篠原美也子文庫
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第十四夜
1995/01/25-1995/02/22
【真夜中のカメレオン小説】
【吾輩はカメレオンである】
【1】
<記:篠原美也子>
1995/01/25
吾輩は、カメレオンである。
名前は特に無い。
生まれは遠くの暑い国だが、
1年前、
ここ四越デパート8階の、
ペット売り場へやってきた。
雨も降らず、
シャッターが開かなければ、
太陽も見えないガラス箱の中の暮らしは、
決して大満足とは言い難いが、
たったひとつ、
生まれ故郷では
滅多にお目にかかれないものが
ここにはわんさと溢れており、
吾輩の無聊(ぶりょう)を慰めてくれる。
それは、
人間である。
吾輩の住むガラス箱の片側は、
売り場に面しており、
【店員】および、
亀やら蜥蜴やら吾輩やらを 眺める、
【買い物客】を、
見ることができる。
そして、もう片側は、
もう一枚のガラスの壁越しに、
屋上広場が見渡せる。
夏はビアガーデンとやらで賑わい、
真冬の今は、人もまばらだが、
少し暖かい午後は、
サラリーマンやOLや
家族連れの休憩所となる。
毎日、様々な人間達が、
吾輩の目の前で思わぬ姿(素顔)を落としていく。
午前10時。
今日もそろそろ開店の時刻である。
【2】
<記:モンチッチ>
1995/02/01
開店のアナウンスと共に、
このペット売場に飛び込んできたのは、
一組の老夫婦だった。
「おじいさん、
この茶色のがいいじゃないかねぇ?
毛が長くて、可愛らしいじゃないか。」
どうやら犬を買いに来たらしい。
ふと、老爺と目が合った。
「はて?、
この緑色のは、何だろう?」
吾輩を知らないらしい。
吾輩は、
シンボルマークでもある、
吾輩自慢の舌を出して見せた。
「なんという素晴らしい舌だ。
螺旋状に伸びている。」
感動してくれたようだ。
「何でこんなに舌が長いんじゃろうなぁ?、
なぁ、婆さんや、、」
しかし、老婆は犬に夢中で、
老爺を無視している。
吾輩は、開店前に店員が入れてくれた
朝御飯を舌で取って食べた。
ここでは昆虫の死骸だが、
生まれ故郷では、
元気に飛んでいるおいしそうな昆虫を 、
特大の目をめいっぱい動かして見つけては、
この長く、螺旋状の舌で
捕食していたのである。
こんな吾輩の、達者な舌の動きに
老爺は感心してくれたらしい。
老婆は、相変わらず
ガラス越しに、
犬に愛嬌を振りまいている。
【3】
<記:ジェッツ>
1995/02/08
しばらくすると、
吾輩を見つめていたその老爺は、
くるりときびすを返し、
犬を見ている老婆へ近づいていった。
吾輩はその、後ろ姿を見つめていたが、
何やら吾輩にはわからない話を始めてしまったので、
すぐにそれにも飽きてしまった。
吾輩は何気なく後ろを振り返った。
今日もいい天気だ。
こんなとき人間なら、
どんな気持ちになるのだろうか。
残念ながら、
吾輩の様に狭い世界にいる者には、
広い世界にいる人間の気持ちはわからない。
その時、
吾輩は妙なことに気付いた。
この時期、
滅多に人が来ることのない、
屋上に
一人の女性が立っているではないか。
それに、吾輩の記憶では、
あの、
【フェンス】とかいう
鉄の柵より外に立っている
人間を見たことがない。
「おじいさん!」
突然、さっきの老婆が声を上げた。
振り返ると、
慌てた顔で、
屋上を指差している。
【4】
<記:エリーハネール'95>
1995/02/15
老婆の一言で、
店内中がざわめきに包まれた。
そして、店員やら、騒ぎを聞きつけた客やらで、
屋上広場は大騒ぎである。
吾輩にはその騒ぎの理由が、
もう一つ理解できないのだが、
ただならぬ雰囲気であることだけはわかる。
「来ないで!
来ないでください!」
【フェンス】の向う側の女性は、
首を大きく振りながら叫んでいる。
そして、そうして女性が体を動かす度に
周囲からは悲鳴のような声があがる。
そんな人間達の不思議な行動に
首をかしげている吾輩に、
毛づくろいをしていた隣の犬が、
ポツリと呟いた。
「全く訳が解らないよ、
人間ていう生き物は。
ああやって、
自分で自分を殺そうとするんだからな」
【自分で、自分を殺す】
どういうことだろうか?
吾輩の頭はますます混乱する。
「ちょっと私の話を聞いてちょうだい。」
混乱する吾輩を尻目に、
さっきの老婆が、
女性に近づいていくのが見えた。
【5】
<記:スズノナルミチ>
1995/02/22
周りの緊迫したざわめきが見守る中、
老婆が女に向かって何やら話し始めた。
それを見て、
先ほどの犬が前足をなめながら言った。
「見ろよ、
もうじき死ぬ老人が
まだ充分に生きられる
人間の死を、止めようとしている。
ホント、わかんねえよな、
人間って。」
すると、
それまで
経緯を黙って見ていた、
この店で一番年上の、
インコが呟いた。
「そうじゃ、わからん生き物じゃ。
彼らは自分が人間であることを
自覚しているようで、していない。
己を高いところから
見つめることができんのじゃよ。
自分の広さを忘れている。」
この狭いガラス箱の中にいる吾輩にとって、
そんな広さはとても魅力的に聞こえた。
一体、この空と、人間と、
どちらが広いのだろうか?
女が、こちらの世界に戻ってきた。
拍手が鳴り響く中、
老婆と女はかたく抱き合っていた。
今日もまた、晴れている。
吾輩は、久しぶりに
体の色を変えてみたくなった。
この広い、空の色に。
吾輩は、青い、
カメレオンである。
[完]
採用+最終選考
1995/01/25
【1】<篠原美也子>
1995/02/01
【2】<記PN:モンチッチ>
最終選考
ジュリーハスキー
ウオシュレットハキモチイイ
タナカトモユキ
ツキヨノクジラ
ランピツキゾク
スズメ
オガワゲンノジョウα
キイロイヘビ
ミキナカニシ
アモーヨウヘイ
タケナカヨリミ
マーブルマッドネス
プリンスプリンス
キタノカンサイジンV2ゴウ
ヨコハママタタビバージョン
1995/02/08
【3】<記PN:ジェッツ>
最終選考
トウショウボーイインキタキュウシュウ
ムカイカゼ
ナカニシミキ
チツジョノナイゲンダイニアビセゲリ
スズメ
ジャニスノマルメガネ
タナカトモユキ
キイロイヘビ
ハセガワナオキ
1995/02/15
【4】<記PN:エリーハネール'95>
最終選考
ジュリーハスキー
サイキョウバタマモクロス
ラマヒストラル
ユウコ
シンジョウアキ
タナカトモユキ
ナカニシミキ
1995/02/22
【5】<記PN:スズノナルミチ>
最終選考
トニージェー
シブヤカズマサ
オオマラマスジロウ
タナカトモユキ
スターノアイ
キイロイヘビ
ナカニシミキ
ジュリーハスキー
シノハラミヤコハAカップ
紀二鳴
シンジョウアキ
オザヨ
メグロノサンマ
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