誰にでも優しい秋人先輩が
俺にだけ優しい…なんてこと

「何言ってんだよ!?
先輩はみんなの憧れ秋人先輩だぞ」

スポーツも勉強も出来て、誰もが憧れる
かっこよくて、優しい王子様のような先輩。

「辛いのだって平気で食べたじゃないか」

「そうね、そうよね!!」

女生徒はそう言うと安心したのか
くるりと周り自分の教室へ戻って行った。

けど、先輩は少し不機嫌で

「夏季、やっぱり何も分かってない。」

そう言うと先輩は女生徒が去った逆方向へ
歩いて行ってしまった。

何も分かってないってなんだろう?

1人になった俺にまた1人の女生徒が
俺のもとへ近寄って来た。

「夏季先輩ーってなんで、
そんなに可愛いんですか?
もう、本当…秋人先輩が羨ましいです。
こんな可愛い弟が出来たなんて…っ」

「そ、そうなのかな?」

可愛いと言われて、まんざらでもなかった。

それは一応誉め言葉として受け取る。

後輩や先輩だけではなく…同学年にも
可愛い可愛いと言ってくる。

同学年には同じ男にだけだけど
男にそう言われるのってどうなんだろ?

自分とて、どこが可愛いか分からない。

そろそろ冬休み。
それから、先輩たちの受験が始まって…

「先輩?受験勉強進んでます?」

机に向かって勉強する先輩に声をかけた。

先輩は体をこちらに向け椅子を半回転した。

「…1つ聞くけど。
夏季はどこの高校行きたいとかないの?」

その言葉に少し動揺したが

「どうして?」

「質問返しするなよ。」

そのまま俺は無言だったせいか
先輩は椅子を戻し、また机に向かった。

俺が立ち上がろうとしたとたん
先輩はこう言った。

「俺…受験する所ランク落とそうかな…」

え?

「どうして?先輩ならーっ」

「違うっ」

いきなり先輩が大きな声を出した。

俺に怒鳴る事なんてしなかった先輩が
手を強く握り締め
俺の言葉にイラついてるように見えた。

そんな姿にどんなに受験勉強が恐ろしい
ものなのか、その空気で分かる。

「……夏季、ごめん。」

先輩はそう謝って部屋から出てった。

謝るのは俺の方だと思うのに。

兄弟は喧嘩しても翌日きっぱり
忘れるわけではないが気まずい訳でもない
それが家族っていうものだ。

先輩が勉強してる時は部屋にいるのやめよう。

そう思った通り、先輩が教科書を広げるたび
俺は立ち上がり部屋を出ていく。

「………」

無言で部屋から出る俺がドアの“ガチャ”と
いう音がなるたび、先輩は俺の方に振り無言で
見つめる。

邪魔なんてしたくない。

邪魔者は消えてしまいたい。

ゴーンゴーン

今年の正月は賑やかだ。

いつも父と2人だったから。

それはきっと先輩も同じだったと思う。

「絵馬描きましょうよ、先輩っ」

「あ、あぁ。で、夏季は何描くんだ?」

「秘密です。」

「じゃあ、俺も秘密…で。」

2人はそうやって言って笑って
絵馬を結んで行く。

こうやって見ると本当に兄弟みたいに見える。

あんな事さえ…なかったら。

つづく