中田浩二所属のFCバーゼルは最終戦、逆転優勝を信じて最後まで戦ったが、勝利の女神は今回も微笑まなかった。最終戦を前に勝ち点差1でリードしていたチューリッヒがホームでグラスホッパーチューリッヒとのダービー戦を2-0でせいし、通算11度目の優勝を果たした。バーゼルは昨シーズン最終戦でチューリッヒに逆転優勝をゆるしただけに、今シーズンはその逆をと多くのファンが信じていたが、チューリッヒは自分たちの力で見事優勝を引き寄せた。

この日、奇跡を信じるファンでほぼ満員に埋めつくされたバーゼルのホーム、ザンクトヤコブパーク。ゴール裏では発煙筒が何本もたかれ、ファンは大声でチームを鼓舞していた。これほどまでに熱気に包まれたザンクトヤコブパークは初体験。

相手のヤングボーイズ・ベルン(以下YB)はこの日負けるとFEFAカップ出場の3位の座が危ぶまれる。どちらも勝たなければならない精神戦、気合いが気負いとなるか、プレッシャーが力となるか。

ホームの大声援をバックにバーゼルはホイッスルと同時にフルパワーでYBに襲いかかる。そして開始1分、先制ゴールが早くも生まれる。中盤の早いプレッシャーからボールを奪った22番エルジッチが右サイドフリーのステリャフスキにパス。これを落ち着いてゴールに流し込んだ。

早い段階でのゴールは時として、チームを守勢に回す。しかしこの日のバーゼルにそんな心配は無縁だった。落ち着きのないYB守備陣に何度も前線からプレッシャーをかけボールを奪う。逆にバーゼルの守備陣は高い安定感を誇り、ほとんどチャンスを与えない。中田浩二はそんな中できっちりと左サイドにフタをする。相手の切り込み隊長カルロス・バレラにほとんど仕事らしい仕事をさせないばかりか、タイミングを見計らったパスカット、ボール奪取で前線へもからんでいく。

15分、バーゼルFWのエドゥワルドが中盤で空中戦に競り勝ち、そのままハーフェーラインから独走。追いすがる敵4番をはね飛ばし、最後はGKを左に交わして、左足でゴール。バーゼル追加点。加熱するスタンド。わき上がる熱狂。前半はまるでピンチらしいピンチもなく終わる。

53分過ぎ、スタンドの一角からどよめきが起こり、それがスタンド全体へと浸透していった。首位チューリッヒがリードを奪われたと一気に沸き起こるバーゼルコール。しかしこれは誤報。しばらくすると沈静化してきた。

試合終了が近づいてくると、観客は総立ちで手拍子を叩き始める。「俺たちがスイスナンバーワンだ!」とファンたちは歌い始める。試合終了のホイッスルがなると、まだ決着のついてないチューリッヒの結果に注目。チューリッヒーグラスホッパーは1-0でチューリッヒリードのままロスタイム。ロスタイムは4分。バーゼルの選手、監督、コーチ、スタッフはセンターサークル付近で円陣を組み奇跡を信じる。スタジアムはバーゼルコールが溢れていた。最後に訪れるだろう歓喜の瞬間を信じて。今シーズン、特に後半戦負け無しと素晴らしい戦いを披露したチームを誇って。

チューリッヒは試合終了間際に追加点を上げ2-0で勝利。スタジアムにはしかし割れんばかりの拍手とFCBコールであふれていた。選手たちはグラウンドを一周するとファンの暖かい声援の中、控え室へと戻っていった。

監督のグロスは試合後「ファンタスティックな追い上げ劇だった。(チューリッヒ優勝のほうを聞いたとき)ものすごく深く落ち込んでいく瞬間だった。」とコメントしていた。この日ケガで出場できなかったクロアチア代表FWムラデン・ペトリッチは「円陣を組んだときに、目から涙がこぼれたよ。取れなかったタイトルのためではなく、この信じられないくらいすばらしい仲間達のためだ。僕らはこの後半戦の出来を誇りに思うよ。」とコメントしていた。
   
中田は左サイドバックでフル出場。今期通算で2918分プレー。シーズンを通して、的確なポジショニングとタイミングのいいあたりでたびたびパスカット、ボールカットを見せた。ボディコンタクトで負けることもなく、空中戦でも競り勝っていた。攻撃も数は少ないがチームのリズムを壊さずに参加。1ゴール3アシストを記録。ボールを持っても慌てることなく、シンプルにプレーし続けていた。リードした展開では終盤無理をせずに守備の安定に気を配っていた。バーゼルはチーム全体がコンパクトにポジショニングを取り、相手チームにほとんど決定期を与えなかった。特にDFラインとボランチのバとの5人のバランスは素晴らしく、ロングボールにも細かいパス交換、ドリブル突破にも的確に対応していた。

試合後中田は「残念だったね。2年連続で最終節で2位だからね。残念としか言いようがない。今年はシーズンを通してフルで戦えたし、後半は特に個人としてもチームとしても充実していた。優勝できていたらなぁ。でもこれもサッカーかな。前半うちは確かに取りこぼしをしていたし、それは素直に受け止めないと。後半は本当にいいサッカーが出来たから、これを続けていきたい。一年間通してできるようにならないと。でも残念だね。悔しいよ。」と話してくれた。

結果は残念なものだったが、彼の顔には充実感が溢れていた。チームの主力として優勝争いにからみ、いろいろなポジションで監督の要求に応えてきた。グラウンドがそこまでよくなく、フィジカル重視のスイスリーグでもあたり負けすることなく、逆に自分の特徴である鋭い読みからのパスカットなど長所を出していっていた。もっと攻撃面での貢献度が上がってくれば、他のトップリーグから声がかかることもあるだろう。

「海外に出て、3シーズンが終わったね。こっちに来たのは大きいなぁって今本当に思う。海外にきた意味があったな、って感じている。満足せずにこれからも上を見てやっていきたい。」

中田はまだまだ成長できる。鹿島復帰の話も出ているが、できる限りこっちで戦って欲しいと個人的には強く思う。彼は経験を足し算することができる貴重な選手だ。失敗を成功への糧とできる選手だ。求められることを理解し、納得し、それをフィールドで表現していく。彼がこっちでやり尽くしたのなら、日本復帰もありだろう。しかし今シーズンの彼は素晴らしかったが、まだまだ彼のマックスではないはずだ。ゆとりを持ってプレーしていたが、落ち着いている時間が長過ぎる。もっと積極的な動きをからませて、チームへのアクセントとなるべきだし、なれるはずだ。攻撃面でのリズムアップや細かいパス交換、ドリブルで中に切り込むプレーなど、彼の能力を考えればできるはずだし、それはチームに更なるプラスαを加えられる。

「基本的にはあと1年契約が残っているわけだし。2年連続悔しい思いもしたから、次こそはという思いはある。」

戦えるフィールドがあることは素晴らしいことだ。そこが分かち合える仲間と熱い思いで支えられていればなおさらだ。来シーズンの中田はどこにいるのだろう。一つだけ確かなのは、どこにいても彼はチャレンジし続けていることだろう。