篠原美也子文庫


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第十八夜
1995/06/21-1995/07/26


【真夜中の冒険小説】
【葡萄ヶ丘病院】



1995/06/14
真夏のオールナイトニッポンの為
文庫お休み



【1】
<記:篠原美也子>

1995/06/21

1995/06/28

<※航空関連緊急放送で地域的に放送が中断。
初回2度放送されました。>


「あれ?」



待合せ場所の公園を抜ける路地で、



【吉岡悟】は、



真っ暗な空を仰いだ。


この時期特有の、



じっとりと重たい風に、



雨が混じり始めている。



軽く舌打ちをして、



悟は足を早めた。



待ち合わせは、



午前1時。



路地を抜けた時、



公園の時計台が、



きっかり1時を差し、



ぼんやりと小雨に煙る外灯の下、



二つの人影が見えた。




「うまく抜け出せたか?」




駆け寄った悟に、



いつものからかう様な口調で話しかけた



小柄なジャージ姿は、


【林健太郎】



傍らで、長身の背を丸めるようにしながら


黙ってニコニコしているのは、


【安田智彦】



3人は同じ中学の一年生で、



クラスでも評判のイタズラ仲間である。



「おう、姉ちゃんがなかなか寝なくて

ちょっとアセったけど、ばっちり。」



「ようし、行くか」


振り返った3人の目の前、



公園の木々を隔てて



黒々とそびえ立つ古い病院跡。



不治の病を苦に、



飛び降り自殺した少女の幽霊が、



夜毎手すりにもたれ、



すすり泣くという屋上を目指し、



怖いもの知らずの三つの影は出発した。



【2】
<記PN:ワタルヘンドリックス>
1995/07/05


闇に支配されている院内の廊下の先は、



悟達にとって、



永遠の空間に思えた。



どこまでも響く3人の足音。



湧き所が不透明な、生暖かい空気。



唯一、彼らが確信を持って信じられるのは、


懐中電灯の灯が照らし出す、



闇から逃れた現実だけだった。



そして、ひとかたまりとなって



闇をかき分けながら進んだ一行は、



錆び付いた505号室の扉の前で



立ち止まる。



「ここが幽霊少女の

病室だったらしいぜ。寄ってくか?」



健太郎が、爛々とした瞳で呟き、



智彦と共に悟を見つめる。



「そうだな、何か迫力に欠けてるし、

寄ってくか。」



強い言葉を吐きながら、



恐怖をひた隠す悟は、



ドアノブを静かにひねると、



扉から溢れ出した光に呑み込まれ、



夜の闇に2人を取り残したまま消えた。



勇気を偽った微笑みを口元にたたえながら。



悟は、なぜか昼下がりの病室に、



呆然とたたずんでいた。



そこに夏の香りはなく、



秋の切ない匂いが漂っている。



そして、悟がそこに見たものは、



窓の外の葡萄園を、



悲しげに見つめる、



一人の少女だった。



【3】
<記PN:ユウコ>
1995/07/12


ベッドにちょこんと腰掛けたその少女は、



葡萄園など見てはいなかった。


「理恵でしょう?


足音でわかったわ。


目が見えなくなったから、

やけに音が気になるのよ。」



少女が見つめているのは、



懐中電灯ひとつない暗闇なのである。



少女は悟の方を向かずに、



か細い声で続けた。



「理恵、昨日はごめんなさい。

怒ってる?


自分でもよくわかんないのよ。


死にたいなんて、

嘘なのよ。


ごめん、もう二度と言わない。


理恵、今、忙しいんでしょう?


