顔面へのステロイド使用について | 皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

金沢市の野町広小路医院で皮膚科医をしています。
何を信じればいいのかわからないこの時代に、
医師の視点から放射能汚染や皮膚科医療の問題点について考えます。

ステロイド外用剤を最も注意して使わなければならない場所。

間違いなく、それは顔面だ。


ステロイドの代表的な副作用である酒さ様皮膚炎が生じるのは圧倒的に顔面が多いし、ステロイドによるリバウンドも顔面に出ることが多い。アトピー性皮膚炎では、顔面がリバウンドによって悪化すると、他の部位でも症状が誘発されることがある。


ゆえに顔面へのステロイドの使用を控える(慎重に使用する)だけで、ステロイド依存患者を、ずいぶんと減らせるのではないかと私は考えている。

私は顔面へステロイドを使用する際、アレルギー性接触皮膚炎や虫刺症など一部の病気を除いて、キンダベートなどのミディアムクラスのものを使用する。

そして、使用開始1週間後に必ず再診してもらい症状が改善していれば外用中止を指示し、改善していなければ悪化因子を探っていく。ステロイドは長くても2週間以内には中止するし、その後は絶対に間欠投与(週1~2日投与や隔日投与)はさせないようにする。そして余ったステロイドを患者さんが自己判断で使用しないように強く指導している。




私が顔面へのステロイド間欠投与を嫌うのは、以下に述べるような経験があるからだ。

空気が乾燥する冬場や春先になると、

「顔がカサカサして少し赤くなる」
「クレンジングした後、顔がつっぱる」
「まぶたが赤くなってかゆい」
といった症状で皮膚科を受診する女性が増える。

こういった患者は、生来の乾燥肌はあっても、ほとんどがアトピーとは診断できないような軽症の患者だ。

本来、このような軽い乾燥症状は、単なる”顔の洗い過ぎ、クレンジングのし過ぎ”が原因になっていることが多く、洗顔方法の指導や化粧中止の指示をするだけで、ステロイドを使用することなく改善することも多い。たとえステロイドを使用するにしても1週間以内に中止可能だ。

だがこのような場合、専門医を含めた一般的な皮膚科ではステロイド外用剤が安易に処方されることが、とても多いのだ。

しかもステロイド外用剤の長期使用の危険性を説明されていることも少ないし、はっきりと外用中止の指示を受けているわけでもないから、患者はダラダラと外用を継続するようになる。おまけに「薬がなくなったら来て下さい」と言われるぐらいで、具体的な再診の指示もないから”ステロイドの出しっ放し”状態となる。



顔面の軽い乾燥症状に他院でステロイドを処方され、「しばらく薬を塗っているが治らない」といって、私の外来を受診する患者が結構いる。

患者達はこう訴える。
「ステロイドを塗らないと顔がかさついたり、かゆくなったりするのでつい塗ってしまう」

毎日外用している患者もいるが、週2~3回外用のことも多いし、外用期間としては月単位のことが殆どである。軽い毛細血管拡張はあっても、明らかな酒さ様皮膚炎の症状はない。


こういった場合に私はまず、ステロイド中止を指示する。

そうすると軽いリバウンドを経て、ほとんどの患者がステロイドを離脱でき、ステロイドを使用していたときより症状が改善する。症状が消えてしまうことも多い。

(ここでいう軽いリバウンドとは、外用中止後に一時的に皮膚の乾燥が強くなる状態。紅斑と軽い腫張を伴うことはあるが、重症アトピーのステロイド離脱例でみられるような、強い湿潤や腫脹を伴うことは、まずない)

このような患者はステロイド依存の初期の状態であると私は推測している。
そして、このような経験から「週2~3回程度のミディアムクラスのステロイド外用であっても、顔面においては依存をきたすリスクを高める」と私は考えるようになった。


ステロイドを顔面に長期使用する際に、

「ミディアムクラスだから大丈夫」
「非ハロゲンだから大丈夫」
「月に5グラムまでなら大丈夫」
「週2~3回なら大丈夫」

という考えの皮膚科医もいるが、これらは真実ではない。

どんなに弱いステロイドであっても顔面に長期に使用してはいけない、というのが私の考えだ。




ではアトピー性皮膚炎の顔の症状はどうすればいいのだろうか。

やはり、アトピーにおいてもステロイドやプロトピックは顔面に長期間使用するべきではないと思う。
しかし、アトピーでは日常的な刺激(汗、シャンプー、顔を触る、化粧品など)が悪化因子となるため、パッチテストで陽性となるような明らかなアレルゲンがなくても、顔面の症状が長期に続くことも多い。さきに述べたような軽い乾燥症状とは違い、洗顔の指導や悪化因子の除去だけでは改善しないこともある。

こういう場合に、顔面に薬を使うかどうかは患者次第ということになる。顔に症状があると仕事や生活に支障をきたすという患者は、実際にはとても多い。
ただ、その場合に当院では、ステロイドではなくプロトピックの使用を提案している。
それは”プロトピックはステロイドに比べ中止後のリバウンドが弱い”という個人的な経験があるからだ。

もちろんプロトピックも長期に使用すればリバウンドを起こすこともあるし、将来的な発癌の可能性も否定できない。しかし患者からプロトピックを取り上げてしまうと、彼らの大事なもの(仕事や学業、恋愛など)を奪ってしまうこともある。

彼らのような”薬を使わざるをえない患者たち”は”日常生活を問題なく過ごせるというベネフィット”と同時に”副作用のリスク”も受け入れざるを得ない。それが今の医学の限界なのだと思う。

一方で、”ステロイドを長期に使用しなくても済むような患者たちが、ステロイド依存に陥っている”という現実もある。


もし、この記事を読んでいる皮膚科医がいて、顔の乾燥症状にステロイドをダラダラと塗っている患者さんを診ているならば、是非ステロイドを止めてみてほしい。

私がそうであったように、ステロイドを止めることで良くなる患者を一人でも経験したなら、きっとステロイドに対する認識が変わることと思う。





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