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昨夜の満月、煌々と世を照らしていて、
しばらく時を忘れて眺めたもんだったが、
これを書こうとして思いだしたことに、
ずっと前、初の一人暮らしを始めてすぐ、
その夜もびっくりするほどの満月で、
ベランダに出て、兎の餅つきを見ていた。
それまで家族で暮らしていたときは、
住宅街の狭小二階建てだったから、
ワンルームの4階から見る月は、
少しだけ空が広く近く感じて、
遠くに住んでいるハハに電話してみた。
>あ、もしもしーおかーさん?
>あたしーエヘヘ…
しばらくぶりにハハの声を聞いたら、
ちょっと涙が出そうになってしまった。
ハハは気づいたか気づかなかったか、
なーに、どうしたの?
>うん、あのね…
>おかーさん、そこから月見える?
>今夜すっごい満月だよー
あらーそうなの!
そこからは見えるの?
>うん!
>すっごい良く見えるよー
ハハの声を聞いていたらわれに返った。
ヤバい、心配かけたらまたうるさいな。
>そんだけーアハハ~
>じゃーねーまたねー
ソソクサ電話を切ってしまったあとに、
じんわり涙に満月はにじんだ。
ハハが庭に出て月を見ている光景が
心の奥に静かにしみてくるようだった。
そしてそれからずーっと時が過ぎて、
ハハの本棚で新聞の切り抜きを見つけた。
読者投稿の短文エッセイのような記事で、
だいたいこんな内容だったかと思う。
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昨夜のしばらくぶりの娘からの電話は、
「お母さん、満月、そこから見える?」…
すぐ庭にかけ出してみたけれど、
わが家の月は隣の家に隠れて見えない。
マンションの4階に住んでいる娘には、
さぞかしきれいに見えるだろうと思った。
東京に嫁いできてすぐの満月の夜、
郷里の母に電話したことを思い出した。
>母ちゃん、今夜は満月だね。元気?
母は娘心を知ってか知らずか、
そんなことで電話してきてー
早く切りなさいよ!
今の電話はおしゃべりの道具だけれど、
当時はまだまだ、特別な連絡用だった。
知らない土地に移って、寂しく心細く、
どんなに故郷が恋しくなっても、
嫁ぐとはそういうもの、
嫁とはそういうものという時代だった。
倹約家の母にとっては、
娘がそんな雑談めいたことで電話して、
夫や姑の心証を心配したのだろう。
母は何を思っていたんだろうか。
そんなことをぼんやり考えたまま、
向かいの屋根から昇る月を見ていた。
娘もこの月を見ているのだと思った。
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知らんペンネーム使って、
おかーさん、こんなことしてたんだー
へー、しらなんだ。びっくり。
言おうかな?言うのよそうかな?…
ちょっと迷って、同じ場所にしまった。
ハハの母、ハハ、私、とつながってきて、
きっとハハの母も、そのまた母も、
そのまたずっとずっと母も母も母も…
家族と遠く離れた一人ぼっちの部屋で、
母も同じ月を見ているんだと安心して、
明日もまた頑張ろう、と床についた。
あのとき話そうとして話せなかったこと、
ハハはちゃんとわかってくれていた。
父も母も、黙って家庭をつくって守って、
子は気づかなかったことばっかりだ。
季節の移り変わりや感じたこと見たこと、
ブログを書く、文章を書くってことは、
忘れたことすら忘れて果てていることを
思いだすための場所なんだと思う。
11月の晴天、いいお天気。
良い週末を。
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