今なお映画史上に燦然と輝く異常心理スリラーの金字塔

『サイコ』[Psycho]

[Psycho]

(1960年)アメリカ映画

 

 

 

 

1960年のモノクロ映画です。

アルフレッド・ヒッチコックといえば

まずは『サイコ』を語らないと駄目でしょう。

 

ずいぶん昔に観たのですが、

はっきり覚えていなくて

今回観直してみて

後の作品に

すごく影響を与えているなと感じた。

○○○○ネタも

この作品がエポックメイキングだろう。

 

<あらすじ>

不動産会社に勤めるマリオン・クレーン(ジャネット・リー)は、ふとした出来心で会社の4万ドルを横領してしまった。夜になって降り出した豪雨を避けるべく、彼女は旧道沿いの寂れたベイツ・モーテルを一夜の宿に選ぶ。管理人はハンサムだが、どこか暗い影を宿した青年ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)。実直で親切な彼と語らうことで、自分の過ちに気づいたマリオンは、自室に戻ってシャワーを浴びようとするが、そこに突如ナイフを持った人影が現れる……!

<スタッフ>

監督 アルフレッド・ヒッチコック

脚本 ジョセフ・ステファノ

原作 ロバート・ブロック『サイコ』

製作 アルフレッド・ヒッチコック

音楽 バーナード・ハーマン

撮影 ジョン・L・ラッセル

編集 ジョージ・トマシーニ

 

<キャスト>

アンソニー・パーキンス(ノーマン・ベイツ)

ジャネット・リー(マリオン・クレーン)

ヴェラ・マイルズ(ライラ・クレーン)

ジョン・ギャヴィン(サム・ルーミス)

マーティン・バルサム(ミルトン・アーボガスト)

ジョン・マッキンタイア(アル・チェンバース)

サイモン・オークランド(フレッド・リッチモンド)

 

 

感想

『サイコ』といえば

ジャネット・リーがシャワールームで

めった刺しにされる殺人シーンが有名。

そこだけおぼろげながら覚えていたが、

お金を奪っていたことや

犯人の正体はすっかり忘れていた。

 

期待したシャワーシーンは

全然裸が見えない。

ヌード自体も代役が務めたらしい。

ちなみに血糊は

BOSCO社のチョコレートシロップ。

 

私立探偵は頭良いのか悪いのか

油断しすぎだと思う。

階段落ちのシーンは少し笑ってしまった。

 

主役だと思っていた人物マリオンが

前半で殺されてしまう展開は大胆。

いわゆる主役交代の先駆け。

純粋に犯人探しのミステリーとしても

良くできていると思う。

緊張感を高めるBGMも凄くいい。

車を運転するマリオンの映像に

他の場所にいる人たちの

会話を混ぜるというテクニックは

近年あまり見ないので面白いと思った。

 

オチは「サイコ」という言葉自体が

有名になったのもあるし、

今となっては

珍しくもないパターンなので

衝撃は無かったが

当時としてはインパクトあったのだろう。

結末では

この犯人が同じ過ちを繰り返すような

不穏な空気を出していてゾッとする。

 

★★★★☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 ○

エッチ度 △

泣ける度 -

 

総合評価(10点満点)

 7.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

マリオン・クレーン ---●ノーマン・ベイツ ---嫉妬、憎悪【刺殺:ナイフ】

ミルトン・アーボガスト ---●ノーマン・ベイツ ---障害の除去【刺殺:ナイフ】

 

<結末>

姉と探偵の行方を捜して

ライラとサムがモーテルに乗り込む。

ノーマン・ベイツの母親が怪しいと思い、

館に侵入したライラは

地下室で白骨化した母親の姿を目撃。

 

そこに襲いかかる女装したノーマン。

間一髪サムが制止してノーマンは逮捕された。

実はノーマンは多重人格障害者で

母親の人格がノーマンの身体に宿り

2人の人格を持っていた。

「母」は息子が好きになった

マリオンに嫉妬して

彼女を殺害し探偵も殺した。

それを息子が片付けていたのだ。

 

逮捕されたノーマンは母の人格で思う。

私が殺したんじゃない、

あの子が悪いのよと……

そうしてニヤリと笑うのだった。

 

 

どんでん返し

この作品のどんでん返しは

ノーマンが二重人格で、

母親の人格が殺人を犯していたこと。

 

