私の最初のSTONESとの出会いは中学3年。
中学2年の途中で海外から帰国した私は、地元の中学に編入した。
10歳から約4年、自由な空気の中で生活していた私にとって、日本での中学生活は驚きと苦痛の連続だった。
朝校門にものさしを持った教師が、女子のスカート丈をチェックしている。
前髪が伸びた生徒は、その場で短くガタガタに切られる。かばんの荷物検査。シャーペン禁止。
授業はみな一様に黙りこくって、質問も意見もない。
そんな環境の中に入った私は、完全に浮いた存在だった。
なじめる人は、すぐになじめるんだと思う。
でも、私はどうしても分からなかった。理解ができなかったのだ。
スカートの丈が、前髪の長さが、シャーペンが、一体私達の何を決めるの?
・・・そんなことで、私達の中身などわかってたまるか、ばかげている。
あなた達は、そんな薄っぺらい事で私達を判断するのか・・・。
なんで、みんなと一緒じゃなければいけないの?どうして行きたくもないのにトイレに皆で行かないといけないの?授業中に質問をしたらなんで後で陰口をたたかれるの?
・・・友達と呼べる人は一人もできなかった。
激しい怒りと、もやもやを抱えながら、とうとう中学3年、受験期を迎えた。
受験と聞いても、私にはそれの重要性も意味も理解できなかった。
行きたい高校も、やりたいことも何も見いだせなくて、いつも心に深い渦ができていた。
その頃、学校生活ではみんなと一緒にトイレも行き、意味のない手紙交換もやって、どうにかなじめるようになっていた私だが、心のどこかに重たいものがあったのだ。
家に帰ると私はいつも部屋で、ヘッドフォンでずっとBEATLESとJOHNばかり聴いていた。
そうする事で、なんとか自分を保っていたのだと思う。
しかし、ある時期からそれではもう爆発しそうな感情を昇華し切れなくなっていた。
そんな時だった、あの曲に出遭ったのは!
ラジオから突然流れてきたイントロ。
一瞬にして私の体中の血が沸きだした。
叫びたくなるような衝動。すべてのもやもやを吐き出したくなるような思い。
曲がフェイドアウトして聞こえなくなる最後の音まで聞き逃さなかった。
・・・なんなんだ、この曲!一体誰の曲だ?
「お送りした曲は、ザ・ローリング ストーンズでジャンピンジャック・フラッシュでした!」
衝撃だった。
彼らの名前は知っていた。BEATLESのライバルとして。
それまでBEATLESばかりを聴いていた私は、ライバルと言われたSTONESには目もくれなかった。彼らに勝るグループなどない、そう思っていたのだ。
・・・STONESか・・・なーんだ。
BEATLESが好きなんだ。だからSTONESなど聴かない。
その衝撃をそう言い訳して私は消した。
が、その次の日から困った現象が私を襲う。
モヤモヤしたとき、訳もなく心が爆発しそうなとき、私の頭に決まってあのイントロが響く。
・・・STONESの曲なんて!そう思っても、私の心はそれを求めてしまうのだ。
その現象はずっと続き、それから1週間悩やんだあげく堪えきれず「HOT ROCKS」を買った。
どうしても気になるから、ちょっと聴いてみよう。ちょっと聴いてみるだけ。
そう言い聞かせてPLAYを押した。
最後の曲が終わるまで私は踊り狂い叫び続けた。今まで味わったことのない高揚感!
「ああ、私の求めていたのはコレだったんだ!!」
全曲を聴き終わって、私はすがすがしい気持ちだった。
心の渦を、イライラを、彼らが共有してくれて「まあ、そんなに悩むなって。俺らも一緒だぜ」
と言ってくれているような気がした。
流れに逆らってもいいじゃないか。自分のやり方で、大いに逆らおうじゃないか!
100人が白と言っても私が黒と感じたらそれを貫き通そう。それを恐がることはない。
・・もう少しで私は、腑抜けた人形になるところだったよ!
次の日から、もうBEATLESが私のヘッドフォンから流れることはなかった。
「Jumpin' Jack Flash」に出会わなければ、今の私はないと思っている。
Ekatelina