by 行正り香 -72ページ目
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再び、雪の東京

I’m feeling Snow in Tokyo

Music /with Like Someone in Love by Bijork


2008年 2月3日

節分の今日、東京に再び雪が降りました。こんな日は、家で静かにビデオでも見ていたい気分だけど、娘たちといちご狩りに行くことにしていたので、観光バスに乗って、3人でツアーに参加しました。朝早くからのおでかけなので、ツアー参加者全員、半分寝ぼけ眼です。でもバスが出発して10分後、木々に雪が積もる風景を見た長女・かりんが「ママ!木が天ぷらになってる!」と叫びました。目をあけると、本当だ!東京の茶色いだけの木々が、雪の衣をつけて、まるでこごみや、たらの芽、しその葉っぱを天ぷらにしたようになっているのです。「朝の雪は、東京の木々を、揚げたての天ぷら」そんなことが言える子供たちは、生まれながらの詩人です。どうか、私が子供たちの詩心や絵心を消す大人となりませんように。とは思いつつも、「あー、ほんとー。はい、静かにねー。はい、おやすみー」とドライブインまで眠りこけた朝でした。

毎日見過ごしてしまいそうな、くだらない思い出だけど、結局は小さな記憶が、いずれ私の「人生」というものを作っていくのかな。ちょうど、映画「その名にちなんで」を見て、そう感じていた週末でした。

「その名にちなんで」の原作はジュンパ・ラヒリ。「停電の夜に」という短編集で、新人にしてピュリツァー賞をとった作家です。監督を務めたのはミーラ・ナヒール。「サラーン・ボンベイ!」というインドのストリートチルドレンを描いた、すばらしい映画を撮った監督。セールのお洋服を買いに行ったのに、好きな女性二人が作った映画を、やっぱり見てみたくなり、映画館の方に足が向いてしまいました。

いい映画というのは、始まった瞬間に鳥肌が立ちます。この映画もそうでした。インド音楽、時間と時間をつなげる見事な編集、まだ行ったことのないエキゾチックなインドの映像。そしてその裏に布を織るようにして丹念に描かれていく、インドからニューヨークに移り住んだ、ある家族の姿。タイトルのとおり「息子の名前」というモチーフを用いて、このファミリーの何気ない、どこにでもあるような家族の話が描かれていくのですが、本当に深く描かれていたのは、主人公の一人である母親の姿であったような気がします。母という役割を卒業した、一人の女性を称えた映画であったかもしれません。長いけど、本当に見る価値のある映画です。

この作品を書いたジュンパ・ラヒリは、エンドロールの最後に「For our parents, who gave us everything(私たちに全てを与えてくれた、両親に捧げる)とありましたが、これは同時に、ラストを飾るクレジットとしてこの言葉を選んだミーラ・ナヒールの言葉なのでもあろうと思いました。どんな子供も成長の過程で、親とたくさんの衝突があり、「その時はわからなかった」こともたくさんあります。でも自分がまた大人になり、いろんな経験を重ね、そして初めて、振り返ることのできる地点に立ったとき、「今に分かる」と言っていた親の言葉の意味がわかるようになるのです。時が巡り巡って、時計が一周したかのようになった一瞬があるからこそ、親の存在の偉大さが、胸に沁みこんでくるのかもしれません。

こんな言葉、残してもらえた親はしあわせに違いありません。でも分かっています。そう、簡単にはこんな言葉は親には与えられないことを!まずは来るんですよね!思春期TUNAMI。「うるさい!ばばあ!消え失せろ!」。そしてパパには第二波、「きたない!くさい!うざい!」。そう言われても、我々は簡単に、その波に飲み込まれませんよ。じーっと絶えて、岩にへばりつき、海が静かになるのを待つのです。ザッブーン、ヒュルヒュルヒュル。やがてTUNAMIが去り、いつか静かな海になったとき、ジュンパ・ラヒリやミーラ・ナヒールみたいに、大人として、友達として娘たちといっしょに語り合える日がくるのかもしれません。

雪に囲まれた静かな東京も、明日になれば、また普段の東京に戻るのかな。

残り雪に、そして、もしかしたら今年で最後の雪に、おやすみなさい。

雪の東京

雪の東京

Music/with rainy eyes by Emancipator


長い間、まごころドットコムのお手紙を読んでくださったみなさま、こんにちは。今度は、お手紙を、こちらのブログサイトに引っ越しをさせていただくことになりました。不定期の更新、殺風景なデザインで、ちまたの人気ブログほど楽しいものにはならないかもしれませんが、またお付き合いいただければ幸いです。

昨日、東京では雪が降りました。「ママ!!雪だるま作ろう!」興奮した子供たちの声で目が覚めました。窓を開けて裸足でベランダにかけだす娘たちを追いかけ、「悪いけど、窓閉めるよ」ピシャン。サッシをすぐに閉めました。夢のない親です。閉められたら焦る娘たち。あわてて部屋に戻ってきました。

寒いから雪だるまは作りたくないけど、やっぱり雪は好きです。雪が降った日にしたことは、何でもよく覚えています。雪が降ったときに行った喫茶店。雪が降ったときに食べたごはん。雪が降ったときに見た映画。午前中、降り積もる雪をみながら、ああ、こんな日はもう一度、雪が降った日にふさわしい映画「再見」を見たいなぁ、と思いました。

この映画のファーストシーンも雪でした。静かに降りゆく雪のなかで、美しい中国語のナレーションが響きます。「私たち兄弟姉妹は天から舞う雪のよう。最初はバラバラだけど、地上で溶けて、氷になり、やがて水となって、そして永遠に離れない」幼いころに生き別れた兄弟が、それぞれの人生を送り、最後に再会する映画。兄弟の思いやりって、やっぱりすごいな。そう感じた映画でした。


この映画のなかので生きている4人の兄弟の姿は、今の長女と次女、かりんとさくらに重なります。「かりん!!どうして何度も同じことをするの!」そう叱っていると、さくらが仁王立ちになって、かりんと私の間に挟まります。1歳のころからです。「おねえちゃんを、もう怒るな!」必死で私に抗議してくるのです。すごい顔でにらみつけて、「ねえちゃんには指一本触れさせない!」という気概を感じます。かりんも同じです。「さくら!どうしていうことをきかないの!!」またまた怒鳴っていると「さくらちゃんは、そのズボンで保育園に行きたいんだよ。ねえ、さくら」おしゃべりができないさくらを、一生懸命かばっています。


そういえば、自分と妹もそうだったなぁ、と思います。たくさん、たくさんケンカはしたけど、それでも私が怒られて裸足で追い出されては、妹はそっと靴を出してくれました。そうやって助けられて、やっと大人になれた気がします。

娘たちは、生まれたときから性格も体格も違うし、まったくバラバラなものだけど、そのうちきっと、「再見」の兄弟姉妹のように、永遠に離れないものになっていくような気がします。

まだサブタイトルも読めないけど、今度二人といっしょ、この映画を見よう。

きっと分かるような気がします。そして私といっしょに、ワンワン号泣するような気がします。

今年、もう一度くらい降るといいな。雪。そうしたら、きっと見よう。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


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