生活保護法改正と「市福祉給付制度適正化条例」 | ペーパー社会福祉士のうたかた日記

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社会福祉士資格をとるまでと、とったあと+α。浮世のつれづれ、吹く風まかせの日々。

60年ぶりに生活保護法が改正された。
行き過ぎた扶助を削減し、就労支援の強化。
"働かざる者食うべからず"で一貫しており、
発想としては、1601年制定エリザベス救貧法的。
(ハイ、受験生ココ超必須事項↑↑)

ここに至るまで、執拗なまでに報道された、
生活保護受給者の享楽的で怠惰な生活。
そこにあるのは生活保護費を遊興費に費やし、
"働かなくても食っていける"お気楽なお暮らし。

このあたり、去年の今ごろから、
書き続けてきていることなのだが、
生活保護受給者への取材に対する疑問点 2012-03-16 11:53:20
生活保護問題に注がれる澱んだ脚光 2012-05-30 12:14:42

私がこの手の報道に感じていた、
世論操作と新手の給付抑制策?は、
けっこうな確率で当たってた気がする。
案の定、世論は今回の改正に概ね賛成。

他にも、収容所つくればいいのにとか、
食費にせず現物給付すればいいのにとか、
不正受給者でもないのに風当たりは最凶。

生活保護受給者は全員、あんな感じ、
なんか真面目に働くのがバカみたい。
そういう世論を先につくっておいて、
非常にスムーズに公的扶助を削減する、
厚生労働省の手腕も大したもんだと思う。

で、なんかスゴイことになってきた。
兵庫県小野市福祉給付制度適正化条例。
以下、抜粋編集した条文。
-------------
第1条 福祉制度に基づき給付された金銭の受給者が、
これらの金銭を、遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、
生活の維持、安定向上に努める義務に違反する行為を
防止することにより、福祉制度の適正な運用と
受給者の自立した生活支援に資することを目的とする。
-------------
第2条 この条例での受給者とは、
福祉制度の金銭給付を受給している者
又は受給しようとする者をいう。
-------------
第5条3 市民及び地域社会の構成員は、
受給者の虚偽や不正受給に関する疑い
又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬
その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、
その後の生活の維持に支障が生じる状況を
常習的に引き起こしていると認めるときは、
速やかに市にその情報を提供するものとする。
-------------

すげーなー。
もはや、どこからツッコんでいいんだか。
正気でこれ可決して条例化するつもりかな。

人権派が黙っちゃいないだろうというのと、
私みたいなノンポリでも、くりびつだ。
行政の規制の範囲を逸脱するにもほどがある。

条文を読むのが面倒で読み飛ばした方に、
わかりやすくまとめると以下のとおり。
-------------
1_支給されたカネでギャンブルとかすんなよ。
2_これから申請するヤツも対象だかんな。
3_市民は違反者発見したら、通報すんだぞ。
-------------

それぞれの問題点を列挙すると、
1_ギャンブルだけ禁止?
"遊技、遊興、賭博等"の範囲はどこまでか。
法律や条文の"~等"は受験生にとっても、
実際の適用にとっても、ものスゴイ鬼門で、

母子家庭等の「等」は父子家庭を含んだり、
医療有資格者等の「等」は無資格者も含んだり、
言ってみれば伸縮自在の如意棒みたいなもの。
生活保護受給者の自由を意図的に制限できる。

それと、アゲ足をとるようで恐縮だけど、
規則というのは決めれば例外ができる。
飲酒や薬物は含まないでいいんですかい。

困窮者のアルコール依存症者の割合、
薬物依存と処方薬の違法転売、
こっち方面はがら空きでいいんだね。
ほんとにいいと思ってるんだね?ほー。

要するに、
生活保護受給者は、就活以外のことはスンナ、
そう言いたいんだろうし、言ってるんだろう。

2_受給予備軍も対象
受給している者と受給しようとする者、
これ単純に足してちょっと拡大解釈したら、
全市民が対象ってことになりゃしないかね。

人生、何がどこでどうコケるか、
一寸先は誰にもわからないんであり、
絶対に申請を考える事態にならないとは、
神様でもない限り、断言はできない。

名目上は生活保護受給者限定っぽいが、
小野市は全市民に向って発令しているのだ。

要するに、
小野市民は真面目に働いて食ってけよと。
そう言いたいんだろうし、言ってるんだろう。

3_違反者通報は市民の義務
これが一番、目くじら立てられるとこだよね。
防犯カメラでさえプライバシーがどうだこうだ、
うるさく言う(すんません)人がいるのに、

受給者の違反行為を見かけたら、
反社会的行為でも、犯罪行為でもないのに、
公的機関に通報することが市民の義務って、
いつの時代のどこの話なんだよ。
日本国憲法をなんと心得ておるのだ。

要するに、
受給者に人権はないし、保護する必要もない。
そう言いたいんだろうし、言ってるんだろう。




生活保護受給者の激増の対策として、
行政自らの責任は不問に付し、
市民に対して監視と差別の助長を奨励。
ある意味、斬新で画期的でスゴイ度胸。
その言い分はこんな感じ↓↓

>監視強化ではなく、適正化支給への見守りの条例。
>言われてからやるのではなく、言われる前にやる、
>まさに後手ではなく先手管理の実践

>生活保護制度への市民の信頼感を取り戻すのが狙い。
>不適切な受給とは何かを明らかにし、
>自立支援という生活保護のあるべき姿を明確し、
>受給者への社会の厳しい目を和らげていきたい

不正受給や社会の厳しい目の原因は、
市政社会福祉機能に問題があるんで、
責任転嫁も時代錯誤も大概にしとけ。
市民を禿(かぶろ※)化してどーする。

小野市だけ平安時代にタイムスリップか?

あまりの過激で常識はずれな条例のため、
一部では"アドバルーン効果"説も浮上。
わざわざ物議を醸すドハデな条例ブチ上げて、
生活保護制度、さーみんなで考えよー、という…

社会福祉関係者としても、個人としても、
ぜひそうあっていただきたいと切に願う。

生活保護制度は近代の社会保障の根幹である。
社会保障の根幹ということは、
すべての人間の自由と平等の根幹である。

感情論でなく、客観的に社会学的に、
倫理的に道徳的に、歴史的に福祉的に、
どっから考えても、この条例はおかしい。

こんなんまで言っといて、
市議会で可決されたらどないしょ。。
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議案第17号 小野市福祉給付制度適正化条例の制定について


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※禿(かむろ、かぶろ)
平安時代後期、平清盛が実権を握った際、
多数の童子を平安京内に放ち、市井の情報、
特に平氏に対する批判や、謀議の情報などを
収拾し、密告させたとする(『平家物語』)。
呼び名はその独特の髪型に由来する。