Yunjaeで転生パラレル 3 [fragment] | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

とりあえず書いてみる。
本当は春がいいけど、韓国の新学期は3月。2月だと寒いなあ。
二人とも大学を出て、新生活を始める頃。
JJはこの街で大学に通って、地元で就職するために帰るところ。
YHは地元の大学を卒業して、この街で就職するために出てきたところ。
 
 
***
 
 
この街じゃなかったんだろうか。
 
だとしたら、初めてこの街を歩いたときの、あの強い既視感はなんだったんだろう。
初めて歩く道、初めて見る店、看板、信号、街路樹。
建物の隙間から見上げる空。
それなのに感じた、あの強烈な懐かしさ。
 
故郷にいる間に感じていた、あの長い長い違和感はなんだったんだろう。
よく遊んだ公園、通った学校、暮らした家。
馴染みの店と、常連客たち。
親切で優しい友人。
善良で愛情深い家族。
十数年を過ごし、見飽きたはずの町並み。
それなのに最後まで感じ続けた、あのよそよそしさ。
 
故郷から出てきて、この街こそが、自分のいるべき場所だと感じたのに。
 
それともやっぱり、この街じゃなかったんだろうか。
 
この街にいると感じる、この渇きはなんなのだろうか。
時を過ごせば過ごすほど強くなる、既視感と同じくらいの欠落感。
故郷にいたときとは比べ物にならない、苦しいほどの空虚感。
この街がその場所なら、どうして心が半分なくなったような思いが消えないんだろう。
 
この街はもしかしたら似ているだけで、本当のその場所は別のどこかにあるのかもしれない。
 
あるいは。
いるべき場所なんてものは、別にないのかもしれない。
 
 
*
 
 
「うん、もうすぐ飛行機に乗るところ」
 
よく晴れた冬の空をガラス越しに見上げて、俺は答える。
ターミナルから街は見えず、空調の効いた屋内では季節感もない。
地元に戻ることを決めてからは何かと忙しく、家族とは久しぶりの電話だった。
 
「寂しいよ。たぶんもう来ることもないだろうし」
 
大好きな街だけど、またこの空港を訪れることはない気がした。
大学の友人たちも、皆が皆この街に残ったわけではないし。
電話の向こうでは、驚きの声が上がる。
 
「ああ、うん、そうだね。たまには観光しにきてもいいね」
 
この街の観光名所はほとんど回った。
人に言わせると、他地方出身者の方が詳しくなるらしい。
確かに自分も、故郷の名所はあまり知らない。
 
「わかったよ。俺が案内してあげる」
 
気付くと、案内板の表示が「GO TO GATE」に変わっていた。
また後で、と告げて電話を切ると、荷物を持つ。
ほとんど先に送ってしまったので、身の回りのものだけだ。
 
展望エリアを抜け、ゲートへ向かう。
その途中で、立ち止まって振り返る。
あの懐かしさを、少しだけ感じた気がして。
けれど空港というものは、きっといつもこうなのだろう。
街の近くにあって、でも街ではない。
ほんの僅か地元の街の空気があって、残りはむしろ他の空港に似ている。
 
希釈された既視感というのも奇妙なものだった。
ため息をついて、前を向く。
歩き出せば、自然と心も軽くなる。
慣れ親しんだ故郷。
家族と友人たち。
新しい生活。
そして、この胸の空虚にさよならを。
 
「あの、すみません」
 
突然の声に呼び止められ、俺は再び振り向いた。
 
「どこかでお会いしたことありませんか」
 
目に飛び込んできたのは、初めて見る、懐かしい笑顔だった。