ミュージシャンというと、詩人タイプとか、芸術家肌、草食系など、繊細なイメージを持たれがちです。
しかし、曲がりなりにもプロとしてお客さんからお金をとって人前で演奏やパフォーマンスをするのなら、センスだのコンセプトだの表現だのよりも、もっと忘れてはならない大事なことがあります。
それは、ガンのくれあい飛ばしあい時におけるヤンキーの人や、先陣を切って爆走する特攻服の人、池田屋の階段を駆け上がって尊王攘夷の輩に斬り込んでいく新撰組員たちと実は同じで、絶対に目を逸らさない覚悟とか、何があっても転ばない気合いとか、死ぬときは道連れにしてやるくらいの肚づもりではないかと思います。
例えば、演奏のノリ、グルーヴにとっては一瞬の気の緩みや迷いが命取りです。それにより張りつめていた何かが崩れ、すっかり締まりのないものになってしいます。
サカナクションが2013年に幕張メッセで2万人の聴衆を集めて行ったライブのこの映像、山口氏の眼の鋭さがすごいです。知名度や動員の急上昇といった状況の劇変にも物怖じすることなく、4万の視線を一手に受け止め、むしろはじき返すようなその眼力には、とてつもない精神力が感じられました。
規模が大きくなれば関わる人の数も増えていきます。大勢のスタッフがアーティストのリクエストに応えようと耳を傾けてくれる、というと聞こえはいいですが、いざその場で、それではイメージと違う、もっとこうしてくれなどとジャッジしていくのは、「自分」をしっかり持ちつづけていないとできません。しかも新しい音響システムを導入して初めてのライブ。本人だってよくわかっていないはずです。でも、わからないからお任せ、では良いものはできません。もしこれが俺だったら、スタッフに指示を出しているうちに、この方向で本当に良かったのか、自分が何を表現したいのか、そもそも自分が表現したいものなんてそんな大層なものなのか…と、どんどん自分に自信がなくなって、しまいにはパニックになってしまいそうです。
ここぞというときの踏ん張り力が、俺にはどうもイマイチ足りていない気がして、ときに情けなくなります。いい加減、ひと皮剥けたいものです。