個人的備忘録。


平成22年第4回定例会 会議録〔速報版〕
12月8日(火)


一般質問(本会議第三日)


吉田康一郎議員(民主党)


次に、青少年健全育成条例の改正案について伺います。

本条例について、知事は記者会見などで、表現の自由の規制ではなく販売規制であると発言をされていますが、正確を期すならば、同種の条例に関する最高裁判例においては、条例の規制は表現の自由にかかわるものであり、表現の自由の制限を伴うものであるとした上で、必要限度の範囲内において販売規制が認められると判示されているのではないか、このように考えますが、都の見解を伺います。

そして、都は、一定改正案に対する閉会中の総務委員会の継続審査において、漫画、アニメ等における青少年の性的描写が、それを見た青少年の健全な性的判断能力の形成を阻害するという学問的知見の有無に関し、現在諸説ある中で確立した学問的見地は承知していないと答弁しています。

今回の改正案についても、青少年が強姦等の性犯罪を描いた漫画を読むと、強姦等の性犯罪を犯すおそれがあるという科学的根拠が存在し、それに基づいて改正をするわけでないと考えてよいのか、その場合、科学的根拠がないにもかかわらず改正案を規制する理由と根拠を伺います。

今回の改正案において、七条の二項で新設される基準は、現行の七条に示されている三つの基準、すなわち性的感情を刺激、残虐性を助長、自殺または犯罪を誘発に包含されているのではないか、このように考えますが、両者の関係について明確な説明を求めます。

次に、条文中の不当な誇張とは何を指すのか、また、どのような運用を考えているのか伺います。
次に、この改正案は、刑罰法規に触れる性交等を表現すること自体を否定するものであるとの指摘がありますが、これについて都の見解を伺います。

また、八条中、著しく社会規範に反すると、この文言の指すところは何か。この文言は七条の刑罰法規に触れる性交等及び婚姻を禁止されている近親者間における性交等以外の第三の対象領域として、倫理や道徳に踏み込み、新たな規制の拡大を企図したものであると懸念する指摘もありますが、都の見解を伺います。

次に、刑罰法規に触れる性交等との規定がありますが、法規の中には、十三歳未満、十八歳未満とした年齢が適用の要件となっているものがあります。この場合、現実の人間でない作品内の登場人物について、十三歳未満あるいは十八歳未満であることをどのようにして判断するのか。図書の指定に当たり、年齢の判断に行政の恣意性が入り、歯どめなく対象が拡大するとの懸念が指摘されていますが、都の見解を伺います。

そして、過去の日本や諸外国においては、現在の日本の法令と異なる範囲での性交や婚姻等が認められていますが、今回の改正が、このような制度、慣習や文化、宗教など、特定の価値観を否定するものであってはならないと考えます。

また、SFなど架空の世界の設定の表現などについて、設定自体が反社会的であるとして規制の対象とすることなど、創作者の想像力や創造性を否定するものであってもならないと考えます。これらの点について都の見解を伺います。

最後に、条例の八条に基づき、個別の図書類を指定図書として指定するに当たっては、青少年健全育成審議会において諮問が行われますが、その図書類の描写や表現の内容を適正に審議するためには、一定の時間をかけ、その内容を吟味する必要があると考えます。現在の審議会の運用は、審議会の当日に諮問図書が配布され、その場で審査するものでありますが、今回、新たな基準を追加するに当たり、審議会の開催前に諮問図書を配布し、内容の検討の時間を確保するなど、審議会の運用も適切に変更する必要があると考えます。



青少年・治安対策本部長(倉田潤君)


まず、改正案と表現の自由の関係についてであります。

条例の図書類に関する規定は、漫画等の創作や出版、十八歳以上の方の閲覧や購入を一切規制するものではなく、青少年への販売が制限されるにとどまるもので、描き手の創作活動を規制するものではありません。

これと同様の仕組みである岐阜県青少年保護育成条例に関する平成元年の最高裁判決においては、このような販売制限は憲法二十一条一項に違反するものではないと、明確に判示しています。その趣旨として、判決の補足意見においては、条例の規定は憲法の保障する表現の自由にかかわるものと述べた上で、本件条例を違憲とするのは相当ではないと述べています。

