クリスマスの奇跡が起きた
植物人間状態だった
浩二の妻の意識が戻った
人の耳は
最期の時まで機能しているとはよく言われるが
妻は 不思議と
意識の無い間の事も良く知っていた
浩二が暫く北海道を離れていて
その間 会えなくて寂しかったこと
北海道へ帰って来てから暫くして
誰かのコーチを始めて
〝アイツはバカだ〟とか
〝アイツはダメだ〟とか
病室に来るなり 楽しそうに話してくれたこと
浩二は勿論
妻との未来に光が差して来たことが嬉しかった
希望も湧いて来た
しかし 少し
こころの片隅に ほんの少し
妻に対して 後ろめたさがあったのも事実だ
その幸せの裏に
洋子の涙があることを
浩二はよく分かっていた
経過は良好で
担当医師から退院後の話しも出始めた頃
妻が不思議なことを言い始めた
「浩二はツンデレなとこ
直さなきゃダメだよ
誰でもが私みたいに浩二のこと
理解してくれる訳じゃないんだからね」
「将来 子どもが生まれたら
私の名前から一字取ってね
どうしても嫌だったら無理言わないけど」
「浩二……
浩二と結婚出来て
私 幸せだったよ
私 どこにいても いつまでも
浩二の幸せ見守ってるからね」
「もし私に何かあっても
いつまでも独りでいちゃダメだよ
半年悲しんでくれたら充分だからね」
黙って聞いていた浩二も
流石にコレには怒った
でも妻は
大事なことだから
ちゃんと覚えといてね……と
目に涙をいっぱい溜めて そう話した
新年を二日後に控えた雪の朝
浩二の妻は容態が急変し
浩二や身近な人が見守る中
静かに息を引き取った
風に乗って
上手く交わせそうな気がする
誰かが後ろから押してくれてるみたいに
驚くほど身体が軽かった
早く 次の大会で実力を試したかった
浩二夫妻の事は
風の便りで知っていたが
考えないようにしていた
〝自分には今は走ること〟
来る日も来る日も走り込み
身体を追い込み 虐めぬいた
雪が溶け
春が訪れ
北海道マラソンへのエントリーもすませ
暫くして
洋子は右足の甲の激痛に倒れた
疲労骨折だった
大会まであと2カ月
今年の大会参加は断念しなくては
ならなくなった
画像と話の展開は一切関係ありません
団体・出演者の関係、実態等
全て作者の妄想です。悪しからず
画像を拝借致しました(`_´)ゞサンクス