全ての謎の先に“人間の真実”が明かされる――

『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督の作品。

 

『母なる証明』

(2009年)韓国映画

 

<あらすじ>

漢方薬店で働きながら1人息子のトジュン(ウォンビン)を育て上げた母(キム・ヘジャ)。2人は貧しいながらも、母ひとり子ひとりで懸命に生きてきた。ある日、2人が住む静かな街で凄惨な殺人事件が起きる。アジョンという女子高生が無惨な姿で発見されたのだ。そして事件の容疑者として、トジュンの身柄が拘束された。

事件の夜、友人ジンテ(チン・グ)との待ち合わせの約束をすっぽかされて、すっかり酔っぱらった彼は夜道で偶然にも帰宅途中のアジョンの姿を見ていた。殺害現場からトジュンの持っていたゴルフボールが発見される。トジュンは無実を訴えるが、内気で知的障害を持った青年であったため警察の誘導に簡単に引っ掛かり、書類に捺印して逮捕されてしまう。母が頼んで連れて来た弁護人はやる気もなく、有罪判決は避けられないように見えた。息子の無実を信じる母親はついに自ら立ち上がり、疑惑を晴らすため、たった1人で真犯人を追って走り出す。

 

<スタッフ>

監督・脚本 ポン・ジュノ

脚本 パク・ウンギョ

製作 ソウ・ウォシク

    パク・テジョン

製作総指揮 ミッキー・リー

音楽 イ・ビョンウ

撮影 ホン・クンピョ

編集 ムン・セギョン

 

<キャスト>

キム・ヘジャ(母親)

ウォンビン(トジュン)

チン・グ(ジンテ)

チョン・ウヒ(ミナ)

ミソン(チョン・ミソン)

イ・ヨンソク(廃品回収の老人)

ソン・セビョク(セパタクロー刑事)

 

 

感想

ポン・ジュノ監督・脚本の10作目の作品。

第30回青龍賞最優秀作品賞、

第46回大鐘賞最優秀助演男優賞(チン・グ)。

 

知的障害者の息子が

殺人事件の容疑者にされてしまい、

息子を無実だと信じる母親が

無能な警察に代わって

1人で事件を捜査し

真犯人と事件の真相に迫る

ミステリーヒューマンドラマ。

 

これも「衝撃の結末」と

よく話題になる映画。

結論から言うと

ラストは衝撃というほどではなくて

むしろOPやEDのダンスに

別の意味で衝撃を受けた。

理由がわかると納得ですが

ちょっと日本人には思いつかない

シュールな演出ですね。

 

キャストでは何と言っても

母親役のキム・ヘジャが凄い。

愛する息子を助けようと

貧乏なのにたくさんお金をつぎ込んで

情報を聞き出したり

名のある弁護士を頼んだり

嫌っていたジンテにも協力を頼みこむ。

その溺愛ぶりは行き過ぎていて、

自分が指を切ったことより

息子が車に轢かれそうになったことを心配したり、

息子の立ちションまで覗いたりする様は

狂気すら垣間見える。

鬼気迫る演技がインパクト大だった。

 

それと

ジンテとミナのエッチシーンがあって

ミナ役のチョン・ウヒの

おっぱいが見れます。(重要)

このミナちゃんは

トジュンが好意を寄せる女の子で

彼に対して気のある素振りを見せているんだけど

実は親友のジンテとデキていて

毎日やりまくりのビッチだった。

NTR属性だとたまらんだろうが

ジンテという男は本当にクソだったな。

 

映画の全体の評価はまあまあ普通。

伏線は多くて張り方も勉強になります。

2度目に観たら

そこにも意味があったのか!?と

気づくことが多くて面白いです。

 

★★★☆☆ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 ◎

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 7.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

ムン・アジョン ---●トジュン ---衝動【撲殺:石】

廃品回収の老人 ---●母親 ---口封じ【撲殺:スパナ】

 

<結末>

アジョンの携帯電話の写真から

廃品回収の老人の元を訪ねた母親は

殺人の現場を見たという老人の証言から

トジュンが本当に殺人犯だったことを知る。

しかしそれを認めたくない母親は

無意識のうちに手にとったスパナで

老人を殴り殺してしまった。

 

