歪んだ茶杓 | 千利休ファン倶楽部

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千利休の哲学や思想、
考案した茶の点前に関する
様々な事柄を記事にしていきます。

茶聖、と言うよりもむしろ、
人間、千利休に焦点をあてていきます

細川忠興に遺された利休の遺作、
茶杓 銘「ゆがみ」。



このように歪んだ茶杓と言うのは
他に例がありません。

しかも茶杓と言うのは
写真にあるような形に
勝手に歪むことは有りえませんので
すなわち、利休が意図的に
歪んだ形に削ったことが解ります。

ここに込められた想いや教えとは
一体何だったのでしょうか。



細川忠興は非常に真面目でストイックな
人物だったのではないか、とされています。

利休はこの茶杓を通じて、
自らの遺言の変わりとして忠興に、
「真っ直ぐばかりではなく
 時には歪んでみなさい」
と教えているのだと思います。

それを象徴づけるのが
忠興と正反対だった人物、
古田織部に利休が遺した遺品、
これまた茶杓、銘「泪(なみだ)」。



どこまでも常識に抗う性格の
古田織部に遺されたこの茶杓、
写真を見て頂ければお解りの通り
真っ直ぐです。

歪んだ事に挑戦し続ける古田織部には
真っ直ぐな茶杓を、
真っ直ぐな人物だった細川忠興には
歪んだ茶杓をそれぞれ遺しているのです。

これに忠興・織部の性格を照らし合わせると、
忠興には「歪んでみよ」と、
織部には「基本を忘れるな」と
それぞれ教えを遺そうとしたものと
考えられます。



これを象徴する歌が
利休百首の最後に数えられています。


規矩作法(きくさほう) 守り尽くして 破るとも
離るるとても 本を忘るな


この教えは、織部にこそ与えられた法であり
元々純粋に規矩作法を守り続けた忠興には
その真逆の法を伝えたかったのだと思います。



利休にとって、
どこまでもこころざし高く正義感に溢れ
素直で真面目で、時に剛直すぎるほど
実直極まりなかった細川忠興。

いくら
「人と違う事をしなさい」と言っても
なかなかそう言う面での芽が出ることなく
それでも利休に忠実でありつづけようと
努力をしていたであろう忠興を、
利休は本当に可愛がっていたことでしょう。

私の弟子にも、そう言う人はいます。

いくら言ってもなかなか伸びず、
点前が上手くならないままで
それでも自分に出来る事は何かと考え、
周囲に気を配り続ける。

師匠の立場からすると、
こういう弟子は時に、
出来の良い弟子よりも
ずっと可愛く見えるものです。

どうにかして育ててあげたい、と
真剣に思ってしまう。



師匠と弟子の関係とは
得てしてそう言うものです。

そう考えると、
利休にとっての忠興は
どこまでも可愛い、
「出来の悪い弟子」そのもの
だったのではないでしょうか。