佐藤「日本王者クラスにキッチリ勝つのが、僕」(K-1)

病気で倒れた山本優弥の代役として、8・14『Krush』後楽園大会で、名城裕司と対戦することになった佐藤嘉洋。男気を見せた佐藤に、7・5MAX世界FINAL16の山本優弥戦を振り返ってもらいながら、緊急出場を決めたKrushへの思い、世界FINAL8への抱負を語ってもらった。
63kg級にナメられたらイカンな
--MAX世界FINAL16では、山本優弥選手を下し、見事にFINAL8への進出を決めました。過去に一度、勝っているとはいえ、厳しい相手だったといってもいいでしょうね。
佐藤 すごいピリピリした試合だったし、意地と意地の張り合いでしたね。
--5年ぶりに闘ってみて、優弥選手の印象は変わりましたか?
佐藤 基本的に優弥は、前からK-1向きのスタイルだったんで。基本的なものは変わってないですけど、打たれ強くなっていましたね。
--直前で作戦を変えたみたいですね。
佐藤 元々、城戸戦からパジョンスック戦まで、1R目は外していたんですよ。2R目から、グッと入る(懐に入る)作戦だったんですけど、世界のトップに勝つには、1R目から2R目と同じ距離で闘わないといけないと思うようになってきて。それで、今回、直前に作戦を変えたというか、ちょっとした心境の変化があったんです。
--つまり、リスクを覚悟で前で勝負をかけたということですね。どんな心境の変化だったのでしょうか。
佐藤 -63kg級のトーナメントで、いい試合が続いていましたからね。あんまり、僕がこういうことを言うのは好きじゃないですけど、70kgをナメられたらイカンなって。
---63kg級の選手は、必死でしたからね。大会を盛り上げて、その上で勝たなくてはいけませんから。
佐藤 ここで、俺が薄っぺらい試合をしたら、ナメられると思いました。彼らが日本レベルならば、こっちは世界レベルを見せないといけませんからね。

世界FINAL8は「乙君でいいですよ」
--世界FINAL8は、まだ出場選手が揃っていませんが、気になるファイターはいるのでしょうか。
佐藤 決勝トーナメント一回戦の相手は、俺、乙君(長島☆自演乙☆雄一郎)でいいですよ。
--また波紋を投げかけますね(笑)。“俺、乙選手でいい”は、色々と言われそうです。
佐藤 でも一人は日本人が残るし、主催者的にも、いいんじゃないですかね。僕が負けたら、罰としてコスプレして記者席の方に座りますよ(苦笑)。
--逆に受け取れば、かなりの自信ということになりますが。
佐藤 ジダ戦を少し見た限り、慎重かなと思いましたけど、世界を相手に連続で1RKO負けを喫していたことを考えれば、次はもっと自分のスタイルが出るんじゃないですかね。
--魔裟斗さんが引退された今、世界を獲るのは佐藤選手じゃないかと期待されています。
佐藤 毎年、毎年、期待を裏切って、大事なところで負けているんですよね。今回の優弥戦も、これまでの佐藤嘉洋ならば、負けていたかもしれない。それでも、優弥との大事に試合に勝てたというのは、一皮剥けたんじゃないかなと思っています。
--大きな自信になったと。
佐藤 はい。自信にはなりましたね。でも世界に関しては、毎年、今年こそって言ってますけど、5年やって、獲れないならダメなんじゃないかなって。そういう危機感はありますよ。獲れなかったとしても辞めることはないですけど、無冠の帝王のまま、世界と善戦するつまらないファイターで終わってしまう。それだけは嫌なので。三度目の正直はダメだったので、五度目の正直で…。でも明らかに、三度目の時よりも、確実に進化しているので、自信はあります。
--三度目の挑戦が、魔裟斗さんとの激闘でした。あの時は、モチベーションが高かったと思います。
佐藤 でも、優弥戦も同じようにテンションが高かったですよ。次は、ラストチャンスのつもりで闘います。