幸い誰にも見られていなかったため、

老人のすみかを放火して逃げる。

後日、警察が母親の元に来て怯えたが

なんと真犯人を捕まえたと言うのだ。

それはアジョンの恋人で

ジョンパルという知的障害者だった。

警察は彼が真犯人だと納得しているので

母親は老人を殺した件は黙っておくことにした。

 

村の慰安旅行に出発する時、

トジュンから針箱を渡される。

実は火事のあった老人の家から

これを発見したのだと言う。

おそらく母親のしたことには

息子は気づいていないはずだが……。

不安と恐怖を払拭するために

母親はバスの中で

悪い記憶を消すツボを自分に打つのであった。

 

どんでん返し&伏線解説

結局、

犯人はトジュンだったというのが

まず最初のどんでん返し

 

トジュンは「バカ」という言葉に

極端に反応する癖がある。

 

その傾向が最初に出るのは

ひき逃げのゴルフ会員たちと

警察で事情聴取の際、

ドアミラーを壊されて

「あれがいくらすると思うんだよ、

このバカ野郎」と言われて

突然キレて暴力をふるう様子がある。

 

次は、逮捕されて母との面会時。

母が「どうして殺してないのに

拇印を押したのよ。バカな子ね」と叱ったら

「息子にバカはないだろお!」とキレている。

 

とどめは刑務所の中で

他の囚人にバカとからかわれて

飛び蹴りをくらわしていること。

 

そして……

あの夜にアジョンが

最後に言った言葉は

「余計な事言わないでバカ野郎」だった。

この言葉にキレたトジュンは

そばにあった石を拾って投げてしまい

アジョンの後頭部に命中して

殺してしまったのだ。

 

というわけで

バカと言われてキレる性格という伏線が

殺人の動機に繋がっているわけだが、

これはこれで良いと思うけど、

少し惜しいなと感じたのは

アジョンが人をバカにする性格だったとか

そのブチ切れスイッチを押させる何かが

あの夜に起こり得ると

視聴者に予想できるような

手掛かりを与えて欲しかったことだ。

 

例えば石を投げた後、

暗闇から「あっちに行ってよバカ」と声がして

トジュンが帰っていく後ろ姿で終わり、

その後で

実は振り向いてキレましたなら納得できる。

しかし実際は声は聞こえていないので

あの時、実はバカって言ってましたと

後出しで言われても

綺麗に伏線回収されたように感じないのです。

 

 

次に重要なのは

事件の鍵を握る目撃者のおじいさんが

何度か顔見せしていたこと。

 

④1回目はトジュンの現場検証で

手を振るミナの手前におじいさんがいる。

しかしピンボケのため全くわからない。

 

⑤2回目は廃品回収の傘を買った母親に

お金を半分受け取る場面で顔見せ。

 

そして母は息子の犯行を隠蔽するために

目撃者の老人を殺害して

家に火を放ってしまう。

これが第2のどんでん返し

ここまで母親目線で物語を見て来たので

ああ~ついにやってしまったかという

残念な気持ちになってしまった。

「母の愛」と言えば聞こえはいいけど

やっていることは最悪だ。

 

最後に母親が急に踊りだすのだが

あれは太ももの下に針を打ったからだ。

あそこに針を刺すと

嫌な記憶は全て忘れるツボだという。

 

面会所でトジュンから

5歳の頃に母親に殺されかけたと責められて

「針を打とう。悪いこと、病気の元を

綺麗に治してくれるツボがあるのよ。

太ももを出してほら」と言い出す。

 

廃品回収の老人と話す場面も思い出してほしい。

老人がとんでもないものを

見てしまったと話し出したので

それじゃあ針を打ちましょうかと母親が言い、

「悪いことや恐ろしいこと、

心にこびりついた病気の元を

綺麗に流してくれるツボがあるんですよ、

太もものあたりに」と説明している。

それを自分に打って

母親は罪の意識から逃れ、

全てを忘れたのだ。

 

 

その他の伏線は、

マッコリを持った認知症の

アジョンの祖母の話は

事件現場の刑事たちの

何気ない会話の中で出てくる。

中盤ではマッコリをまき散らす

変なババアとして登場。

このアジョンの祖母が重要なアイテム

アジョンの携帯電話を持っていた。

 

アジョンの鼻血

最後に犯人として捕まったジョンパルが

「犯人ではない」ことを示唆する伏線。

ジョンパルの服に

アジョンの血が付いたのは

殺人でなくても付くことが証明できるため。

その血が付いた服を

洗わずにいて疑われてしまった。

 