無理して毎日来ることないのよ。

でも、うれしいわ。


あの、私、とても感謝してるの。


だから、忘れてね。


昨日言ったこと、全部。


ちょっとおかしかったのよ。


高見の見物だ、なんて思ってない。


私が勝手に卑屈になっているだけだわ。


ゆうべ、ずっと泣いてたら、



なんだかすっとして、


今すごく


楽しい気分なの。


だから、大丈夫。」



少女のふわふわした話し方は、


悟の背筋を寒くさせた。



「ねぇ、理恵、屋上行こうか。


今日は気持ちいいんじゃないかしら。


甘い匂いがするわ、


葡萄の。」



【4】
<記PN:ハシモトタカキ>
1995/07/19


「おい、どぉなってんだよ?」



健太郎は智彦と顔を合わせる。



お互いの情けない顔に、



嫌気が差す。



「悟が…」



智彦がそう言いかけたとき、



閉ざされたドアのノブが、



ガチャリ、



と音を立てた。



「ひっ」



と二人は同時に後ずさり、



壁に体を打ちつける。



悟だ、悟に違いない、



そう思いながらも、



ドアがゆっくり開けられると、



二人は叫び声を上げて逃げ出してしまった。



振り返ることなど、



出来ない。



「怖い。」



悟なら声をかけてくるはずだ。



二人がごちゃごちゃの頭を抱えて



階段にたどり着くと、



下の階から何者かが上って来る音が聞こえる。



「嘘だろ、、?」



泣きそうになりながらも、



二人は上りの階段を走っていく。



「ちょっと、この上って、、」



五階建ての病院。



つまり、この上は幽霊が出るという屋上だ。



「ヤだよ、俺、」



泣き言を言う智彦に、



「オレだって!」



と健太郎は怒鳴った。



音に追い立てられて



屋上の扉を開けた二人は、



転がるように屋上に出た。



そこに待っていたのは、



夜の雨ではなく、



天高い、



秋の昼下がりだった。



【5】
<記PN:ツジモトケイイチ>
1995/07/26


2人は座り込み、



恐怖で震える体を寄せ合い、



ドアを見つめた。



悟と少女が現れた。



健太郎は喋ろうとしたが、



声が出ないことに気が付いた。



悟も智彦もそのようだ。



ふと、少女が口を開いた。



「友達が来てるのね、、


音でわかるわ。


あとね、あなた達が


ここに何をしに来たのか。


そして、


あなたが理恵じゃないってこともね。」


少女はそう言い、



手すりに手をついて泣いた。



「ここに来るとね、いつもこうするのよ。



そのあと、みんなで葡萄園に行くの。


じゃあ、私は先に行くわ」


少女は手すりを乗り越え、



消えた。



3人の体は宙に浮き、



手すりを過ぎた。



互いに見つめあう3人は、



出ない声で泣いた。



風船のスピードで落ちていく3人を、



不意に、光が包んだ。



ひんやりとした地面に、



彼らは横たわっていた。



互いに目があう。



3人はわけもわからず、



笑った。



雨は嘘のように止み、



月が出ている。



そして、その月明かりが照らし出す。



見覚えのない一房の葡萄を見つけた時、



3人の笑いは凍りついた。


[完]



採用+最終選考
1995/06/21
1995/06/28
【1】<篠原美也子>


1995/07/05
【2】<記PN:ワタルヘンドリックス>
:オカモトリュウゾウ
:プリンスプリンス
:ユウコ
:トレジャーハンターロック
:ササキノブユキ
:ニシヤマヨシヤ
:ジュリーハスキー
:ジコクノキコウシ
:エンドウライタ
:フクメンサッカ
:ルマ
:モンチッチ
:サイキョウバタマモクロス
:ムカイカゼ
:ヤマボウシカゲボウシ
:ツキヨノクジラ
:カミコガワ


1995/07/12
【3】<記PN:ユウコ>
:オザヨ
:オダエイイチ
:ハットリユミゾー
:アナタガワタシヲミツケタトコロ
:ジュリーハスキー
:ササキノブユキ
:ワタルヘンドリックス
:エンドウライタ
:オオマラマスジロウ
:ルマ
:ニシムラタカシ
:ジゴクノキコウシ
:ドリョクガキライナキゾク
:アックニンフェイス
:キイロイヘビ
:ミッドナイトパーティ-
:トレジャーハンターロック
:ギンイロノカセキ


1995/07/19
【4】<記PN:ハシモトタカキ>
:ヨコハママタタビバージョン
:プリンスプリンス
:ヤマボウシカゲボウシ
:ジゴクノキコウシ
:エンドウライタ
:バナール
:トレジャーハンターロック
:ヨゼミニネンセイ
:キイロイヘビ
:ユウコ
:オマケノQタロウ
:ニシムラタカシ
:ユウヤケノアカネイロコ
:ジュリーハスキー


1995/07/26
【5】<記PN:ツジモトケイイチ>
:オオマラマスジロウ
:ヤマビコノギグ
:アナタガワタシヲミツケタトコロ
:ケンゾー
:サイトウリュウジ
:キイロイヘビ
:オカモトリュウゾウ
:ヤマボウシカゲボウシ
:トレジャーハンターロック
:ザリガニ
:ハシモトタカキ


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