「リバウンド現象」についての皮膚科医による記述 | 皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

金沢市の野町広小路医院で皮膚科医をしています。
何を信じればいいのかわからないこの時代に、
医師の視点から放射能汚染や皮膚科医療の問題点について考えます。

今までに数回にわたり記事の中で、ステロイドの依存性やリバウンドについて書いてきました。しかし日本皮膚科学会は「ステロイド外用剤ではリバウンドは起こらない」とする立場をとっています。

読者のみなさんの中には、一部の脱ステロイド医のみがステロイドの危険性について、必要以上に煽りたてていると感じる方もいるかもしれません。
 
けれども、以前から、賢明な皮膚科医たちはリバウンドの存在を認識していました。以下のような専門書や一般向けの書籍にも、リバウンドやタキフィラキシー(慣れによる効果減弱)などについての記述があります。

著者はいずれも高名な大学教授であり、西岡先生や塩原先生は免疫・アレルギー、田上先生は角層が専門であると記憶しています。

私が所有している書籍からの引用のみですので、ほかに探せば同様の記述はいくらでもあると思います。


外用ステロイドの場合にも、withdrawal syndromeはあって、とくに顔面では潮紅、腫脹を伴い膿疱が多発することがある。強力な外用ステロイドの場合、跳ね返り現象reboundで紅皮症となったり、乾癬では乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬となることがある。眼囲には強い外用ステロイドは使わない。また、どのステロイドも眼囲には長期に使ってはいけない。
(池田重雄、荒田次郎、西川武二編 標準皮膚科学 第5版 医学書院、2009年、p494)



Q39、ステロイド酒さ・酒さ様皮膚炎の外用療法は
ステロイド外用薬の長期使用によって発症した状態であるので、ステロイド外用薬の使用を中止することが肝腎であるが、ステロイド外用薬中止による再燃現象に耐えられず、ステロイド外用薬を使わざるを得なくなることが多い。そのため、ステロイド外用薬の使用量を徐々に減少させる治療法もとられている。テトラサイクリン系抗細菌薬の内服が併用される。
(中略)
ステロイド酒さは、ステロイド外用薬の顔面への長期使用によって出現するが、ステロイドの全身投与、ステロイド外用薬の顔面以外の部位での広範囲、長期使用によっても出現するので、皮膚疾患治療へのステロイド外用薬の使用をすべての場合で短期間に限定することが要求される。
 成人型アトピー性皮膚炎の顔面の潮紅発作は、ステロイド誘発性酒さに属する反応と皮膚への刺激物の作用による反応とがあり、皮膚症状の詳細な検討によって鑑別する必要がある。
(西岡清 皮膚外用薬の選び方と使い方 改訂第4版 南江堂、2009年、p71)



アトピー性皮膚炎などで長期使用後、急に中止するといわゆるリバウンド現象が起こり、著名な浮腫性紅斑が生じるため、徐々に弱くしていくか入院なども考慮したうえで慎重に離脱を行う。
(新村真人監修 上出良一編集 皮膚診療クイックリファレンス MEDICAL VIEW社、1998年、p123)



ADは皮膚のバリア機能の低下により引き起こされるとする考えが一般的になりつつある。経表皮水分喪失量(transepidermal water loss;TEWL)は、そのバリア機能の指標とされるものである。ADではこのTEWLが著明に亢進しているため、角層水分量が低下し、乾燥した皮膚となる。それではス薬はこのTEWLにどのような影響を与えるのであろうか?さまざまな実験結果は、ス薬が短期的にも長期的にもTEWLを低下させることを明らかにしている。筆者らは、健常人における1日の角層水分量の変動を測定した結果、ス薬は極めて速やかに角層水分量を著名に低下させることを明らかにしている。
 実際にこのような臨床例は数多く挙げることができる。図3-19はス薬のみを長期外用した結果、皮膚の著明な乾燥を生じ、湿疹を悪化させていた例である。残念ながら、この症例も皮膚科専門医が診ていた症例で、ス薬を中止し保湿剤の外用のみで軽快した。最近保湿剤に対する認識が高まり、AD治療では保湿剤が欠かせないものとなっているが、ス薬の長期使用が皮膚を萎縮させ乾燥させる結果として、その強力な抗炎症作用にもかかわらず、ADの病態を悪化させうることは広く認識されるべきであろう。筆者らの教室からも、ス薬で治らない炎症反応が保湿剤単独で十分治りうることを数多く報告してきた。類乾癬、扁平苔癬などこれまで乾燥とは無縁と考えられていた疾患群ですら、ス薬の外用より保湿剤単独使用のほうがはるかに有用であるという事実は一体どのように考えたらよいのだろうか?
(塩原哲夫 「ステロイド外用療法再考」 匠に学ぶ皮膚科外用療法 全日本病院出版会、2012年、p183) 



