ザ・オーディション(1984) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

ザ・オーディション
1984年 東宝東和(製作:フィルムリンク・インターナショナル)
監督:新城卓 主演:世良公則、志穂美悦子、平田満、セイントフォー

正直、歴史的にはあまり評判は残っていない映画である。公開当時の映画雑誌の批評はここにでてくる中尾彬のいやがらせかと思うように不評ばかりだった。(気になって調べてみたが、キネ旬ベストテンでは誰も投票せず)だが、この映画、こういうものをあつかった日本映画としてはとてもうまい作りだと思ったし、なかなかの感動篇だと思った。私の周囲でも評判がよかった。久しぶりに見たが、なかなか今観ても見ごたえがある。当時はある意味、セイントフォーを売り出すために大金をかけて作った映画であり、そういうマスコミの攻撃もあったのだろう。つまり、映画自体もこの映画の中のレイカースの立場になってしまったということだろう。確かに、さまざまに陳腐なシーンもあるし、話の流れに無理もあるが、今観ても、何か勇気が出る映画である。利権に対抗する若者たちという構図を考えると、今こそ見返すべき映画でもあるのだ。

世良はレイカースというグループで一世を風靡した歌手だったが、ファンとのスキャンダルでおちぶれ、今はマネージャーをやっていた。だが、世話になった社長(池部良)と喧嘩しやめてしまう。担当だった歌手(板谷裕三子)がついてきてなぐさめてくれる。世良には別れた女房(志穂美)もいた。志穂美はレースチームのエンジニアだったが、世良を心配するばかりだたt。芸能界は中尾彬がひきいる矢島プロが牛耳っていた。池部さえ頭をさげる始末。そんな中で、世良は4人組の新生レイカースを組んで暮れの新人賞を獲ろうと決める。ホコテンで浜田範子をみつけ、オーデション会場で鈴木幸恵をみつける。そして、志穂美の担当するレーサー(優ひかり)の妹(岩間沙織)が加わりレッスンが始まった。指導するコーチ(北原遥子)は、彼女たちに厳しかった。そんな中、中尾の封じ込めが始まっていて、レコードを出すのも大変で、友人にたのみ2000枚プレスするのがやっとだった。世良はオーディションにでる賭けに出る。だが、結果は同じ、最後に札束攻勢もかけるが見事に玉砕。中尾に足蹴にされボロボロになる。そんな中、姉を事故死させた岩間は故郷に帰り、板谷は池部のもとに戻る。中尾の愛人の娘だった浜田は中尾にたのみ鈴木と組んでデビュー。そんな中、世良は山にこもる。その頃、最初に吹きこんだ2000枚のレコードがヒットチャートをにぎあわせだす。浜田と鈴木の二人組と板谷はそれぞれ音楽賞への舞台に昇り詰めていくが、新人賞は中尾の育てた歌手(有森也美)に決まっていた。浜田は大賞当日に賭けに出る。自分たちは4人組でレイカースだと舞台で名乗り、「賞はいらない、歌わせてくれ」と叫ぶ。一旦は退場させられるが、会場のファンの声を中尾はつぶせなかった。会場に4人で歌うレイカースがいた。そして、その頃志穂美にあいにきた世良が東京のテレビでそれを見る。翌年、晴れやかなステージ上にレイカースはいたのだった。

ある意味少女マンガ的なサクセスストーリーなのだが、並行して世良公則の復活劇が描かれているので、とても硬質な青春映画として成り立っている。(ここでの世良はある意味「Wの悲劇」の彼の役ともだぶる)。そして2時間を超える映画なのだが、テンポよく話が進みあきさせることがない。劇中、初めからアゲインストで半ばでレイカースが崩壊するのもわかりやすい話なのだが、絶対的に彼女たちは成功するパターンになるのは観客はわかっているわけで、どういう仕掛けがそこにあるのかは、結構ワクワクする。

その顛末のきっかけが、最後にだしたレコードが北海道から売れ始めるというところなのだが、このエピソードはもうすこしうまくつかってもよかった気がする。ちょっと、そのはやり具合が観客に提示されないのは舌たらずな感じだ。

とはいえ、あくまでもこの映画はセイントフォー売り出しのプロジェクトの一環の作品である。だから、彼女たちを格好良くみせなければならない。その部分は、大変うまくいっている。レッスンシーンの厳しい空気感が彼女たちをクールにみせるし、歌のシーンは見事なプロモートフィルムになっている。ここで彼女たちをコーチする役の北原遥子さんは、この映画の翌年、日航機が御巣鷹山に落ちた事故で亡くなった被害者である。この映画を見る限り、なかなかいい雰囲気をもった人で、この事故の話を聴いた時は悲しい限りだった。

とにかく、映画の中のレイカースは格好よいのだが、テレビにでていたセイントフォーはこの雰囲気の60%位の感じだった。バク天などさせるのに無理があった感じはするし、楽曲が続かなかったのが失敗の大きな原因だろう。トータル的なセンスのないままに大金を使った感じだったのだ。だが、この映画だけはすこぶる出来が良い。

そこには、池部や中尾などのしっかりした役者が後ろについていたことがあるだろうし、明確に芸能界の批判的なものがテーマになっているのが社会派的映画にも転化し、なにか硬質になっていったということだろう。まあ、金で売り込もうとするスターの主演映画がそれを批判したものというのも皮肉だが・・・。そのあたりは監督、新城卓が真摯に映画作りに没頭した結果だと私は思う。

そして、音楽はメインテーマにアメイジンググレースを置き、セイントフォーの楽曲をうまく入れこんである。なかなか、勘所がいい音楽映画だと私は思う。この映画ではメインテーマになる「Rock'n Roll Dreams Come Through」は私はアイドル歌謡史の中でも名曲だと思っている。

さまざまな要素がうまくからまって、不思議な傑作を作ったというべきだろう。今みても元気がでる映画である。この映画を最初からないことにしようとした映画マスコミはこの頃にはもう腐りきっていたのだ。そこにテレビ局がはいりこみ、また悪くして現在がある。この映画にでてくるテレビマンは最後に中尾に反抗するが、今はそんな骨のある奴はひとりもいなくなったのだろう。結果、暮れの音楽賞も紅白も陳腐なイベントになりさがってしまったのだ・・・。原発報道の陳腐さは紅白の陳腐さとなんら変わりがない。いっそ、NHKは原発報道もSMAPにでもやらせればいいと私は思う。

この約30年前の映画の頃から、さまざまなものが悪い方向に走り、結果、今がある。日本は、もう一度すべての職業でオーディションのやり直しが必要だ。利権が絡まない中で、ここでの世良のような男が必死でてっぺんめざせる世界が必用なのだ。すこぶる、そんなエールがほしいあなたに贈る一本。それがこの映画「ザ・オーディション」である。

さすがにDVDでてないのか・・・。そうそう、最後のデパートの屋上で司会をしてるのは生島ヒロシです。若くてアクがない・・。


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