本日朝刊にセンセーショナルな記事が掲載されました。

 真宗大谷派の総本山である東本願寺が研修施設で働く僧侶に時間外手当を払っていなかったというものです。

 

 ここで問題となるのが僧侶は「労働者」なのかという問題です。

 

 労働契約法,労働基準法上の労働者とは,使用される者で賃金を支払われる者を意味します。

 ここで「使用」とは,①仕事の依頼等への諾否の自由の有無, ②業務遂行上の指揮監督の有無,③勤務時間・勤務場所の拘束性の有無,④他人による代替性の有無を基準として判断されます(水町・労働法)。

 今回の件でいえば,僧侶であっても上司の命令で仕事をしていたという事情があるようですから「使用」に該当します。その結果,労働基準法が適用され残業代の支払いが必要になってしまいました。

 

 もっとも,本問題の難しさはここからです。高僧になるためには太古の昔から修業が必要になります。また,僧侶特有の職務があります。このような宗教的な観点に対する配慮をすべきではないかということです。この問題については解決する糸口はありません。法律を厳密に適用すれば修行かどうかは無関係の問題になってきます。法律的な視点で考えれば残業代を支払うことになるのです。

 

 それではこのような事態を回避できないのでしょうか。この問題については受け止める側の心の問題です。やらされているというのではなく自発的にやっているという状況であればこのようなトラブルは生じません。結局は寺院と僧侶の信頼関係の問題です。信頼関係の前では法も無力なのです。

 このような問題が減ってくれることを祈るばかりです。

 

                       弁護士 西口 竜司(龍章)