 

犯行トリックの補足で

「どうして屋上に死体を持って上がって

洗濯物のように欄干に干したのか?」という

謎の答えが意外だった。

 

犯人のトジュンが

犯人の気持ちになって語ったところによると

(つまり真相)

アジョンが血が出ているから

みんなに見えるように屋上に干したという。

トジュンの中では

アジョンを助けたいという思いで

このような奇妙な行動をとっている。

 

普通は隠したいはずなのに

わざと見えるようにするなんて

愉快犯のように思えるし、

さすがにこれは

警察も考えが及ばなかっただろう。

 

よくある疑問

Q,アジョンを殺した犯人は本当にトジュンなの?

 

犯人は本当にトジュンでした。

そのように作られています。

 

2人は顔見知りだったわけではなく、

あの夜たまたま出会って

馬鹿にされたから殺してしまい、

気が動転して記憶が混乱し

自分が殺したことすら覚えていないのです。

 

Q,オープニングの草原で踊る場面は

時系列で言うと本編のどこ?

 

終盤で廃品回収の老人を殺して

茫然自失状態で草原を歩くシーンがあり

冒頭のダンスはそこに入る。

その後、

漢方薬の葉を断裁しているカットに繋がるが

これも冒頭と終盤で

同じカット割りになっている。

 

Q,しきりに「母と寝てる」という話が出るが

それは性行為のこと?

 

実は母と子が愛し合っていて

近親相姦というオチも予想していたが

そこまではっきりした

性行為は見られなかった。

母の布団にもぐりこんだ時、

手が胸を揉んでいるようにも見えたので

一瞬「お?」と思ったが……。

どうやらそれはありえなさそう。

 

Q,どうして「バカ」と言われて

キレてしまうのか?

 

母から「バカにされたらやり返せ」と

子供の頃に教えられたから。

1発殴られたら

2発殴り返せとも言っていた。

つまり倍返しだ!の精神である。

 

Q,トジュンは栄養ドリンクに

農薬を混ぜたやつを飲んで

おかしくなったのですか?

 

母子は1度、

心中しようとして

ロンスターという農薬を混ぜて飲んだが

苦しみながら吐くだけで

薬が弱くて死にきれなかった。

この時までに

トジュンがおかしかったかどうか不明だが、

農薬のせいで発達障害になり

あのようになった可能性はある。

 

しかし個人的な見解では

生活が貧しくて心中したというより

馬鹿にされるトジュンの将来を心配して

心中したと解釈している。

トジュンは生まれつきの知的障害者

だったのではないだろうか。

 

Q,アジョンの携帯に

廃品回収の老人が

映っているのはなぜか?

あの人も常連客だった?

 

そうです。

あの老人もアジョンの客です。

あの夜も空き家で会う約束で、

ちょうどその空き家の前で事件が起きた。

そして偶然にも老人は

窓から殺人を目撃してしまった。

 

アジョンの携帯は

シャッター音が鳴らないように

改造しているので、

撮られた相手も気づいていない。

 

Q,ジョンパルと面会した母親は

彼の母がいないことを聞いて泣きだす。

その理由は?

 

ジョンパルも知的障害者だった。

そして彼はアジョンが大好きで

鼻血が付いていても構わず服を着ている。

もし母がいたら着替えさせただろう。

無罪なのに逮捕されたら

必死になって味方になってくれただろう。

しかし彼にはだれ1人として味方がいないのだ。

おそらく彼は無実を証明できずに死刑になる。

 

トジュンの母は

ジョンパルが犯人ではないことを知っている。

彼に対して申し訳ない気持ちが

あの涙になっている。

 

Q,トジュンは母に針箱を渡した時に

母がお爺さんを殺したことに気づいたか?

 

いいえ、全く気付いていません。

あのおじいさんは廃品回収の人なので

母が村で針箱を落として

それを拾ったんだと思っています。

 

実際には殺害の後で

置き忘れた物。

ジンテに拾われていたら

強請られていたことでしょう。

 

Q、それはちょっと違いますね。監督がトジュンは知的障害ではないと発言したのです。即ち、トジュンは医学的に正常で、ただちょっと純白なだけだとか。即ち、トジュンは母が殺したことを知ってあの針を渡したのでしょ。

 

この文章だと

トジュンが知的障害者ではない=母の犯行を知っている

ということでいいですか?

