純粋なだけだと思っていた幼馴染の裏切りとも思えるような告白は俺の心に重い影を残した。

彼女は何を思ってあんなことを言った?

いつから歪んでしまった?

考えれば考えるほどに思い出すのは彼女の乾いた笑い声とそれに比例しない機械のように整った無表情。


「はーー……」

どうすればいいんかねー?


「そんなに梅のことが気になるか?」

「いきなり現れんなよ……驚くから。

気になるに決まってるだろ。

アイツ、あんな笑いかたしなかったし、もっと……」


「綺麗な存在だった?」


「うん。

あんな人の弱みに付け込むような奴じゃなかった。」

そう言う俺を嘲るかのようにタカアキは笑い、俺の頭に手を置く。


「それはお前の幻想だ。

梅は昔からああいう奴だった。

不幸さえ利用して次の自分に繋げる。

天使みたいな見た目してても、悪魔よりも狡猾な女。」

そこまで言って俺の頭をクシャクシャ撫でて低くうめくように


「俺は初めて会ったときから大嫌いだ。」

そう言った。


なんとなく胸が痛い。

親友がここまで嫌悪している少女を好きにならなくてはいけないという決定事項がどうしようもなく……。

彼女に言ってしまいたい。

“やっぱり約束は守れない”

と。

それでも幼馴染のかけがえのない彼女を失うのが怖くて俺はそれを言えない。



本当に卑怯なのは俺かもな。













梅は明日から学校に復帰する。

恋人になるというのは彼女の使えなくなった目の代わりに自分が目になることでもあるんじゃないか、などと勝手に解釈しているわけなんだが……

正直、不安が拭えねー。

梅は中学生という年頃のなかなか女に素直になれない男共を素直にさせてしまう程の美少女。

そんな女と付き合って、しかも常に近くをうろつくなんて……。




もしかして、俺終わったかもな。

さよならMyファミリー、さよなら愛しの------。

俺ってば人の道を外れる覚悟をしないといけないみたいです。


失われたときに感じたのはほんの僅かな痛みと疑問だけです。


そして私は彼を手に入れました。

親友と光と……彼の自由を犠牲にして。





彼女坂井律子は正規さんが好きで、だから同じように正規さんに想いを寄せる私を襲いました。

それだけのこと……なんです。

私は彼女に対する憎しみより何故それだけの理由で私を襲ったりしたのか気になりました。


まあ、そこも単純な理由だったわけなんですけど。


“正規さんが私を好きになってしまった”


だそうです。


もちろん正規さんに好意を寄せる私としてはこの上なく嬉しいことなはずだったんですけど、そう簡単にもいかないんですよね。

今私がいるのは病室です。

何もかもを吸い込む白い空間に狂ってしまいそう、なんて今までの私なら言ったんでしょうけど現在は言えませんね。

なんせ見えませんから。

逆に黒に埋め尽くされた視界に飽きてるくらいです。


ベッドの横には正規さんがいます。

……正規さんの中世的で綺麗な顔ももう見れないと思うとなんだか寂しいなーなんて。



「悪い……俺のせいで目が……」


何故か謝られちゃいました。

普通に考えると悪いのはリッちゃんなのに。

だけど正規さんは謝るんです。

きっと辛そうに顔を歪めているんでしょう。

あなたはそういう人、だから好きになったんです。


「謝らなくていいです。

誰も悪くないんです。

ただ、こうなるって決まってたんですよ。」


笑えてるか不安です。

確認できませんから。


「でも、リツに俺がお前を好きだと勘違いさせたせいだから
……

だから、罪滅ぼしに俺にできることならなんでもする。」


勘違い、ですか。

そうですよね貴方が私なんかを好きになってくれるわけないんです。

なんでも。


「じゃあお願い聞いてください。」


これを言ってしまえば一番の咎人は私ですね。




「恋人になってください。」


言ってしまったこの時点で貴方の性格を考えるとこれは事実ですよね?


「っ……分かった。」


冷静装ってますね。

だけど声が上擦ってますよ。

嫌って言えないんですよね。

貴方は予想してなかったでしょう?

私がこんなに汚い人間だって。


「梅の花の花言葉、知ってるかな?

高潔だって。

笑えちゃうほど私に似合わないですよね。

純粋な子だって貴方たちを騙し続けてこんな風に裏切る卑怯な私に。

アハ、アハハハハ。

私、笑えてますか?」


いきなりの質問に戸惑ってるんですよね。

貴方って本当に分かりやすい。


「笑えてるよ。

綺麗な笑顔だ。」


嘘、下手ですね。



縛り付けてごめんなさい。

でも、絶対自由になんてしてあげられないんです……





小さな、幼い恋心だった。

今は違う。

蕾だった想いは実を成して熟し、私を執拗に責め立てた。


そして……


        私

        は

        彼

        女

        か

        ら

        光

        を

        奪

        っ

        た


幼いころから想い続けてきた自分は報われなくて彼女が報われるのが許せない。

そんな、そんな、若く我侭で傲慢な理由で幼馴染の彼女の美しい瞳を飾り物に堕とした。


悔やんでも悔やみきれなく、彼女へ光が戻り彼が死に彼女が死んだ今でも自分の愚かさを呪い続ける。


裁かれたかった。


彼女に『許さない。』ただ一言そう言われたかった。

今ではそれさえも叶わず私はあの日の輝き全てを今でも失ったまま生きている。





裁いてください。


それで終わるから。