王子の微笑 中編 《見破り姫シリーズ③》 | 十把一絡

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見破り姫シリーズ③

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王子の微笑 中編
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成長したクオン王子は、自分に妙な力があることに気が付きました。
にっこりと笑うと、突然相手がぼんやりとして近寄ってきては王子を讃えるのです。


あまりに続くので、王子はだんだん笑えなくなりました。


幼いころから一緒だった王と王妃、ヤシロには少しくらいの微笑みなら大丈夫でしたが、慣れない人にはその効き目は抜群だったのです。


さらに成長する頃には、力をコントロールできるようになり、自分の意志で魅了の力を使うことができるようになりました。
しかしそれでも漏れ出る力があるのではないか、このような力で国民をコントロールするようなことがあってはいけないと、大勢の前に出る時は笑わないように気をつけていました。




「なあヤシロ、例えば好きな人ができたとして、その人が自分を好きだと言ってくれたとする。
その時、俺は心からその言葉を信じることができると思うか?」


王子の問いに、ヤシロは何も答えることができませんでした。


王子に気晴らしをさせるために、ヤシロは提案をしました。
姿を変えて町に出て、一人のただの男として過ごしてみればいいのではないかと思ったのです。
『王子』のフィルターなしに人々と接すれば、人を信じることができるようになるかもしれません。


そんなある日、王子は一人の少女と出会ったのです。



*****



「キョーコちゃん!」
いつもレンがやって来る時間帯、現れたのはヤシロだった。


「ヤシロさん!どうしたんですか?」


「ごめんね、レンのやつ来客があってさ。今日は来られそうにないから伝えにきたんだ。」
ヤシロは申し訳なさそうにキョーコに伝えた。


「なにを言ってるんですか!暇じゃないんですから、毎日会いにくるほうがおかしいんですよ!」


ヤシロはそれだけではなく、書簡を持参していた。


「王妃様が君に会いたいそうなんだ。明日は休みだよね?
すまないけど、城まで来てくれないかな。」


断る選択肢は存在しなかった。





キョーコは次の日、城に向かった。
城門で兵士に話を通してもらう。


「ごめん、キョーコちゃん!お待たせ!」
入口までヤシロが迎えに出てきた。


「いえ、王妃様のところにはすぐに?」


「うん、クオンも会いたがってるんだけど…お客さんに捕まってて…」


キョーコとヤシロは城内を進み、中庭を抜ける。
庭は中心に噴水があり、水が湧き出ていた。
周りには花がきれいに植えられ、整備されている。


「ねえ、クオン様。私の国に遊びにいらっしゃいませんか?」
向かい側から声が聞こえる。
近づいてきているようだ。


「すまないけど、興味がないんだ。もう少し離れて歩いてくれないかな。」
クオンの声もする。
いつもより声色が固い。


表情が見えるほどに距離が近づいた。
クオンの顔は無表情で、冷たい。


「あーあ。クオンのやつ捕まってるな…」
ヤシロが小さくぼやく。


「王子様って、普段はあんな感じなんですか…?」


「そうだね、あいつがあんなに朗らかなのはキョーコちゃんの前だけだよ。」


自分だけ、その言葉にキョーコの顔が火照る。
(や、やだ…私だけ特別みたいな…)



だんだんと距離が近づいてきた。
クオンに言い寄っているらしい人も見えるようになってくる。


その人物をはっきりと見た時、キョーコは怪訝な表情になった。



「ヤシロさん…
王子様は男性にも口説かれるんですか?」




クオンに寄り添って歩いていたのは、かなり色っぽかったが確かに男性だったのだ。