ご存じの通り、
源氏物語は日本が誇る古典名作です。
実は女性が書いた長編小説のなかでは、
世界で一番古いものだそうです。
でも、
この条例、
文言上は源氏物語も規制対象にふくみます。
以下根拠です。
指定図書について規定しているのは、
条例第8条です。
---条文ここから---
第8条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
(一号あんまり関係ないので略)
二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第7条2号に該当するもののうち、強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し、又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
(三号四号関係ないので省略)
---ここまで---
法律は、
AとBとCに当てはまったらアウト。
という仕組みです。
(ABCをそれぞれ「要件」といいます)
これを踏まえて、
この条文を見ていきます。
(フローもあります→(4)の部分から
)
まず、読みにくいので、
もうちょっと読みやすくまとめてみます。
二 販売等されている図書類又は映画等で、その内容が、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
だいぶ読みやすくなりました。
この場合、
2号に該当するかどうかは、
A「販売等されている図書類又は映画等」か
B「内容が施行規則の基準に該当する」か
C「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」か
で決まります。
ABCすべての答えがYESなら「該当」します。
つまり規制される可能性がある作品ということです。
A「販売等されている図書類又は映画等」か
これは、YESですね。
書店や図書館に置いてあります。
B「内容が施行規則の基準に該当する」か
実はこれも、YESなんです。
詳しく見ていきましょう。
東京都規則で定める基準とは、
第15条第2項のことです。
「性交又は性交類似行為(以下「性交等」という。)のうち次に掲げる行為を、当該行為が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、又は当該行為の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、閲覧し、又は観覧する青少年の当該行為に対する抵抗感を著しく
減ずるものであること」
もう少し読みやすくします。
「次に掲げる行為を、
①当該行為が
社会的に是認されているものであるかのように
描写し若しくは表現し、
②又は当該行為の場面を、みだりに、著しく詳細に
若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、
③閲覧し、又は観覧する青少年の
当該行為に対する抵抗感を著しく減ずるものであること」
あんまり読みやすくないですね…。
これも条例と同じように、
①②③の要件に該当するかを見ていきます。
対象とされている行為は、
強姦等と近親相姦行為です。
源氏物語の場合、
・若紫と源氏の初夜
(若紫が13歳に達していなかったら強姦、
13歳だったとしても淫行条例にはひっかかります。)
が該当します。
そして次の条件が
「①当該行為が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、」
です。
これもYESです。
ちなみに、
この次の文言がポイントです。
「②又は当該行為の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、」
これは、
「詳しく何度も描くな」、ということで、
規制派が説明している「エロ規制」に該当しますね。
これには、
該当しません。
NOです。
要件②がNOなら、
源氏物語は規制される可能性はないんじゃないの?
と思うかもしれません。
問題はこの条文の接続詞です。
「①源氏物語がひっかかる要件」と「②エロ規制の要件」とは、
「又は」で接続されています。
これは、
法律的には、
「①か②かのどちらかの要件」を満たせばひっかかる、
ということです。
(だから「源氏物語」もひっかかります)
これが「かつ」で接続されていれば、
「①と②の両方の要件」を満たさなければ、
ひっかかりません。
(この場合「源氏物語」はBを満たさないからセーフ)
つまり、
「源氏物語」は、
規制対象となる可能性があるのです。
最後の条件は、
「③青少年の当該行為に対する抵抗感を著しく減ずるもの」
です。
ものすごく曖昧な表現です。
「人によって違うんじゃない?」
と思う人も多いと思います。
でも、
決める権力を持つ人がいます。
それが、「審議会」です。
この審議会は密室で行われます。
その人がどういう考えを持つ人かは、
誰にもわかりません。
でも、
その人が「これはおかしい」といえば、
その作品は、
最後の「C「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」か、
という条件を判断するステップに進むことになります。
C「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」か
条例と施行規則の中には、
「健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」とする基準がどこにも見当たりません。
つまり、
これもまた、
どんな人たちかわからない「審議会」の好きなように決めることができるのです。
そして、
「審議会」が
この作品は「青少年の当該行為に対する抵抗感を著しく減ずるもの」であって、
「健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」と判断した場合、
たとえそれが「源氏物語」であっても「不健全図書」として指定することができてしまうのです。
それが、
この条例の怖いところです。
よく、
「拡大解釈のおそれ」があると言われています。
でも、
これは不正確です。
「拡大解釈は必要ない」のです。
現状の文言をそのまま解釈すれば、
セ ッ ク スシーンがない作品だって、
規制することができてしまうのです。
単なる「エロ規制」と説明されていた条文であるにもかかわらず、です。
なお、審議会については別の記事で詳しく書きますが、
さすがに「源氏物語」が規制されることはないでしょう。
私も現実的な話と思って書いているわけではありません。
でも、
私たちが面白いと思って楽しんでいる娯楽作品を、
「お堅い」ひとたちが、
「面白い」「有意義だ」と思ってくれるかは疑問です。
マンガやアニメに限って言えば、
「マンガやアニメが大嫌い!」という人が、
審議会のメンバーになったらどうでしょう。
想像してみてください。
極端な話、
「どうせ下らないんだから全部規制してしまえ」と、
そう考える人がいても不思議はないんです。
そして、
忘れてはならないのは、
こういう仕組みが、
悪用される時代が来るかもしれないということです。
汚職や犯罪のニュースがあふれています。
そんな大人を信用できますか。
そんな大人が「自分たちの価値観」で、
自由に決めることができるんです。
自分たちの利益のためだけに、
仕組みを悪用することだってあるかもしれません。
実際に、
戦争中、
日本では検閲がおこなわれました。
その結果、
政府の方針に反対する書物は発行禁止となりました。
決して、
空想の中の話ではありません。
そのことを、
覚えておいてください。
少しでも多くの人にこの問題を知ってもらいたいと思う方は、
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