山形を拠点に、世界のブナの森と、極東ロシアを巡る博物誌
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ツキノワグマ
秋田での調査の合間に無理やり時間を捻出して、どうしても気になっていた県北のクマの状況をもういちど見てきた。朝だけで、ひとつの集落のまわりで10頭を見た(12回見たが、同じ個体が2度現れた可能性が2回あった。他は明らかに別個体)。
何の事前情報もなく、たまたま車を停めた主要な道路沿いのごく一般的な集落だった。6時にはチャイム、6時半にはラジオ体操が有線から流れ、犬の散歩の人が道を歩く。そのなかでクマは巧みに人目を避けながら、水田でイネを食べ続けていた。
画面右下の水田に黒い点。肉眼では、隠れているので見えないことの方が多い。
午前5時半、水田でイネを食べる中ぐらいのツキノワグマ。辛うじて物が見えるかどうかという薄暮時(午前5時過ぎ)に林から出てくるのが見えた。前夜からそこにいた私には気づいていないが、道路を時折車が走り、6時になって有線放送のチャイムが流れてくると、首を上げて警戒していた。長いレンズを持っていないので、記録写真が精いっぱいだが、現状を少しでも知りたい。
午前6時半、ラジオ体操が響き、霧が立ち込めるなか、水田でイネの実を食べる大きなツキノワグマ。10分ほどして私の存在に気づくと耳を立て、ほどなく足をとられないよう飛び跳ねながら水田を横切り、川を越えて200mぐらい離れた林へと逃げていった。
午前7時前。この集落のクリは1個残らず食べつくす勢いでクマ棚ができており、下草が踏まれてきれいになくなっていることで、落ちた実も毎晩のように食べていたことがわかる。もうクリの時期は終わりなのだが、それでもわずかに残った実を求めて高所の枝が落とされて、道路がふさがっていた。
すぐ近くで川沿いの牧草地を横切っていく親子のツキノワグマを見た。おそらく夜が明けてもクリを折っていたのだろう。そのまま川の堤防を歩いて姿を消した。
午前8時、日が当たる水田で親子(子は1頭)のツキノワグマがイネを食べている様子をみていると、その隣の水田にも2頭の子を連れた別のツキノワグマが出てきた。後者の親子は午後にも同じ水田に出てきていた。
ツキノワグマが食べ続けた水田は穴だらけになっている。
昼間は車で1時間以上かかる場所に昆虫のモニタリングに行かねばならなかったので、14時半にこの集落に戻ってきた。先週にイネを食べるツキノワグマを見た水田には今日はまったく出ていないと思っていたが、広角で水田の環境を撮っていると、イネの間から黒い耳が出ていた。慌ててレンズを変えようとするが、すぐに逃げられてしまい、イネの間から出る耳も、電柵を潜る瞬間も撮れなかった。
水田のなかに潜んでいるツキノワグマ(中央奥)。人や車の気配には非常に敏感で、こうして巧みに身を隠すうえに逃げ足も速いので、よほど注意しなければ見落とす。
糞を見る限り、イネは消化されておらず、空腹は満たすもののエネルギー源を摂取できていない可能性があることが気にかかった。1/4ぐらい消化されているものもあったが(誰かに踏まれていてキタナイので撮らなかったのは失敗)、真新しいものはほぼ潰れていなかった。口に対して粒が小さすぎるので、籾殻を外せないのではないだろうか。もっとも、9月上旬まではイネの実は乳化した状態なので、その時点までは摂取できていると思われる。
夕方からはさらに別の場所で調査が控えており、日没まで見ていたかったが、ここで観察を打ち切った。
10月23日、秋田県
黒い影
秋田県北部のツキノワグマの状況が山形とは大きく異なるようにみえたので、所用の合間に2時間だけ、これまでずっと見てきた山形県朝日山系の状況がどのように変化したかをざっと見てまわる。
クリのクマ棚はほぼ古くなり、下でクマが実を拾って歩き回るので、下草がきれいになっている。カキにクマ棚ができ始めているが、大きな枝を落としても、まだ一部を齧っただけ。
何よりもまず、クマ棚は多くとも、クマは昼間には活動しておらず、夜に出てきているようだ。
次いで飯豊山系を走ると、クリに夥しいクマ棚がある脇に、こんな時期になってもまだ実を残しているオニグルミを折った真新しいクマ棚があった。10月下旬にオニグルミを食べるなんて、初めて見た。しかしこちらでも昼間には姿を見せそうな気配もない。
クマ棚の数は夥しいものの、やはり秋田とはかなり様子が異なっていそうだ。
田んぼで落ち穂を拾っていないか探していると、果たせるかな黒い影が餌を探していたが、小柄でかわいらしい上に、長い尻尾を見せてずいぶん身軽に走って姿を消した。
水田で黒猫を見た3分後、道路沿いのソバ畑での光景。民家からの死角になるソバ畑は特別な存在らしい。視界に5頭。両方が画角に入るようにレンズを変えているうちに藪に消えていった。
10月20日、山形県長井市~小国町