ペトロシアンは「強い、巧い、早い」
--現世界チャンピオンは、ペトロシアン選手です。彼の印象は。
佐藤 強い、巧い、早い。
--牛丼みたいですね(笑)。
佐藤 ですね(笑)。
--みんな彼を目標にしていると思いますが、弱点はあるのでしょうか。
佐藤 会長は、作戦通りに闘えば勝てるって言っているので、それならば本当に勝てると思っています。
--ああいう選手は、トーナメントで闘うならば、どこで当たるのがいいのでしょうか。
佐藤 決勝戦ですかね。お互いに消耗して、あとは根性勝負に持ち込めば、いいのかもしれません。でも、どこで当たってもやっかいですよ。一回戦で当たりたくないのは事実ですけど。
--今年の世界大会は、佐藤選手が中心に回っていくような気がします。
佐藤 ホントですか!? 昨年は、僕を中心に回るはずのトーナメントで期待を裏切っちゃったんで…。もう、あんな思いはしたくないですね。自分自身の信頼も落ちちゃったんで。でも、また一から体を練り直して、コツコツと信頼を積み重ねていって。周りからの評価も、一つひとつ勝って、取り戻したいですね。

自分の弱さに気付いた。ドラゴには感謝
--気持ちを切り替えられた理由は、何かあったのでしょうか。
佐藤 やっぱりプロなので、期待してもらえるというのが、ファイトマネーの対価だと思っています。より期待されなければ、ファイトマネーも安くなっていくと思っているし、生活もできなくなる。恩返ししたいと思っていても、お金がなければしたくてもできないじゃないですか。
--そうですね。
佐藤 少し前に、プロゴルファーの横峯さくらさんが、宮崎県に賞金を寄付したと聞きました。凄いなと思うけど、その恩返しができるのは、自分が活躍してお金を稼いでいるからですよね。だから自分も稼がないと、恩返しもできないなって。
--今後は、どんな目標を立てているのでしょうか。
佐藤 会長が、ここから2、3割は、実力を上げていけって言うんですよ。ここからですか!?って答えたら、簡単だよって言うわけですよ。だから、あと2、3割、実力を上げてペトロシアンに勝てるように仕上げます。今の進化のスピードならば、あと2、3割はいけるんじゃないかと思います。
--その言葉をそのまま信じる佐藤選手は、素晴らしいですね。
佐藤 でも、今でも試合前のシャドー中に、閃きがあるんですよ。あ、これこうしたら、よくなるんじゃないかとか。それが、どんどん閃いてきて…。ダニロ戦の前の時くらいから、ペトロシアンの試合のビデオを観て、ディフェンスをやり方を考えてみたり。優弥戦のレバーブローは、その前に闘ったパジョンスック戦で、偶然に出したコンビネーションだったし。城戸君の時は、右の感触が良かったですね。いろいろと閃きがあるんです。佐藤嘉洋は晩成型じゃないのかなって。まだまだ強くなるだろうなって、思っています。だから、ドラゴには感謝していますよ。あれに負けてから、ホントに変わりましたから。
--昨年の世界FINAL16では、ドラゴ選手に負けてしまいました。あのショックで革命が起こったのですね。
佐藤 優弥戦が終わった後も、10ラウンドくらいは闘えそうな気がしました。それだけ練習をしてきていますから。KOで倒れてもおかしくないパンチが何発も入っていたんですけどね。会長には、ワンツーの打ち下ろしが甘いと言われました。だから、まだまだ強くなれるということです。

