はだしのゲン(1976) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

はだしのゲン

1976年 現代ぷろだくしょん

監督:山田典吾 主演:三國連太郎、左幸子、佐藤健太、石松宏和、牧伸二


日本の8月は戦争映画を語る季節でもある。これはなんとしても続けなくてはならない。そうしないと日本は、また同じ道をたどっていくと思うからである。今年は原発事故報道を見て、特にそう思う年である。まず、世界的にも有名になった中沢啓二のマンガの映画化である。映画としては3作作られ、これはその一作目。非国民と呼ばれる父を持つゲンが強く生きていく姿と原爆の日の惨状、そして戦後のスタートまでを描いている。監督はうまく撮ろうというより、誰にでもわかりやすく原爆や戦争の悲惨な状況を伝えようと映画にとりくんでいる感じである。ラストの夕景には、さまざまな思いがこめられているようだ。


ゲン(佐藤)はいつも弟の進二(石松)と街を駆けて遊んでいる。父(三國)は戦争反対で竹やり訓練もちゃかすような人で、ゲンたちは非国民の子と呼ばれ喧嘩が絶えなかった。学校では戦争で死んではいけない旨の作文を書き起たされるゲン。姉(岩原千寿子)は泥棒よばわりされ教師に裸にされる。家でアメリカが悪い奴というと父は「世の中でいいも悪いもない。だまされるな」というのだった。そんな父が警察にひっぱられ拷問をうける。近所の人が訴えたのだ。父は我慢した。しかし、家に戻ると母(左)が米がない。ゲンたちはイナゴを食おうといいだす。そんな中、近くの朝鮮人が米をわけてくれる。ゲンたちはそんな生活と自分たちの欲望の仲でたくましく生きていく。進二が模型の軍艦がほしいといえば、近くのガラス屋(牧)の息子のかたみを売ってと頼む。断られるが、ガラス屋が傷痍軍人で困ってるのを知り、近所のガラスを割って助けてあげたりする。そんな中、ゲンの兄が予科練に志願するという。父は反対するが、兄はゲンに「おまえたちが非国民と呼ばれないようにしてやる」というのだ。そして、8月6日がくる。学校の前で被爆するゲンは家にかける。そこでは父、進二、姉が家につぶされていた。火の手が来て、母と逃げるゲン。そこで母が産気づく、ゲンの頑張りで女の子を出産するのだった。


元がマンガなので、複雑な話ではない。その時代のその事象がわかればいいという感じだ。そんな

中で三國連太郎の非国民の父はなかなか存在感がある。彼の凄みが、意思をまげない男の役にぴったりである。もちろんゲンの存在感も重要だが、その家庭環境をしっかり描くことが大事な映画なのだ。


そういう意味で、母役の左や、一緒に住む3人の子供たちのチームワークが実に気持ちいい映画だ。姉役の岩原は裸にされるシーンなどもあるが、家族の花として可憐である。そして弟はゲンを尊敬して生きていく感じがいい。そして主人公ゲンがこの映画の存在感を決めたと言っていいだろう。


ゲンは大人と対峙しても物おじしない子である。それをしっかりとできる子はなかなかいないということだ。浪花節も歌わなければいけないし、ワルガキぶりというのも、なかなか誰でもできるものではない。そんな中で主演の佐藤はなかなかの好演である。マンガの中からとびだしてきたような感じは愛くるしいといっていい。


ただ、やはり子供向けに描かれ、映画もそういう観客を狙っているとおもわれ、警察の拷問シーンや朝鮮人への差別などの描き方はソフトな感じだ。このあたりが日本映画らしい。まあ、大人の気持ちをそこに投影してしまっても意味がないといえばそうなのだが・・・。


そして、クライマックスは原爆投下の無残さを描くことである。セットはよく作られていると思う。だが、原爆特有の悲惨さというよりは、空襲後の焼け野原とあまり変わりない感じで描かれている。ケロイド的なものがあまり強烈には描かれてはいない。まあ、牧伸二の妻が死に、その死に顔が半分崩れているシーンがあるが、この位で十分ということだろう。


そういう、監督の主旨は大人にはよくわかる。だが、この映画は子供たちが見てどう思うかだろう。こういう映画を作る意味は、長く学校などで上映され、議論が続くことだろうと思う。原爆の恐ろしさ、空しさをしっていれば、原発存続などという鬼畜な言葉は出ないと思う。そこに経済うの話を介入させるべきではない。それが私の見解である。


夏休み、全国の家庭でこういう映画について語る人々が増えれば、悪い過去はくりかえさないと思うのだが・・・・。お子さんと、見ていただきたい一作である。


しかし、三國の「だまされるな」という言葉は今の原発報道にも通じる。この国は、また時代をさかのぼることで、どこに行こうとしているのだろうかと思ったことを付け加えておく。


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