードン・ピム」と比較します・・・。


「第2部 遺跡及び洞窟内での発見編」

 "わたし"の専攻は、地質学です。遺跡及び洞窟には、年代史ともいうべき壁画が多数残されていました。描いたのは、地球に飛来してきた"旧支配者"です。樽型のボディに、五芒星の頭をしています。先カンブリア紀に飛来しました。その後、地球を支配し続けることになります・・・・。


 旧支配人は、自らの手足として、巨大な原形質体とも言うべき"ショゴス"を作り上げました。5メートル近い、不定形の生物です。旧支配者は、言語を教え、飼いならしたのですが、時にショゴスは反乱を企てています。その間にも、旧支配者以外のエイリアンが多数地球にやってきています。排除しつつも、時に敗れています・・・・。


 それらが、壁画にすべて描かれていました。"わたし"は、写真を含め記録をとり続けます。そして、洞窟内で、レイクのキャンプから持ち去られた旧支配者の発掘遺体を発見したのです。動くものとしては、巨大な脱色したペンギンだけです。ですが、おとなしい生きものです。レイク別働隊を皆殺しにし、旧支配者の遺体を持ち去ったものは、何ものだったでしょうか。


「第3部 闇に潜むもの」

 洞窟内を、懐中電灯だけを頼りに、下り続けます。次第に不愉快な臭いが増していきます(ラヴクラフトは、恐怖表現として、異臭を多用しています)。洞窟内にいる巨大ペンギンが、パニック状態の泣き声を挙げます。もはや、これ以上進むことは、危険すぎます。引き返すことにしますが・・・・。


 洞窟内を、「テケリ・リー、テケリ・リー」という泣き声がこだまします。"わたし"とダンフォースは、レイクのキャンプ地に置いてきた飛行機目指して駆け出します。ペンギンの脅えた鳴き声も、こだまします。これまでの経験を通じて、ダンフォースの精神は、既に壊れています・・・・。


 それに追い打ちをかけたのが、追いかけてくるものを目撃した時です。"わたし"たちは、不定形のゼリー状の物体を目撃します・・・・。それこそ、旧支配人が作ったショゴスだったのです。"わたし"とダンフォースは、間一髪で逃げ切ります・・・・。


 数々のラヴクラフト神話が盛り込まれています。ただ、ラヴクラフト神話は、「ネクロノミコン」などを除いて、相矛盾した体系となっています。ラヴクラフトにとっては、当初から体系的に書くつもりはなかったと思います。雑然とした恐怖体系でいいのではないでしょうか。


(追記1) ジョン・カーペンター版「遊星からの物体X」につきましては、既にブログに書いています。

原作「影が行く」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10297011092.html

映画「遊星からの物体X」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10211645687.html


(追記2) 南極を舞台とした小説としては、ロビンソンの「南極大陸」がオススメです。

「その1、感想」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10408342597.html

「その2、ストーリー」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10408579040.html

「その3、ネタバレ」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10409077138.html