それだと俺の言いたいことと

論点がずれています。

 

まずトジュンが

正常か知的障害かどうかは無関係。

母の犯行を知っているような

決定的な発言や描写の有無が論点です。

トジュンは正常だから

針箱で気づいたはずだと言いたいのでしょうが、

トジュンが母の犯行を知っているという

証拠を出して来ないと証明できません。

※針箱を渡した時の

「落としちゃ駄目だよ」は

決定的な証拠にはならない。

老人が廃品回収の仕事をしているので

どこで落としても通用するから。

 

俺がトジュンが母の犯行に

まだ気づいていないと思ったのは

劇中に何度も伏線として

視聴者に提示されている

2つの事実が根拠です。

 

1つ目は

トジュンは真実に

気づくのがかなり遅いこと。

これはジンテがドラミラーを蹴ったのに

自分のせいにされても

気づかなかったことでわかります。

5歳の頃、母に殺されそうになったことは

それ以上に気づくのが遅い。

そんなトジュンが

はたして針箱を拾ったくらいで

真実に気づけるでしょうか?

ミナとジンテが付き合っていることすら

気づいているかわからないし、

何より自分がアジョンを殺していることすら

思い出していないような男が

そんな鋭敏な推理できると思いますか?

母が老人の家に入ったことまで辿り着いても

火事が放火だったのか殺人があったのか

その犯人が母なのかどうかまで

辿り着くにはまだまだ

相当時間がかかると思う。

 

2つ目は

トジュンは感情が爆発すると凶暴になること。

バカと言われた時もそう。

感情が昂った彼は暴力的になる。

ところが、

針箱を渡した時の表情をもう一度見ると

すげー落ち着いてるんですよね。

母が老人を殺したことを知っている

 →自分が犯人なのも母は知っている

  →母親をなんとかしないといけない、

と思うはず。

なのにどうして母を殺そうとしないの?

少なくとも「母さんどこまで知ってる?」と

質問したくなるはず。

それがないということは

「まだ気づいていない」と考えた方が無理が無い。

 

トジュンは時限爆弾である。

今は気づいていなくても

いつか必ず真相に辿り着いて爆発してしまう。

だから母は決断するのですが

息子に針を打たず自分に打ったことも

トジュンがまだ

真実に気づいていないから

その必要がないことを証明している。

――ということで納得していただけたかと。

 

障害者差別は

かなりデリケートなものなので

監督も発言に気を遣っているんだと

察してあげてください。

 

Q,この映画がなぜ高評価なのか、

理解ができません。
確かにカット割は綺麗でしたが、

評価に直結するほどでしたか?
個人的には最後のシーン(ダンス)が

許せなかったのですが、

あのシーンの素晴らしさはどこにありましたか?

 

母親が嫌な事を何もかも忘れて

踊る姿に嫌悪感があるのでしょうか。

息子が犯人であるのは間違いないし

自分も人を殺してしまったし

息子が母の犯行に気づいているかもしれないし

息子自身が自分の犯行に気づくかもしれない。

母親にとっては心配事が多すぎて

このままでは心が壊れてしまう。

嫌な記憶だけ消すというのは都合良すぎるが

母親がこの先、

生きていくには必要なことだった。

 

ちなみに針を打ったから

身体が踊りだしたわけではない。

老人殺しの後、

草原で針を打たずに踊っている。

針とダンスは別もの。

 

Q,記憶を忘れるツボ自体が

母親の思い込みでは?

本当はそのような都合のいいツボはなくて

罪の意識から逃れるために

ありもしないツボを打って

忘れたふりをしているのだと思う。

 

なるほど~。

確かにツボを打たれて

実際に記憶が消えた例が

母親しかないのでは

罪の意識から逃れる自演だと

捉えられても仕方ない。

 

本編の中で母親は

闇で針を打っていて

しかも腕の良さは折り紙つきだと説明がある。

針の効果自体は信じたいが

はっきり証明される場面が他にあれば

このツボも説得力が出たと思う。

 

そういえば冒頭の草原では

針と関係なしに踊りだしている。

嫌な事を忘れようとするみたいに。

だとすれば

針を打ったのに効き目が無くて

嫌な事を忘れるためにバスの中でも

踊りだしたということかもしれない。

この疑問はどちらにも解釈できそう。

 

 

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