見破り姫シリーズ④
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服従の歌い手と闇の魔法使い 中編
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キョーコはバイトが終わると、レイノと酒場の前で落ち合った。
昼間のうちに少しクオンが来ていたが、心配をかけそうでレイノのことは話さなかった。
「ちょっと…私酒場なんて行ったことないんだけど…」
「ふん、お子様だな。大丈夫だ、慣れてる顔をしておけ。」
そう言うとすたすたと中に入って行ってしまった。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
慌てて追いかける。
薄暗い店内は予想外の光景だった。
仕事帰りのお父さんたちが仲間で飲んでいるんだろうと思っていたその場所は、若い女の子で埋め尽くされていた。
キョーコがいても何ら不自然ではなく、むしろレイノが浮いているのではないかと思うほどだ。
「な、なにこれ…」
「ショーは歌い手なんだ。隣国の…。
あちらでは動きにくいから最近こちらの国に来た。
最近酒場で歌い始めたのを聞きつけたファンが押し寄せているんだろう。」
キョーコは正直どうでも良かったため、へえーと生返事をしていると、突然背後から腕をつかまれた。
「きゃ!」
驚いて後ろを振り返ると、血相を変えたクオンだった。
その後ろにはヤシロも控えている。
「どうしてこんなところにいるんだ!キョーコ。」
「ひ…クオ…」
「知り合いか?」
クオンを見てレイノが怪訝な顔をしている。
「レ、レン…よ。食堂の常連さんなの。」
少し話をしてくると言い残してレイノから離れた。
「あなたこそ!こんなところで何してるんですか!?
だいたい今は15歳くらいになってるんですよね?酒場に来るには問題があるのでは?」
キョーコは声を落としてクオンを問いただした。
「今は年相応に見えるようにしてもらっているから問題ない。
それよりキョーコ、君は襲われかけた男と何をしているんだ…!!」
「レイノが今から歌う男を実家に連れ戻すから協力してくれと言われて…」
「なんだって…。」
それでどうしてキョーコが協力するんだとかなんとか押し問答の末、クオンもそばについているということで何とか折り合いがついた。
「仕方ない。俺たちも、その男に用があるんだ。」
「どうしてですか?」
「最近この国に来たらしいんだが、毎晩歌を聴きに来た女性を誘っては取っ替え引っ替えしてるらしい。
女性も同意の上ならまあいいんだが、後になってその時の記憶があいまいだとかそんなつもりはないのに体が言うことをきかなかったとか、女性から苦情があがっている。」
「それでどうして王子自らこんなところにいらしてるんですか?」
「どうも魔力で服従させているのではないかという話になってね。俺は魅了の力があるから対抗できるかと…。」
言いながら目が逸らされた。
キョーコは絶対に面白そうだから首を突っ込んだんだと思ったが、黙っていた。
レイノから聞いた話をする。
声に魔力を持ち、服従させる力があるということを。
「それは確かなのか…。」
「そろそろはじまりそうだ。」
レイノが寄ってきた。
「…って!そんな魔力のある男の歌なんか聴いて大丈夫なの!?」
全員操られちゃったら大変じゃないの!と焦るが、レイノは平然としていた。
「大丈夫だ。あいつは自分の歌に…誇りをもっているらしい。
こういう場では魔力は使わない。」
結果的に誉めるような感じになってしまい、忌々しそうな顔を見せた。
突然鳴り響いたギターの音に、キョーコは飛び上がりそうになったが、女性の歓声や悲鳴のほうに圧倒される。
噂の、「ショー」がでてきた。
歳はキョーコとそう変わらないように見える。
艶のない金髪で、綺麗な顔立ちをしているのが最後尾からでもわかった。
歌い始めたバラードも悪くない。
「別に魔力で言うこときかせなくったってホイホイついていく子はいそうね。」
キョーコの評価に、焦ったのはクオンだった。
「キョーコはああいうのが好みなのか!?」
ショーがしっとりと歌い上げたのちの、シンと静まった一瞬
「あんな頭の軽そうな男はごめんです!」
ショーを指さして思い切り叫んだキョーコの声は、この後にくるはずった女性たちの歓声を無にした。
ざわざわと店内が騒がしくなる。
「そこの女!後で俺のところに来い。
悪いが今日は他は帰ってくれ。」
キョーコに向かって言い捨てたショーは下がってしまった。
何なのよあの女!サイテー!
などの罵声が飛び交う中、女性客は帰って行く。
「さすがキョーコ。労せず敵を釣るとは。」
感心したようにクオンが呟いた。
「あなたのせいです!!」