母親は10年前にすでに死んでいた。

ノーマンが女装して

母親と自分の一人二役をしていた。

 

「解離性同一性障害」です。

このテーマがアメリカの映画で

描かれることは多いですが

その草分け的な作品が『サイコ』でしょう。

 

 

まずは観客の疑いの目を

ノーマンから反らすため、

犯人が母親だと

ミスリードしないといけない。

 

一番のミスリードが

殺人犯の姿が

短髪の女性のシルエットであること。

犯人の顔がシャワー越しに

影になって見えないように工夫してある。

 

探偵を階段で襲う場面も

上からのアングルで

犯人の顔が見えない。

 

そして

ノーマンが母親と会話していることも重要。

姿を見せず声だけの会話シーンを出す。

そのため母親が館に

引きこもっているのだと思わされる。

 

母親の姿がある時は声が無い

母親の声がある時は姿が無い

この2つを頭の中で重ねてしまい

母親が実在するのだと錯覚してしまう。

 

さらに巧妙なのが

③アーボガストが訪ねて来た時、

窓際に母の死体を置いて

自分は探偵の相手をすることで

離れた場所に2人いることを

実現させてしまったことだ。

これは普通に騙される。

 

ちなみにノーマンは

母親が死んでいることを

認識できていない。

生きていると思いこんでいる。

④そのため会話にも

普通に母のことを出してくるから厄介だ。

 

母ノーマ・ベイツは

愛人に妻がいると知り

愛人を殺して毒をあおって自殺した。

(ここは後で追記があります)

ノーマンは母の死を受け入れられず、

母の死体を墓から掘り返して

死体と会話し、

自ら女装までするようになった。

精神に異常をきたしてしまうと

何が真実かわからなくなって

しまうのかもしれない。

 

⑤シャワーの惨殺のあと、

「母さん血がついているじゃないか。

どうしたの?」と言って

ノーマンが慌てて館から出てくるシーンで

殺人者が母親ではないか?と思わせ、

母を地下室に移すシーンでは

母を抱えたノーマンの姿

決定的なミスリードを仕掛けてある。


⑦保安官が10年前に

ノーマンの母が死んだことを教える場面で

「もしその老婆がノーマンの母親なら

墓の中で眠ってる女は誰だ?」と

母親より死んだ遺体の方に

何かトリックがあるように

思わせているのはただの目くらまし。

このおっさん

最後まで役立たずです。

 

 

伏線解説

次は伏線をとりあげてみる。

 

なぜマリオンが

会社の4万ドルを横領してしまったかは

冒頭のラブシーンで

サムが親父の借金の返済と

別れた妻への慰謝料で

困っていると言う話が出てくる。

出来心で盗んだのは

サムへの愛ゆえに犯した過ち。

「なんだってするわよ」と言う

マリオンの台詞も伏線になっている。

 

ノーマンが二重人格ではないか

という伏線はほとんど無い。

保安官がノーマンが10年前に

何かがあったことを仄めかしているのが

わずかな手掛かり。

鳥をはく製にする趣味は異常とはいえない。

 

細かいことを言うなら

ノーマンと母親の会話で

口論しているのに

声が被っていないことくらいかな。

同時にはしゃべれないからね。

 

 

よくある疑問

Q,車で眠るマリオンを

警官が不審に思ったのはなぜか?

 

まず女性が一人でいること、

車を長時間停めていること、

質問に対して怪しい素振りをしたことで

何かから逃げているなと気付いたっぽい。

さらに車を現金でポンと

買ったりしたのも怪しまれている。

 

Q,車屋で車を乗り換えた意味は?

 

できるだけ逃げようと思い、

車のナンバーで見つかるのを恐れた。

この時点では

逃亡する気満々だということ。

 

Q,マリオンが盗んだ4万ドルは

今のお金だといくらなのか?

 

50年前と現在の

インフレ率を約4倍とすると

16万ドル~18万ドル。

日本円にして

1834万円~2000万円くらい。

あの金持ちが娘の家を買う為に

持って来たお金なので

家が買える大金です。

 

Q,マリオンの下着姿で

やたらおっぱいが突き出した

ブラジャーなのが気になる。

 

下着の歴史をひも解いてみると、

1950年頃の女性下着は

胸を強調したデザインに

なっていたとあります。

弾丸のように先を尖らせた

バレット・ブラ(bullet bra)や

プッシュアップ・ブラが流行していました。

このマリオンが付けているブラが

そのような感じの

流行の下着だったのでしょう。

 

Q,母親は自殺したの?殺されたの?

