寒い夜は、星が綺麗だ。
めいっぱい着込んで屋上に出ると、俺とドンホは空を見上げた。
「あれ、オリオン座だよ」
指差した先には、いくつもの明るい星がある。
「どれ?」
「あの砂時計のかたち」
もう一度よく見ると、確かに砂時計が見えた。
ひときわ明るい長方形と、その真ん中に三つ並んだ星。
「あれがそうなんだ。初めて知った」
感心して呟くと、ドンホは笑った。
「ヒョンたちの曲なのにね」
「鼻で笑うなよ」
叩こうと手を伸ばすが、身をかわして逃げられる。
倒れそうなくらい反り返って、上を見上げたままなのに。
「となりのもっと明るい星がシリウス」
「シリウスは星の名前?」
「そう。おおいぬ座」
「本当によく知ってるな」
別に、と答えた横顔は、照れているようには見えない。
当然ということか。
星が好きだなんて聞いたことなかったけど。
「綺麗だな」
「うん。よく晴れてる」
だから寒いんだ、と言わんばかりに、ドンホは肩を竦めた。
つられて身を震わせ、俺は言う。
「寒いな」
「うん」
「そろそろ戻ろう。凍りそう」
促すつもりで歩き出してみても、ドンホは空を見上げたまま、動こうとしない。
「ドンホ」
「うん」
見つめているのは、オリオンか、シリウスか。
ドンホの視線を追ってみても、空しかない。
「あと1分だけ」
「わかった」
もちろんドンホは俺を見ていない。
頷いて傍まで戻り、俺は横からドンホを抱きしめる。
そして同じように空を仰ぎ、砂の落ちない時計を見つめた。