創価大学教育学部教授 吉川 成司

 学ぶことは、知識を貯めて、それが偏差値として〝記帳〟されていくようなものではなく、「本当の自分」を創ることである。そしてこの「本当の自分」とは、これからなっていきたい、なる甲斐がある自分である。また、どこかに「本当の自分」という正解があるわけでもない。行き着いた自分らしさから、さらに先の展望も見えてくる。

 今夏、上映された『フリーダム・ライターズ』(邦訳も出版)は、このことをよく教えてくれる。

 この名称は、アメリカ公民権運動の「フリーダム・ライダーズ」(自由のための乗客)に由来する。「フリーダム・ライダーズ」は、ローザ・パークスの勇気ある行動に端をを発し、キング牧師を指導者として展開された「バス・ボイコット運動」に続こうと、州をまたぐ長距離バスに乗り込んだ学生たちのこと。

 それになぞらえ、日記をつづる「書き手」が「精神の自由度」を広げるという意味で「フリーダム・ライターズ」なのである。

 この映画は実話である。舞台はロス暴動直後のロサンゼルス郊外の公立高校。一食触発の人種間対立の渦中、人生に絶望し荒れる生徒たち。しかし、新米教師のエリン・グルーエウェルは、どこまでも彼らを信じ抜く。

 彼女は生徒に心の内をさらす術として日記帳を与える。同時に、有名な『アンネの日記』、ボスニア内戦下に書かれた『ズラータの日記―サラエボからのメッセージ』などを教材として読ませ、さらに社会との接点を積極的にもたせる。偽りのない真摯な想いの詰まった日記を編集し出版。それが映画につながった。

 『フリーダム・ライターズ』の生徒たちの学びは、まさに自分創りである。具体的には、①自分らしさを保ちつつも、クラスに貢献できる独自の役割を発見する②自ら責任を引き受け、互いから学び合い、認識を深め、拡充させる③自分たちの学びを自ら価値付けるとともに、社会との積極的な交流を通じ、それを社会的にも価値付ける――このような学びを体験し、生徒たちは、自らを描きつつ、その実現に向けて歩み出していくのである。