 ステロイドには、長く使っていると慣れの状態が起きてくるタキフィラキシーとよばれる現象があらわれてきます。薬への慣れのため、はじめは効果が見られた量を保っていると、だんだん同じ効果がえられなくなります。そのため、同じ効果を得るためには量をまさなくてはなりません。そのように、だんだんと投与量、投与回数がふえてしまうのです。
 顔や首などの皮膚に、長いことある程度強いステロイド外用剤を塗って赤ら顔になった状態では、ステロイドなしではいられなくなり、激しい炎症が起こり、顔は腫れ、目も開けられなくなります。これを反跳現象(リバウンド)とよんでいます。ちょうど麻薬の禁断症状と同じように、ステロイドをやめられず、塗ることをつづけざるをえなくなります。最後は真っ赤な顔をして、強いステロイドを一日何回も塗らずにはいられないという、まさに生き地獄のような状態です。
(田上八朗 皮膚の医学 中公新書、2004年、p232)


これらを読むと、リバウンドは顔面、頸部の酒さ様皮膚炎に限ったものでなく、全身のどこにおいても起こりうるということが理解できます。

また、塩原先生はステロイドを止めることにより改善がみられた乾燥性湿疹の症例を提示しています。そして、ステロイド外用剤がバリア機能を低下させることによりADを悪化させる可能性についても述べています。多くの皮膚科医は、ステロイド中止により炎症性の皮膚疾患が改善する可能性について、全くといっていいほど認識していません。塩原先生の講演は、オリジナリティーあふれていて大変面白いのですが、臨床医としても優秀な方なのだと思います。

塩原先生は最後に、このように書いています。
ス薬に対するいわれのないバッシングが鎮静化した今こそ、我々は冷静な目でス薬の有用性、使い方、問題点につき再検討してみる必要がある。本項では主にス薬使用の問題点を述べたが、これは決してス薬の使用を避けるべきという立場から言っているわけではないことを強調しておきたい。これほどの強力な抗炎症作用を持つ薬剤だからこそ、これを大事にして最も効率よく安全に使っていく方法を探っていかねばならないと考えている。そのような薬剤だからこそ、我々皮膚科医はそれを扱うプロフェッショナルであるべきだと強く思う。我々はス薬が再びバッシングの対象とならないよう、不断の努力を続けていかねばならない。
(塩原哲夫 「ステロイド外用療法再考」 匠に学ぶ皮膚科外用療法 全日本病院出版会、2012年、p184) 



アトピーについていえば、現代社会に生きている以上、患者も医師もステロイドを手放すことは大変難しいことと思います。ステロイドを使用しないで全てのアトピー患者を治療することができれば理想的ですが、そうするには日本人の生き方や、社会のありかたを変えなければなりません。依存やリバウンドの可能性があるとしても、多くの患者や親たちはステロイドを使用することを望みます。

皮膚科医にできることは、これらの副作用を説明し納得したうえで患者に使用してもらうこと、ステロイド依存を少しでも減らすように今までの安易な使用を改めること、だと思います。



にほんブログ村 病気ブログ アトピー性皮膚炎へ
にほんブログ村