入学、就職、引越し――春は新しい出発の季節。また温かい陽気とともに、お出掛けしたくなる時節。近況報告やお祝い、お誘いなど、「春のあいさつ状」を送ってみてはどうでしょうか。今回は手紙文化振興誌「かしこ」(東京法規出版)編集長の湯沢まゆみさんに話しを聞きました。
お出掛けのお誘いも
 4月に新年度を向かえる今の時期は、さまざまな変化があり、人の動きも活発になるシーズン。
 こんな時こそ、近況を伝える「春のあいさつ状」を頂くと、うれしいものです。
 異動や転勤、引越しなどの自分の近況報告、また状況が分かっていれば入園や入学、昇進などを祝うための手紙やカードを送ってみましょう。
 年賀状は、一種の公的な行事になっていますが、「春のあいさつ状」は、もっと気軽な感じで出せると思います。「最近、私は○○ですが、あなたはいかがお過ごしですか?」などと、やりとりするには最適かもしれません。
 特に、お祝いなどの喜びの気持ちは、機会を逃さないことが大切です。お子さんの入学を祝って友人へ送る、または子どもの入学祝いへのお礼も、速やかに届けるようにしたいもの。
 春の陽気のように、さわやかで明るく温かい気持ちで、相手の身になって、喜びを表現してみましょう。
 さらには、お花見、映画やお買い物、ランチやお茶でもいいでしょう。ちょっとした「お誘い」の案内を、おしゃれなカードなどで出してみてはいかがでしょうか。
 温かくなるにつれ、どこか気分もウキウキして、外出したくなる春。誘いたい気持ちも、ともに強くなる季節だと思います。
 〝デパートのお花見弁当がおいしいらしい〟〝○○の評判のランチ、一緒に付き合って〟――普段であればメールで済ませる用件も、手書きの短いメッセージを添えて送るだけで、知人・友人との距離を縮める絶好の機会になるでしょう。
珍しいカードを探して
 「春のあいさつ状」を送るに際して、まず、便せんや封筒、カードを選ぶところから楽しんでみてはいかがでしょうか。
 〝どうすれば相手が喜ぶかな〟――と思いめぐらしながら、文具店巡りをすること自体が、春の〝お出掛け〟になります。店頭には、多彩で多種多様なグリーティング(あいさつ)カードが、たくさん並んでいます。
 特に季節柄、お祝い用や端午(たんご)の節句用などの用途別のもの、桜や花々をかたどった春らしいものなどが豊富に出回っており、カードを開くと動植物が立体的に浮かび上がる、工夫を凝らした〝仕掛けもの〟まであります。
 カラフルで、かわいらしい、少し意外性のある珍しいカードを見つけましょう。それそのものが、相手へのちょっとしたプレゼントになります。〝こんなカードが届いたらうれしいな〟と自分が思えるものは、たいてい、相手にも喜ばれるでしょう。
 こうしたカードを使用する場合は、文面はほんの数行でいいと思います。長文で書き連ねる以上に自分らしい手書きの短い言葉が、かえって相手にも新鮮に映ることでしょう。
「会いたくなる手紙」を
 良い手紙とは、どういうものでしょう。
 手紙やカードは、手元に残ります。そして心に残った手紙は、受け取った人が側に置いて、いつでも読み返したくなるものです。
 人は皆、褒められたり自分の心の深いところまで理解してくれた言葉は、うれしく思います。その言葉を何度も自分に繰り返し、明るく前向きで、満ち足りた気持ちになりたいものです。
 心をとらえる手紙とは、何度も読み返して余韻を味わいたい気にさせる手紙、と言えるでしょう。
 おしなべて、〝読みたくなる手紙〟には▲的確な褒め言葉、うれしい一言がつづられている▲励ましや元気を与えてくれる▲楽しいひとときを思い起こさせる――などの要素があると思います。
 相手を褒めるならば的外れにならないように気を付けたいもの。そのためには、誠実さと、相手の心を深く理解する共感が、何より重要だと思います。
 手紙は、あくまで読み手が主役。相手の身になって文をつづる上で、一歩引いたゆとりあるスナンス、穏かな気遣いが大切です。
 相手への情熱は必要ですが、決して読み手の心に詰め寄るような文面にはしたくないもの。すべてを言い尽くさない言葉の余白が、かえって思いの強さを引き立てる場合があります。
 何度も読みたい手紙の送り主には、「また会いたいな」と思うもの。美しい文章や技術以上に、相手を思う正直で清らかな心でつづった〝自分らしい言葉〟こそが、手紙やカードに生命を吹き込み、色あせない輝きを与えると思います。