Wikipediaにはノーマンが

母と愛人を殺したと書いてありますが。

 

保安官はこう言っている。

「殺人と自殺があった」

「ベイツ夫人は愛人を毒殺した。

そして自分も同じ毒をあおった」と。

一方で精神科医の説明では

ノーマンが2人を殺して

二重人格になったと分析している。

 

一体どちらが正しいのか?

 

あの保安官は頼りにならないから、

信用しないわけではないが、

そう思い込まされているだけだろう。

事実は精神科医の言うように

ノーマンが殺してしまったのだと思う。

 

愛人に本当に妻がいたのかはわからないが

ノーマンが自らの手で

母を殺してしまったと考えた方が

確かにショックは大きいから

精神に異常をきたしてしまうのもわかる。

 

しかし……

ちょっと待ってほしい!

この話を精神科医に話したのは

ノーマンではなく「母親」だ。

何か引っかからないか?

 

彼女は自分が殺したのではなく、

全ては息子がやったと

最後まで息子に罪を被せている。

マリオンを襲ったのは

明らかに「母親」の人格だから

これは嘘を言っています。

 

ということは、

精神科医に語ったこの話が

「母親」の保身でついた

嘘である可能性もあるということ。

あなたはどこまで信じられますか?

本当にノーマンが

2人を殺したと思いますか?

悪いが俺は信用できないね。

 

愛人に妻がいて、

母が愛人を殺して自殺してしまい、

死んだ母を見たショックで

母がまだ生きていると信じるために

人格が解離したと考えた方が納得できる。

 

母に愛人が出来て

見捨てられると思ったから

愛人を殺した……まではわかるが

母まで殺すことはないだろう。

どうも腑に落ちないなぁ。

それでなぜ生きていると

思いこむ必要があるのか?

 

やっぱり俺は

保安官の方が正しくて

母は自殺したと思う。

個人の見解ですが。

……正解はどこかにあるのだろうか?

 

 

サイコホラーの金字塔

俺の点数は7.5点と

低く感じるかもしれないが

今の基準で見てしまうとどうしても

物足りないと感じてしまう。

 

特に気になったのが

ノーマンが二重人格だという

ヒントがなさすぎること。

あれでは最後まで騙されてしまう。

情緒不安定なところを

もっと出してほしかった。

 

前半の車の交換のくだりは

正直いらない気がする。

会社で大騒ぎになる様子や

ライラの心配する様子を

見せたほうが感情移入しやすい。

 

ミスリードは多め。

ノーマンの声と母親役の声を

完全に別人をキャスティングしているのは

アンフェアかもしれないが

俺はいいと思った。

男が美女の声を出すのは難しいが

老婆の声なら出せる可能性があるからね。

ちなみに母の声は3人の声を

合成して作っているらしい。

 

地下室で母親の骸骨が振り向いて

女装したノーマンが

ナイフを持って正体を明かす場面。

ウィン!ウィン!っていう

あの超有名な効果音が響き渡って

かなり興奮しました。

殺されなくて良かったよ、ホント。

 

しかし、

ラストはノーマンの身体を

母親の人格が乗っ取ったようで

不穏な空気で終わる。

ノーマンの笑った顔に一瞬

母の顔が重なる演出は怖い。

 

余談。

ヒッチコック監督が与えた

後世への影響という

特典映像を観たが

何とも凄い人だなぁ。

 

『サイコ』でも

衝撃的な主役交代、

車の運転中の映像に

他の人の会話を混ぜたり、

シャワーシーンは細かいカットを繋いで

一度も身体を刺されてないのに

刺殺されたように見せるテクニック、

排水溝から目のドアップに切り替えたり、

探偵が階段を落ちるシーンは

探偵の顔だけを映したまま後ろへ落ちるなど

不思議な見せ方だなと思った。

 

昔、『鳥』も見た事があるけど

子供心に怖くて

まともに見れてなかったし、

またいつかヒッチコック作品を

レビューしようと思う。

新しい発見があるだろう。

 

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