虚飾パラレル [fragment] | Shudder Log

Shudder Log

* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

というわけで、Shady Boysを書いてみた。
 
 ***
 
「は?」
 
キョンジンは口をぽかんと開けた。
心の中で舌打ちして、俺は目を逸らした。
相手の代わりに壁を睨みながら、唇を噛みそうになるのを堪える。
 
「何度も言わせんなよ」
 
顔を向けると、キョンジンをまっすぐに見て言う。
 
「俺が愛してるのはお前なんだ、キョンジン」
 
結局言うんだから世話もない、と自分でも思った。
それにしたって、こんな状況で告げることになるなんて。
頭の中で何パターンもシミュレートして、言い回しも散々考えていたのに。
どこかに連れ出して、景色のいい場所で、洒落た言葉で、優雅に、スムーズに。
冷静に、用意周到に、準備を整えて。
そう言い聞かせながら、ずっと二の足を踏んでいた。
反応が怖くて。
その答えが怖くて。
そして最後に、臆病の壁を蹴破ったのは、ただの嫉妬だったというわけか。
この意気地無しめ。
 
「は?」
 
呆気にとられたまま、キョンジンはもう一度言った。
俺はため息を吐いて、目にかかる髪をかき上げる。
キョンジンは二度三度大きく瞬きして、やっと言葉らしい言葉を発した。
 
「マジで?」
 
冗談だと思われるなら、まだ引き返せるだろうか。
嘘だよ、からかいたかっただけだ。
そう言って、笑顔で、安心させて。
そしたらキョンジンは肩を叩いて、驚かせるなと笑うだろう。
嘘だ、と。
俺が言えば。
 
「嘘じゃない。からかってもいない。お前を愛してる」
 
キョンジンはデスクの椅子に座り、頬杖をついた。
 
「マジかよ、ヒチョル」
 
何かを言って欲しそうな顔で俺を見つめる。
何も答えずに見つめ返すと、キョンジンは呆れたように呟いた。
 
「お前みたいな顔だったら、どんな女だって手に入るのに」
「俺が欲しいのはどんな女でもない」
「お前みたいな顔にしてくれって、何度神様に祈ったか」
 
俺が神様に祈ったのは、お前を手に入れることだった。
神様なんて信じてないのに。
お前のことは祈った。
 
「効果あるとは限らないぜ」
「じゃあくれよ」
「やれるもんならやるよ。それでお前が喜ぶならな」
 
言い捨てると、キョンジンは表情を強張らせた。
もう黙った方がいいことは分かるのに、意思に反して口は滑る。
 
「そしたら俺は女になって、お前に口説かれてやる」
 
俺は顔を背けて、天井を見上げた。
唇を舐めて、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 
――― 女なんてやめて、俺にしろよ。
 
もっと簡単に言えると思っていた。
その先に待つのが、たとえ拒絶でも。
どうせ後で悔やむなら、言えずに終わるより玉砕した方がずっとマシ。
そう思っていたのに。
 
「なんで泣くんだよ」
「泣いてねえよ」
 
間髪入れずに答えて、でも目が熱くなり始めているのを感じた。
 
「泣くなよ」
「泣いてねえって」
 
二度目に聞こえた声は一度目よりも柔らかくて、俺はもっと泣きそうになる。
睨みつけてやりたいが、顔を見たら涙腺が持つか分からない。
泣きたくなったのは誰のせいだよ。
心の中で悪態を吐いた次の瞬間、キョンジンは軽く言った。
 
「とりあえず、飯でも行く?」
「はあ?」
 
今度は俺が呆気に取られる番だった。
思わず眉を寄せて、キョンジンを見る。
 
「腹減ったし、続きはその後で」
 
自分の腹を擦りながら、椅子から立ち上がる。
何でもない様子でジャケットを羽織ると、デスクにあった財布とキーケースを手に取った。
 
「奢るよ。何食いたい?」
 
一瞬言葉に詰まってから、俺は息を吐き、なんとか答える。
 
「咸興冷麺」
「じゃ、そうしよう」
 
PCと電気を消して、視線でドアを指す。
俺は促されるまま部屋を出て、鍵をかけるキョンジンを眺めた。
どうしてくれ、とは俺は言ってないけど。
答えを出せるような質問はしてないけど。
その態度は何なんだ。
 
「もっと強引に、俺だけを見ろ、とか言いそうなのにな」
 
廊下を歩き始めたキョンジンは、ポケットに手を突っ込み、笑みさえ浮かべていそうな調子で言った。
俺は早足になってその背中を追い抜き、さっさと冷麺を食べて話の続きをしよう、と思った。