第2828回「隠し砦の三悪人 その2、ストーリー、ネタバレ 黒澤明監督作品」(1958年) | 新稀少堂日記

第2828回「隠し砦の三悪人 その2、ストーリー、ネタバレ 黒澤明監督作品」(1958年)

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  第2828回は、「隠し砦の三悪人 その2、ストーリー、ネタバレ 黒澤明監督作品」(1958年)です。オープニング・タイトルから始まり、画面は荒野を映し出します。ふたりの雑兵(ぞうひょう)が歩いています。武具は着ていません。ふたりは、さかんにお互いをののしり合っています。


 そこへ、ひとりの落武者がやってきます。すぐに数騎の騎馬が、落武者を取り巻き斬り捨てます。そのまま、ふたりの雑兵を無視し、立ち去ります。ひとりの雑兵は立ち去りますが、もうひとりの雑兵は、殺された落武者の鎧兜を剥ぎ取ります・・・・。ふたりは、そのまま別かれて、別々の道をたどります。


 そのまま立ち去ったのが太平(千秋実)、鎧を剥ぎ取ったほうが又七(藤原鎌足)です。又七は、「秋月の雪姫を捕えたものに金10枚、密訴したるものに3枚」と書かれた高札を、通行人に読んでもらいます。もともと、又七も太平も、百姓だったのですが、一旗上げるために合戦に参加したのです。ですが、参戦する前に、負け戦でした。


 町では、人足狩りが行われています。又七も狩り出されます。一方、太平も人足狩りの網に引っかかります。こうして、別れたはずのふたりは、再び出会うことになったのですが・・・・。強制人足の仕事は、滅亡した秋月が隠匿している黄金200貫です。大判換算では、5000枚になります。


 夜間、人足たちが暴動を起こします。こうして、ふたりは、自由の身になります。河原で飯を炊いている時に、事件が起きます。薪の燃えが悪いのです。又七が薪を投げ捨てると、金属音がします・・・・。薪の中に、金が隠されていたのです。秋月の金です。そこに、ひとりの男がやってきます。仁王立ちで、ふたりをみつめます。


 夜、ふたりが寝ようとすると、再び男がやってきます。男は聞きます。なぜ、こんなところにいる、と男は聞きます。ふたりは、「旧秋月領から早川領に逃げようと思っても、秋月を滅ぼした山名が国境を固めている。一旦は、秋月から山名領に入り、山名領を通り抜け、早川領に入れば、警備も薄かんべ」(要旨) 雑兵たちの言い訳であるのは見え見えですが、男にはアイデアが浮かんだようです。


 自ら、真壁六郎太(三船敏郎)と名乗る男は、秋月の侍大将だったのです。真壁の計画は固まりました。雑兵の言うように、山名領に入り、そこから同盟関係にある早川領に逃げ込む・・・・。しかも、太平と又七を使って、御家再興の金を運ばせる、これ以外に策はありません。御家再興に欠かせないのが、世継です。秋月家には男子は生まれませんでした。雪姫(上原美佐さん)こそが、後継者だったのです。


 真壁は、他にも策を用いています。妹の小冬を、雪姫だと称して、山名に突き出していたのです。当然、小冬は、打ち首になっています。雪姫は、そのことを聞き、激怒します・・・・。一方、200貫の金を運ぶ馬3頭も確保しています。金は、薪の中に隠しています。金の運搬方法としては、最高の秘匿手段です。


 プライドの高い雪姫を、"おし"に擬装させます。姫の反発が予想されましたが、以外にも、姫は了承します、姫にも、状況は痛いほど解っていたのです。こうして、3人の男と1人の女の敵中突破が始りました・・・・。しかし、男ふたりは、金に対する欲だけが動機です。いつ裏切ってもおかしくありません。これから幾多の障害が待ち受けています。以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります。


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 山名領との国境には川があり、長大な橋が架かっています。六郎太は、3人(雪姫、太平、又七)を残し、偵察に出ます。太平と又七が、最初の裏切り行為を行います。"おし"の雪姫をあなどり、ふたりは、金を積んだ馬ごと逃げ出したのです・・・・。


 ですが、国境警備は意外に厳重でした。ふたりは、銃撃され逃げ帰ります。六郎太が戻ると、雪姫は、馬をひいて戻ってきます。六郎太は、ふたりの裏切りを知ります。そのふたりも、元の場所に戻ってきます。六郎太は、関所通過を決意します。4人の男女と3頭の馬は、関所役人の前に進み出ます・・・・。


 その時、六郎太は、秋月の隠し金を見つけたと、一本の金塊を役人に見せたのです。役人は、金塊を取り上げた上、早々に立ち去れと命じます。しかし、金を戻さぬなら、報奨金を寄こせと六郎太はわめき散らします・・・・。無事、六郎太の機略で、国境を越えたのです。


 一方、隠し砦から、火の手が上がります。秋月残党の陽動作戦ですが、山名側も、姫は生きているとの確信を得ます。警護を固めるようにとの急使の報せに、関所役人は青くなります・・・・。


 一行は、宿場に泊まります。3頭の馬に目を付けた侍が、買いたいと申し出ます。侍の要請を断るわけにはいきません。しかし、これで馬はなくなりました・・・・。旅籠では、秋月の村娘が女衒に売られていました。雪姫は、見るに見かねて、六郎太に買い戻すように指示します。六郎太は、姫の願いを聞き入れます。


 一行は、村娘が加わり5人となります。大八車に薪を積んでいますが、その横を山名の騎兵が通ります。男女4人と馬3頭の一行を見なかったかと、尋ねます・・・・。偶然馬を売ったことが、目くらましになったのです。ですが、一行の前に新たな障害が立ちふさがります。山名の猛者"槍の田所兵衛"(藤田進)です。