乙君は世界中、どこでも注目される
--SHOWTIMEでも試合をされていましたが、70kg級の選手のレベルが高いと感じていますか?
佐藤 いや、MAXと比べて、そんなに変わらないですよ。むしろ、MAXに出ている選手の方が、ファイティングスピリットがありますね。SHOWTIMEは途中で弱気になる選手もおったし、試合を投げ気味にする選手もいますから。ペトロシアン、サワーたちとは役者が違う感じは受けましたね。
--ほとんどがMAXに出ていますから、まだ出ていない選手に関しては、差があるという認識なのですね。
佐藤 僕の中では、今のクラウスはサワーよりも強いという評価です。この3人が世界トップ3ですね。
--欧州でも活躍されている佐藤選手ですが、ここに自演乙選手が入ったら、どうなりますかね。
佐藤 SHOWTIMEのサイモン・ルッツは、呼ぶ意思がないみたいですよ。日本では、僕と比べてレベルが違うと言ってましたし。
--佐藤選手もそう思うと。
佐藤 僕は違いますね。経験を積めば、行けると思います。ただ、いかんせん、対世界の経験が少な過ぎますよね。
--あのコスプレの入場は、欧州でも受けると思いますか?
佐藤 ちゃんと、金属チェックをしていないとヤバイですよ(笑)。テーブル席は、怖いから…。でも、どうだろう。向こうも入場の時、変なコスプレとか多かったですからね。僕の入場の時も、金髪の姉ちゃんが、ふんどしとかはいて、出てきたし。なんじゃ、これって。笑いましたね。ひょっとしたら、受けるかもしれない。最初は、キワモノの目で見られるでしょうけど。その意味では、世界中、どこに行っても注目が浴びるんじゃないですか。それが彼の強みですね。僕にはないところです。
--あとは結果を出したら…。
佐藤 いいんじゃないですか。そんなに強さを求めなくても。彼は、勝っても負けても、面白い試合をしたいと言っているし。僕とは、まったく逆の選手だと思っていますし。
--もしも対戦したら、絶対に負けられない相手ですね。
佐藤 何だか本当に闘うみたいになってきていますけど(笑)、本当にそうですね。負けたら、僕がコスプレしなきゃいけない。あと日本人対決は、意識していないつもりでも、どうしてもヒリヒリしちゃいますね。外国人と闘う場合は、試合って感じですけど、日本人だと決闘ですね。負けたらすべてなくなるという危機感。そういう感じです。
--すべて持っていかれるという…。
佐藤 パジョンスックの方が優弥より強かったですけど、試合に関しては、優弥戦の方がプレッシャーを感じました。5年前に彼と闘ったときは、やるせない気持ちだったので、お客さんに申し訳ない気持ちが残っていましたけど、闘えてスッキリしました。例え、ぶっ倒されたとしても、悔しい気持ちもありつつ、スッキリしたでしょうね。

名城選手は日本王者と紙一重
--その優弥選手が、病気で負傷のため、8・14『Krush』後楽園大会を欠場。佐藤選手が出ることになりましたね。
佐藤 最初は、お断りしたんですよ。でも、もう一回、オファーをもらって、Krushの一周年記念で、僕以外だったらこのカードが消滅するって言われて。自分のせいで、Krushの前身である全日本キックとうちのジムが切れちゃった経緯もあったので、それを取り戻したいという思いもありましたので、お受けしました。
--名城選手については、どう評価をしていますか。
佐藤 僕は、日本チャンピオンと紙一重だなと思っています。
--つまり、1RでKOされた自演乙選手と紙一重だったと。
佐藤 ええ。結果だけ見ると、乙君の圧勝と思えますけど、あれは名城選手がギャンブルに出ただけです。スタミナに自信がなかったと思うので勝負に出たら、たまたま乙君のカウンターをもらっただけで。逆の結果になった可能性も、十分にありました。KO時間=弱いと思うかもしれませんけど、そんなことないですよ。本当の完敗は、最初から最後まで、相手の攻撃が当たり続けることです。
--周りは、佐藤選手が勝って当たり前という捉え方をしていますよね。
佐藤 それが不安要素というか、一番の敵ですよ。向こうは失うものもないし、リスクがない。こういう相手は、強いんですよね。こっちは、余裕がないですよ。だから全力で行きます。こういう相手でも、きっちりと勝つのが、僕の課題ですから。
--これまで期待を裏切ることも…。
佐藤 多かったですからね。自分がもう一段、上に行くためにも、今回の試合は必要なのだと思います。急ピッチで仕上げているので、体重は71kgが良かったんですけど、向こうはそれでは嫌みたいなので。
--そうでしょうね。体の大きさが違いますから、譲れないでしょう。
佐藤 まあ、でもきっちりと追い込んでいますよ。
--本格的な試合では、5年ぶりの後楽園ホールになります。
佐藤 団体もルールも違いますけど、古巣に戻ってきた感じですね。ホールは、日本武道館と同じように、独特の雰囲気がありますから。他の会場より緊張するというか。一度も、後楽園ホールに来たことがないK-1ファンの方は、ぜひ観に来てほしいです!!