ある休日、KSはショッピングに出かけ、偶然JSを見つける。
声をかけようとした瞬間、その隣に女性がいることに気付く。
親しげに話す様子に衝撃を受け、その場を去ろうとするKS。
ところが、慌てて道路に飛び出したせいで、車にぶつかってしまう。
そのまま意識を失い、病院に運ばれるKS。
幸い大事には至らなかったが、目を覚ましたKSは、ここ数年の記憶を失っていた…。
もちろん、JSを好きだったことを忘れるために全部忘れたのだった。
他の人のことを思い出してもJSのことは中々思い出せないという。
JSと一緒にいた女性は親戚オチか何かで。
ネタ元は成田美名子の「花よりも花の如く」の中の「風天」と、古張乃莉の「痛みのない日」。
***
眩しさに目を開けると、ベッドの横には両手を組んで俯く青年がいた。
背にした窓から指す日の光は髪を透かして輝き、祈りを唱える唇が小さく動いていた。
その姿は、まるで天使のようだった。
「あの…」
声をかけると、青年は僕を見て微笑んだ。
「よかった、気がついたんだね」
安堵の声を漏らし、ナースコールのボタンを押す。
「覚えてる? 事故に遭ったんだよ。でも、ほとんど傷はなかったって」
頭の中で青年の言葉を繰り返す。
事故。
交通事故?
記憶をたどっても、覚えはない。
「ファソク兄とイライも来てる。あと、ジェソプも」
ファソク兄、イライ。
ジェソプ。
僕は何度か瞬きして、青年の顔を見る。
「ちょうど事故現場の近くにジェソプがいたんだって」
青年は椅子に座りなおし、僕の手を取って両掌で包む。
「救急車で運ばれる間もずっと一緒で、昨日の夜はそのままここに泊まったんだ」
柔らかに握られた拳で口元を隠し、青年は少し笑っているように見えた。
「だから、キソプの顔を見るためと、ジェソプの迎えのために僕たちは来たんだよ」
キソプ。
僕の名前。
眉を寄せると、青年は気付いたように言った。
「ごめん、眩しかったね。カーテン閉めようか」
解かれた手を掴んで立ち上がる青年を引きとめ、僕は尋ねる。
「ねえ、君は誰?」
青年は目を大きく見開いた。