 山名の兵たちが見守る中、六郎太と兵衛の一対一の長い闘いが始まります。演出に工夫が凝らされているのですが、ただ長いというのが実感です。むしろ、この闘いに入る前、六郎太は、馬にまたがり数騎の兵士を斬り捨てています。手綱をはずしての戦闘シーンは、見事です。


 六郎太は、兵衛を打ち負かします。首を差し出す兵衛に、また会おうと言い残し、六郎太は去ります・・・・。これが、大きな伏線になっています。画面は変わります。雨が降っています。買出しに出た村娘は、村で雪姫のことが話題になっているのを聞きます。姫にかけられた賞金は生きていたのです。急いで一行の元に帰ります・・・・。


 六郎太たちは、雨宿りをしています。と言っても、雨をさえぎるものはありません。雪姫は雨をしのぎ、眠っています。いつしか、雨がやみます。六郎太は偵察に行きます。残った太平と又七は、姫に欲情し、クジをつくり、引きます・・・・。そこに帰ってきたのが、村娘です。村娘は激怒します。不貞腐れたふたりは、奇妙な人声に気付きます。


 火祭りの一行が、掛け声をかけながら、山に向かっていたのです。ふたりは、祭りの群れに加わることを姫に提案します。一方、六郎太は、山名の兵士たちが「火祭りは、一行を誘い出すための格好のおとりだ」と話しているのを聞きだします。しかし、すでに雪姫たちは、火祭りの一団に紛れ込んでいたのです。


 祭りの群れの周囲を、山名の兵士たちが取り囲んでいます。火祭りが始ります。脱出を試みようとするのですが、兵士たちが監視しています。火祭りの連中が、大八車の薪も燃やせと言います。言い争うのを兵士たちも気付きます。ここで、合流した六郎太が、「車もろとも、燃やせ」と指示します。


 火祭りのシーンは、この映画最大のクライマックスかもしれません。六郎太も、姫も、太平たちも踊り狂います・・・・。一夜明けた後、一行は焼け跡を掘り返しています。融けた金を回収していたのです。ですが、馬も大八車もありません。5人が、背負子に担げる金しか、持ち出せません。

 

 山では、山名勢の山狩りが行われています。ですが、欲にかけては人一倍の太平と又七は、六郎太の命令を無視し、残りの金を回収しに戻ります。兵士ふたりは、太平たちを追いかけます・・・・。しかし、立ちはだかった六郎太に簡単に捕まります。人足がふたり増えたのです。早川領までは、後一歩です。


 ですが、多勢が、一行を襲います。捕虜のふたりは、味方に撃ち殺されます。村娘は、自らおとりとなり、敵勢に向かって走っていきますが、撃たれます。六郎太と雪姫は、村娘を救います・・・・・。一方、太平と又七は、逃げ延びます・・・・。かくなる上は、雪姫を密訴しようとの魂胆です。ですが、雪姫たちは、黄金ともども、捕まっていたのです。


 捕まった六郎太たちを首実検だと称し、兵衛(藤田進)がやってきます。六郎太、雪姫、村娘の3人は、縛られています。入ってきた兵衛以外には誰もいません。兵衛は灯りの中に入って来ようとはしません。灯りの元に立った時、兵衛の顔には、20センチほどの深い傷があったのです。当時の特殊メイク技術を考えますと、実によくできています。


 主君に、おめおめと生き恥を晒してと、万座で罵倒され、顔面を傷つけられたのです。雪姫は、山名の主君を罵ります。しかし、自分の死は覚悟しているとも言い切ります。「この数日は、実に楽しかった。城では味わえぬ面白さであった。特に、あの火祭りは・・・・」、姫は祭りの歌を唄いはじめます・・・・。


 翌日、4頭の馬に黄金が乗せられ、雪姫たちは、刑場に向かおうとしています。兵衛は、関所の階段に腰を下ろしています。雪姫が、兵衛を振り返り、見つめます。六郎太も振り返ります。おもむろに、剣舞のように、兵衛が火祭りの歌を唄いだします。黄金を積んだ4頭の馬の向きを変えさせ、馬の尻を叩きます。馬は、早川領目指して駆け去ります。


 兵衛は、槍先で、六郎太たちの縄を斬ります。山名勢を牽制します。もともと、兵衛は武勇の人だったのです。「裏切り御免」と声をかけ、六郎太たちの後を追います。無事、早川領に入ったのです・・・・。画面は変り、太平と又七が、街道で寝転んでいます。そこに、4頭の馬がやってきます。黄金は、太平たちの元に戻ってきたのです。しかし、ふたりは、またいさかいを始めます。


 喜びは束の間だったのです。早川勢に捕まったのです。あれほど喧嘩していたふたりは、牢内で、あの世では仲良くしようなあと、しみじみと語り合っていたのですが・・・・。白洲に引き出されたのです。女を中央に、右に甲冑姿の六郎太、左に兵衛が座っています。「面を上げえ」の言葉に顔を上げたふたりですが、判別がつきません。


 「おし娘を忘れたか」、雪姫たちは立ち上がり、縁側に出てきます。能を思わせる演出です。太平たちは、ただ「ははっ」と言うばかりです。六郎太は、扇子に一枚の大判を載せ、「あの黄金は、秋月家再興のためのもの。姫も、この六郎太も自由に出来ぬ金。これで許せ」。姫は付け加えます。「喧嘩ばかりせず、仲よう分けよ」


 ふたりは、城を去ります。「完」が表示されます。多数のエキストラといい、オープン・セットといい、エンターテインメント作品に徹しながらも、黒澤監督の完璧主義が生きている映画です。