ステロイドの適切な使い方っていうけれど | 皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

金沢市の野町広小路医院で皮膚科医をしています。
何を信じればいいのかわからないこの時代に、
医師の視点から放射能汚染や皮膚科医療の問題点について考えます。

「皮膚科専門医はステロイドを適切に使用できるので、深刻な副作用は起こりません」

ステロイドが安全な薬であることを強調したいときや、ステロイド拒否の患者を説得するときに皮膚科医がつかう決まり文句です。

以前の私も、このように患者に説明していました。



それではステロイドの適切な使い方とは具体的にどういうものなのでしょうか?

2009年に策定された日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」をみてみましょう。(以下、青字はガイドラインからの引用)

薬物療法の1)ステロイド外用薬の項には
ステロイド外用薬の効果の高さと局所性の副作用の起こりやすさは一般的には平行することから、必要以上に強いステロイド外用薬を選択することなく「個々の皮疹の重症度」に見合ったランクの薬剤を適切に選択することが重要である。

とあります。
これはごく当たり前の話で、strongestクラス(最も強い)のステロイドとmild(やや弱め)クラスのステロイドを同じ量、同じ期間外用すれば、前者の方が明らかに皮膚が萎縮し、多毛などの副作用も発生しやすくなります。

逆に弱すぎるステロイドを使用したところで症状は改善しませんから、弱すぎず且つ強すぎない、ちょうど良い強さのステロイドを選択することが必要です。



では、重症度に見合ったランクのステロイドを使用すれば、ステロイドを適切に使用しているといえるのでしょうか?

答えはNOです。

ステロイドの副作用の起こりやすさは、薬の強さだけでなく、塗る期間にも左右されます。

皮膚萎縮、多毛、バリア機能低下、酒さ様皮膚炎などは1週間程度の外用であれば問題になることはありません(顕微鏡レベルの変化はあるかもしれません)が、外用が月単位におよぶと症状が顕在化してきます。

また、ステロイド依存も塗る期間に左右されることは明らかで、リバウンド経験者のほとんどが月単位、年単位の外用を経験しています。

私は、ステロイド依存やリバウンドを起こさないよう安全にステロイドを使用するためには、「休薬期間」を設けることが、最も重要なポイントであると考えています。


そこで外用期間や休薬期間に注目してガイドラインを見てみましょう。
1)ステロイド外用剤、顔面の項には
高い薬剤吸収率を考慮して、原則としてミディアムクラス以下のステロイド外用薬を使用する。その場合でも1日2回の外用は1週間程度にとどめ、間欠投与に移行し、休薬期間を設けながら使用する。

とあります。
ここには、間欠投与や休薬期間の具体的な日数については全く記載がありません。顔面の場合は間欠投与(1日おきや2日おきの使用)であっても、それが長期に及べばステロイド依存に陥る危険性が高まります。
また、“高い薬剤吸収率”とありますが、顔面より薬が吸収されやすい陰嚢についてはどうすればよいのでしょう。
さらにいえば、顔面以外の部位(頭皮、体幹、四肢など)については、外用期間や休薬期間についての記載は見当たりません。

ステロイドの休薬については1)ステロイド外用剤、外用中止の項に
炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には、急激に中止することなく、症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する。ただし、ステロイド外用薬による副作用が明らかな場合はこの限りではない。

との記載があります。
ここでも、漸減法や間欠投与の具体的な期間は明記されていません。また、実際の診療では“漸減あるいは間欠投与”している間に、症状がすぐに再燃してしまうことも多いのですが、このような患者たちは何時になればステロイドを休薬できるというのでしょう。



ここまでをまとめると「ステロイドの副作用の起こりやすさは、外用薬の強さや外用期間に左右される」が、ガイドラインには”外用薬の強さ”についての記載しかなく、”外用期間や休薬期間”については、ほとんど記載がないということになります。
 このようなガイドラインでは実際の診療には役に立ちませんし、ステロイドの深刻な副作用(依存やリバウンド)を減らすことも期待できません。

しかも、ガイドラインに書かれている“外用薬の強さ”でさえ遵守されているとは言い難く、子供にvery strong(とても強い)クラスのステロイドが漫然と処方されていたり、保湿剤のみでコントロールできるような軽微な症状にステロイドが使用されていることも非常に多いのです。



ステロイド外用剤は処方する側である医師、そして使う側である患者も「引き際」を意識して使用することが求められるのですが、実際にはステロイドの「引き際」を意識している皮膚科医は、ごく少数です。ステロイドを出しっ放しにするだけでは「皮膚科医=ステロイドを出すだけの薬屋」と揶揄されても仕方がないでしょう。



では、「引き際」を意識しながら(休薬期間を設けながら)ステロイドでアトピーをコントロールし続けることは可能なのでしょうか?

私は、非常に難しいと考えます。

軽度~中等度のアトピーであれば、ステロイド休薬中に保湿剤を用いるなどして皮疹をコントロールできることも多いのですが、重度のアトピーになれば休薬自体が困難になります。休薬すると、すぐに症状がぶりかえしてしまうからです。

重度のアトピーをステロイドで抑え込もうとすれば、very strongクラスの連日外用が必要となります。たとえ調子の良い時期であってもstrongクラスの隔日投与ぐらいで維持するのが関の山です。休薬期間のない状態が、年単位に及ぶことも稀ではありません。これを“ステロイドの適切な使い方”とするには、どうみても無理があります。




「皮膚科専門医はステロイドを適切に使用できるので深刻な副作用は起こることはない」
というのはです。

「皮膚科専門医の多くはステロイドを適切に使用していない。もしくはステロイドの適切な使用法を知らない。」
というのが現実です。

そして、
「ステロイドを塗り続けることでアトピーを良い状態にコントロールしようとすれば、ステロイド依存を含む副作用のリスクと常に向き合わなければならない」

ということを皮膚科医は十分に認識し、患者にも説明すべきであると考えます。




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