A Waypoint (Soojae) | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

東京の真ん中にあって、キャパシティのわりに客席が近くて、元の用途が違うからお台場や渋谷みたいな音は期待できないけど、でも歴史があって、ステイタスのある会場なんだ。
 
長かった、かな?
 
でも、それも、通過点でしかないって。
 
 *
 
画面の「Call」をタップして、耳に当てた。
一瞬の間の後、声が聞こえる。
 
『Hello?』
「もしもし? 俺だけど」
 
回線の向こうで、ジェソプが笑う気配がした。
 
『お疲れさま。どうだった?』
 
耳がくすぐったいような、温かいような感覚。
スマホを持つ手が、少しだけ震えているのが自分でも分かる。
 
「びっくりしたよ。いつ撮ってた?」
『ああ、メッセージ? "アンニョーン"』
「そう、それ」
『あー、いつだったかな』
 
結構前、というそっけない言葉の後、ベッドに倒れこむ音。
 
「嬉しかった」
『それはよかった』
 
仰向けに寝たのか、声のトーンが少し変わった。
 
「コンサートもすごくよかった」
『泣かなかった?』
 
当然のように尋ねる。
淡々としてるけど、面白がってるに違いない。
 
「泣いた」
『いつ?』
「俺のソロのとき」
『まだ前半じゃない』
 
今度ははっきりと笑っているのが分かった。
 
だって、凄かったんだぜ。
もし、一緒にあの場所に居られたら。
どんなに。
 
久しぶりに話すのに、言葉を飲み込んで。
 
「ジェソプ」
 
名前を呼べば。
 
『ん?』
 
ベッドに寝転んで、きっと笑みを浮かべてる。
 
あの口許に。
あの目許に。
 
「会いたいよ」
『俺もだよ、スヒョン兄』
 
間髪なく、返る答え。
 
でも、自分が思うほどには、寂しくないのだろうと。
そんな幸福を、俺はむしろ喜んでやるべきなのに。
 
『俺もそこにいたかった』
 
こんな言葉を言わせるべきじゃないのに。
 
 *
 
でも、それでさえも、通過点でしかないこと。
 
確信したのは、いなかった人の所為。
 
もっと大きなステージに、一緒に立つんだって。