これで終わり。
***
「お邪魔しまーす」
鍵を開けて部屋に入り、電気をつける。
靴を脱いだキョンジェは、固くなった身体を伸ばしている。
「シャワー浴びてきたら?」
顔を洗って、ついでに着替えたらいい。
そう言うと、キョンジェは同意してシャワールームへ向かう。
俺は鞄を置いて、食材を冷蔵庫に入れて、先に着替えてしまう。
それから、キョンジェに着せる服を用意する。
体格差はそれほどない。
Tシャツとパーカー、スウェットパンツ。
買い置きの下着を引っ張り出してきたところで、キョンジェが出てきた。
「お先」
「服、これ着て」
「ありがとう」
濡れた髪から水滴が落ちる。
最近は運動をしていないと言っていたが、その身体は充分締まっている。
服を着終えると、タオルで頭から被る。
「もう寝るよな」
「そのつもりだけど。本当に腹減ってないの?」
「大丈夫」
タオルの下から、笑顔を覗かせる。
「また一緒に寝てもいいか?」
初めてキョンジェに会った夜、ベッドを譲ろうとしたら、独りは嫌だと言われた。
遠慮からかと思ったが、寂しがりなのかもしれない。
「ああ、もちろん」
キョンジェは早速ベッドへ向かい、濡れた頭を気にせずに寝転がる。
俺は部屋の電気を消し、その後に続く。
ベッドに腰を下ろし、床に置いた目覚まし時計をセットする。
「明日、早いの?」
「いつもと変わらない、6時だよ」
「充分早いや」
笑う気配を背中で聞き、俺はベッドにもぐりこむ。
当然のように絡んできた腕に、少し戸惑う。
あの夜もこうだった。
キョンジェは俺を抱きしめて、
そして、向かい合って、
――キスしたんだ。
「フンミン」
「何?」
その時と同じ体勢になり、キョンジェはまっすぐ俺を見る。
「キスしていい?」
その問いは、前回はなかった。
いい、と答えるのも気が引けて、俺は口を噤む。
「嫌だって言ってくれなきゃ、するよ」
嫌じゃない。
嫌じゃないけど。
ダメだ。きっと。
「嫌じゃない」
じゃあ、する。
小さな声がすると同時に、唇が重なる。
啄むように触れるだけのキス。
軽すぎるそれに驚いて、唇が離されると同時に目を開けると、キョンジェの顔が飛び込んでくる。
「この前、いなくなって驚いた?」
「ああ、無事でよかった。また会えて嬉しいよ」
「本当に?」
「もちろん」
その瞳は真剣そのもので、見つめるだけで呑み込まれそうになる。
「この前、出てったのはさ」
「うん」
「この続きがしたくなったからなんだ」
「続き」
それはつまり。
「でも、受け入れてもらえないと思って、だから出たんだ。
1日一緒にいただけだから、すぐに忘れると思って。
けど無理だった。
どうしてだろうね?
フンミンのことが頭から離れなかった」
熱っぽく話す様子に、酔ってるのかな、と他人事のように思う。
いや、酔ってるのは自分かもしれない。
こんな危ない言葉に、心を高鳴らせている。
「フンミンは、何もしなくていいから」
キョンジェは表情を和らげた。
「愛させてくれない?」
どうして頷いたのか、自分でも分からない。
三度目のキスは深く、信じられないほど甘かった。