篠原美也子文庫


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篠原美也子文庫
第十六夜
1995/04/05-1995/05/03
【真夜中のエレベーター】
【箱】


【1】
<記:篠原美也子 1995/04/05>


3人の人間がエレベーターを待っていた。
2台のうち1台は故障中となっている。


20階建ての高層マンション。


やっと扉が開くと、塾帰りらしい小学生が真っ先に無人の箱に飛び込み、
フロアパネルの前に陣取った。

そして
「16」という数字を押した後、
いつも教えられているらしい口調で
残りの2人に問いかけた。


「何階ですか?」


2人は一瞬顔を見合わせ、まず、スーツ姿の中年男がおずおずと、

「13階を」
と言い、


大学生風の若い男が、
「同じです」

と少し驚いたように続けた。


煙のような居心地の悪さが2人の間を流れ、
母親の言いつけを守ったことで
満足げな少年が「13」のボタンを押し、


扉がゆっくり閉まりかけたとき、
小走りの足音が聞こえた。


「すみません」


軽く息を弾ませたOLらしい若い女に
少年は同じ質問をし、女は


「20」


と答えた。



今度こそ扉は閉まり、特有の気詰まりな空気の中、

階数ランプの数字が「10」から「11」に変わろうとした瞬間、



何の前触れもなしに、


エレベーターが止まった。




【2】
1995/04/12
<記:P.N:エンドウライタ>


何が起こったのか誰もすぐには理解できなかった。


5秒の沈黙の後、少年が「開」のボタンを何度か押したが


重厚なドアに変化は無かった。


恐ろしく長い次の数秒間、4人は互いに何度も視線を交わし、


ようやく自分達の置かれている状況を理解した。



大学生風の男が緊急時のためのボタンを何度か押したが、
それがきちんと役割を果たしているか確かめようがなく、
カタカタという音だけが空しく響いた。



通気孔はあるが妙に息苦しく、中年のはげあがった頭には
不健康そうな脂汗が流れていた。



少年がおろおろとし、平静を装う大人達に向かって
何か話しかけようとした。


しかし、口がパクパクと動いただけで音にならない。



結局、先に言葉を発したのはOL風の若い女だった。



「閉じ込められたようですね。
 閉じ込められたのですね。
 閉じ込められたんだわ」



そう繰り返す女の顔つきはどことなく楽しげで、
男達の冷静さを一度に崩壊させるだけの

おぞましさを持っていた。




【3】
1995/04/19
<記:P.N:ユウコ>


非常用のボタンを押す音は次第に大きさを増し、

大学生風の男は、
やがて、そこにある全てのボタンを叩いた。


中年男はポケットを探って煙草を出そうとしたが、周りを見て断念した。
代わりにしわくちゃのハンカチを取り出し、汗を拭ったが、
焦りは拭いきれない様子である。


少年はへたへたと座り込むと泣きべそをかき始めた。


取り乱したことで生じた大小様々な音は、
彼ら自身をますます困惑させたに過ぎない。


女は壁面の鏡に向かい、
先ほど走ったために乱れた髪を撫で付けると
にやりと笑った。


そのとき、突然電気が消えた。


過度の緊張が、エレベーターが

一回り小さくなったような錯覚を起こさせる。


重苦しい空気が圧迫する。



「上へ参ります」



女の明るい声が暗闇を埋めた。


すると、ガタンとひとつエレベーターが大きく揺れ、
ゆっくり動き出した。



それはジェットコースターが最初の坂を上がっていくときの
あの、不気味なまでののろさに、あまりに似ていた。




【4】
1995/04/26
<記:P.N:ロンリースピノザ>


「どこまで上るのですか?」
大学生がおずおずと聞いた。


「どこまで上るんだ?」
中年男が上擦った声で叫んだ。


暗闇だけがあり、返事はない。
女を捕まえようと中年男はもがくように手を伸ばした。


そして、ついに女の首根っこを捕まえると、
女にしては少し太い首を力一杯締め上げた。


「何故何も答えない?」


「く、くるしい・・・」
うめき声を上げたのは大学生だった。


「あっ、失礼」


中年男は慌てて手の力を緩めた。


その間にも、真っ暗なエレベーターが
ゆっくりゆっくりありえないほどの遅さで、
上へ上へとどこまでも上っていくのを
3人の男達は震えながら感じていた。


どれほどの不気味な時間が流れただろうか。


不意に


「下へ参ります」

という女の声が響いた。


声はしたけれど、
小さな箱の暗闇の中には女の姿はどこにもないように思われた。


急降下するに違いない、


そう思った3人は恐怖におののきながら身構えた。




【5】
1995/05/03
<記:P.N:ユウコ>


「3名です」


再び女の声が響くと、エレベータの床が音もなく消えた。

3人の男は姿を消した。

堕ちた。


呻き声を感じて中年男が下を見ると、
やつれた男が下敷きになっている。


大学生は隙間なく男達が敷き詰められていることに気付いた。


3人の顔からさっと血の気が引き、
すがるように上を見上げたとき、箱の蓋が閉まった。


立ち上がると、小学生でさえ頭をぶつけるほどに蓋が迫っている。

キレイに並べられた男達がマッチ棒のように見えた。


エレベータの床が音もなく現れた。


壁面の鏡が左右を軸として向う側に60度回転すると、
OL風の女が滑り込み鏡のドアを閉めた。


小さく溜息をついて、わずかに汗がにじんだ額に
白いハンカチを押し当てた。


すると、インターホンから冷たく抑揚のない女性の声が響く。



「ごくろうさま、あなた、新人ね?」

「はい、そうです」


「乗り遅れるところだったじゃないの。
時間がないと注意したはずよ?

それから、あなた、、、

不気味さが足らないわ・・・」




[完]





採用+最終選考
【1】
1994/2/23
<記:篠原美也子>


【2】
1995/04/12
<記:P.N:エンドウライタ>
最終選考
リトルウイング
アオタケワッテヘコイカク
ハセガワナオキ
ジュリーハスキー
カエッテキタオバQハイランド
タナカトモユキ
チェリービー
アナタガワタシヲミツケタトコロ
シンジョウアキ
ヘッドシュリンカー
ブルキナファリ


【3】
1995/04/19
<記:P.N:ユウコ>
最終選考
ツキヨノクジラ
キニナルウミ
ジャニスノマルメガネ
ノギリカゲツ
アナタガワタシヲミツケタトコロ
アオヤマカズヒデ
トレジャーハンターロック
ジュリーハスキー
ハカタンモンハオウドウモンハアオタケワッテヘコイカク
シンジョウアキ
タナカトモユキ


【4】
1995/04/26
<記:P.N:ロンリースピノザ>
最終選考
ササノミチロウ
ユウコ
ナカニシミキ
シンジョウアキ
ソレユケヤレユケスティールキャスト
アナタガワタシヲミツケタトコロ
モンチッチ
ジュリーハスキー
サシキレLAウイン
ツキヨノクジラ
タナカトモユキ
ノギリカゲツ
ルマ


【5】
1995/05/03
<記:P.N:ユウコ>
最終選考
フウチャンノオキテガミ
ツキヨノクジラ
ヘッドシュリンカー
アナタガワタシヲミツケタトコロ
アオヤマカズヒデ
コウヤマナミ
オイエタケシ
タナカトモユキ
エリーハネール'95
オザヨ
ハルカ
トニーJ





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