これは、条例による青少年への販売等の規制は、表現の自由の派生原理として導かれる、読み手である青少年の知る自由を制限するものであることを指摘した上で、それに対する一定の制約は是認される旨を述べているものであり、条例の規制が、描き手の創作の自由や出版の自由の制限に当たるとは述べていないものであります。

都においても、条例による青少年への販売等の規制は、青少年の知る自由を制限するものでありますが、青少年の健全育成の目的に照らし、そのような販売制限は憲法二十一条一項に違反するものではなく、また、描き手の創作活動を規制するものではないと考えます。

次に、改正案を規定する理由とその科学的根拠についてであります。

今回の条例改正案は、刑罰法規に触れる性交等や、婚姻を禁止されている近親者間の性交を不当に賛美、誇張するような漫画等が一般書棚で販売されている実態があり、これらを閲覧した青少年が、これらの性交等が社会的に許されるものと誤解するなど、これらの性交等に対する抵抗感を弱め、性に関する健全な判断能力の形成を妨げるおそれがあることから、このような漫画等を区分陳列の対象としようとするものであります。

したがって、この改正案は、性犯罪の描写を閲覧した青少年が、当該犯罪を犯すことを防止することを直接の目的とするものではないことから、図書類を閲覧した青少年が当該犯罪を犯すという因果関係の科学的証明の必要性は生じないものと考えます。

なお、さきに述べた最高裁判決の補足意見においても、有害図書の販売規制に当たり、有害図書が青少年の非行を誘発したり、その他の害悪を生ずることの厳密な科学的証明を必要としない旨、述べています。

次に、今回の改正の基準と現行の三つの基準との関係についてであります。

改正案による基準は、刑罰法規に触れる性交等を不当に賛美、誇張するように描いたものでありますが、これは、社会的に許容されていない性交等の描写が、これらの性交等に対する青少年の抵抗感を弱め、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げるおそれがある程度に至っているものが該当します。

しかし、こうした漫画等は、必ずしも読み手の性的感情を刺激する度合いが高いとは限りません。同様に、読み手の残虐性を具体的に助長する程度が高いとは限らず、また、読み手が具体的に犯罪を実行し得るまで犯罪を誘発する程度が高いとは限りません。したがって、現行の三つの基準とは別に、新たな基準が必要であります。
次に、不当に誇張の意味などについてであります。

不当に誇張するようには、漫画等において当然に伴う誇張的な描写、いわゆるデフォルメの程度を指すものではなく、刑罰法規に触れる性交等及び婚姻を禁止されている近親者間の性交等について、これらの性交等が特別なものでなく、通常あり得るものとして受けとめられるほど、必要以上に詳細に描写したり、執拗に反復して描写するなどにより、読み手である青少年から見て、こうした性交等に対する抵抗感を弱めるように描写していることを指します。

具体的には、例えば強姦など刑罰法規に触れる性交等について、不当に賛美するように描写してはいなくても、当該性交等の場面が、全編の大部分にわたり必要以上に延々と微に入り細に入り、または執拗に反復して描写されているもので、その結果、読み手である青少年が、そのような性交等が特別なものではなく、通常あり得るものとして受けとめ、青少年のこれらの性交等に対する抵抗感を弱めるものは、不当に誇張するように描写したものとして区分陳列を検討する対象となり得るものと考えます。

次に、刑罰法規に触れる性交等などについてでありますが、条例改正案の対象は、あくまで刑罰法規に触れる性交等または婚姻を禁止されている近親者間における性交等を不当に賛美し、または誇張するように描写等したもののみであり、刑罰法規に触れる性交等を表現しただけでは、直ちに対象となるものではありません。

したがって、性的虐待を非難し、被害防止を啓発するような漫画等が対象にならないことは、いうまでもありません。

また、不健全図書指定に係る第八条第一項第二号は、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する性交または性交類似行為を、不当に賛美しまたは誇張するように描写または表現したものと規定しています。

つまり、著しく社会規範に反する性交等とは、第七条第二号に規定する刑罰法規に触れる性交等または婚姻を禁止されている近親者間の性交等に該当することを前提とした上で、そのような性交等の中でも著しく社会規範に反する性交等である、という趣旨であります。

具体的には、被害者の意思を抑圧するものとして極めて悪質な類型である強姦や、性交類似行為を伴う強制わいせつ等、また、子どもを対象とする性犯罪の類型として、児童買春、児童ポルノ禁止法における児童買春、児童福祉法における児童に淫行させる行為、東京都青少年健全育成条例における、いわゆる淫行禁止規定違反行為、及び民法により婚姻を禁止されている近親者間の性交及び性交類似行為をいい、これらは東京都規則で明示するものであります。

これに該当しないものについては、一切、不健全図書指定の対象に該当することはないことから、不当な規制の拡大を企図しているとのご懸念は当たらないものと考えます。

次に、年齢の判断についてでありますが、今回の改正案におきましては、刑罰法規に触れる性交等を不当に賛美または誇張するように描写等することにより、読み手である青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げるおそれがあるものを区分陳列の対象とすることとし、これに該当する限り、性交等に係る登場人物の年齢設定を問わないこととしました。

ただし、性交等に係る刑罰法規の中には、性交等の対象者が十三歳未満または十八歳未満であることが当該法規の適用の要件となっているものがあります。その場合には、当該刑罰法規に触れる性交等の描写等であるか否かの判断に当たり、登場人物の年齢設定の判断が必要になります。その際には、年齢を初めとする服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を客観的に推定させる事項の描写から判断することとなると考えています。

なお、当該性交等を不当に賛美、誇張するように描いた漫画等の一部において、服装、所持品、背景その他の人の年齢を客観的に推定させる事項の描写等からは、読み手である青少年が、明らかに十三歳未満である、または明らかに十八歳未満であると受けとめてしまう描き方をされているにもかかわらず、作品の設定上は、一言だけ、これは成人であると断り書きをつけているようなものがあります。このようなものは、読み手である青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げるおそれがあるものとして、区分陳列を検討する対象になり得るものであります。

不健全図書の指定に当たりましては、自主規制関係団体の意見を聴取した上で、青少年健全育成審議会に諮問をし、その結果を踏まえて、都が不健全指定するという慎重な手続を経ることとしており、行政の恣意的な判断の入る余地があるとのご懸念は当たらないものと考えます。

次に、過去の制度、慣習や諸外国の文化などとの関係についてでありますが、今回の条例改正案は、今の日本で生活する青少年が、今の日本の刑罰法規に触れる性交等や、婚姻を禁止されている近親者間の性交等を社会的に許されるものと受けとめ、これらの性交等に対する抵抗感を弱め、性に関する健全な判断能力の形成を妨げられることにならないようにするための改正であり、過去の我が国の制度、慣習や諸外国の文化等を否定しようとするものではないことはいうまでもありません。

過去の制度、慣習や諸外国の文化等として性交等の場面を描いた作品が、直ちに今回の基準の対象となるわけではないことはもちろんであります。また、SFやファンタジー作品等における架空の設定や、そこにおける性交等の描写自体を否定しようとするものではありません。

他方、過去の制度、慣習や諸外国の文化等、架空の設定にかこつけて、テーマに照らし必要以上に、今の日本では刑罰法規に触れる性交等について、特別なものではなく通常あり得ることとして青少年が受けとめてしまう程度まで、こうした性交等の場面を殊さらに描いたものは、区分陳列を検討する対象になり得ます。

これは、例えば古典文学の漫画化の体裁や、幼児との性交が合法的に許されている架空の世界の出来事であるとの体裁をとりながら、これにかこつけて、全編の大部分が、幼い子どもとの性交等の執拗な描写に費やされているようなものであります。

しかし、このことは、過去の制度、慣習や諸外国の文化等、創作者の想像力や創造性を否定することとは全く異なることであると考えます。

最後に、青少年健全育成審議会の運用についてでありますが、青少年健全育成審議会の運用につきましては、これまでも委員の方々が適切に審議できるよう努めてきたところであります。改正条例の運用に当たりましては、委員の方々が、改正の趣旨を踏まえた判断ができるようにすることが重要であります。

委員の方々のご意見も伺いながら、諮問図書の事前配布の検討も含め、審議に必要な時間を十分に確保するようにしてまいります。