<ヘランターニと白蛇> 

 阿蘇の神野座神社(かみのいます神社)に到着すると、神社の背面の山の頂上に大きな風穴洞が開いていました。私は参拝しに来た訳では無いので、神社には一礼の挨拶をした後、早速裏山の風穴洞を目指しました。200mぐらいの登山でしょうか、風穴洞には迦楼羅王(カルラオウ)が待っていました。同行者の女性霊能者(松山祐)が彼との対話を私に通訳してくれましたが、当初は「お前達は何者だ、ここは何者も立ち入る事は出来ない場所だ」と威喝して来ましたが、弥勒如来(ミトラ神)の命を受けて龍神を解放しに来た天照一門の一行だと答えると、「おー、なんとついにこの日が訪れたか、待っておったぞ」と感激しているとの事でした。彼女の話ではここの迦楼羅王は土偶時代の服を纏ったみすぼらしいただの親父(ジジー)だと言います。「シー、祐ちゃん聞こえるって」と制しましたが、松山祐は日本国の中でも三本の指に入る優秀な菩薩界巫女、この女性は戦う戦士であり、決して神々に負けていません。当時の私には彼女の他にも6名の巫女が協力してくれており、ソロジン選抜ゲームは神界を挙げての大行事だった訳です。私が神社を見下ろす風穴洞の前に立って龍神解放の儀式を行なうと、神社から山頂の私を目掛けて虹色の旋風が身体に入って来ました。黒龍です。カラスもそうなのですが、黒の反射光とは虹色を呈するもので、黒とは全ての色を持ち合わせているのです。

 解放の儀式が終わると、迦楼羅王は笛の音を奏でて、その音が神社の境内から山頂まで鳴り響いていました。35万年にも及ぶ辛い辛い呪縛生活は彼に取っては修行期間、大役を勤め果たして銀河に戻れるその時が近付いていました。一方解放された黒龍は神社のしめ縄に巻き付いたり、私の体に巻き付いて来たり、巫女の体にも巻き付いていました。「あんた小さくて可愛いのね、黒龍」と巫女に頭をなでなでされていました。地球黒龍の体長は1m50cm程度、それはドチビの天体龍神でした。一般に龍神は色別で精神年齢が異なり、上から順番に「白、白銀、銀」は老人で格調が高く、その下の「金、紫、群青(紺)」は大人で賢く、その下の「青、緑、黄」は若者で素直、その下の「橙、赤、黒」は幼弱で可愛いというのが相場です。その体も白が一番大きく、順次小さくなって行きます。これは巫女の松山祐子が傷付くので本当は話してはいけない事かも知れませんが、彼女が一度私の前でヘランターニを呼び出した事がありました。「四国四万十のヘランターニ、ヘランターニ、ここにお出で下さい」と気取って呼び出したら、呼び掛けが終わると同時にヘランターニが彼女の眼前に突然現れて、スイカ程の大きさの眼をした巨大龍神の顔と接触、驚いた彼女は「ギャー」と悲鳴を上げて逃げて行きました。ヘランターニとは初対面だったのです。「自分で龍神を呼び出しといて逃げるか、祐子」と私に馬鹿にされたのでした。

 ところで、ヘランターニが抱いている白蛇の話ですが、その後私がいくら尋ねても本人は白蛇の事は語らずじまい、「蛇を抱えた龍神の姿」など前代未聞の恥さらし、私は煮え切らない気持ちでいました。そこで大雪山に住む第五白龍を呼び出してその蛇の由縁を聞いて見る事にしました。すると意外な事に普段ヘランターニは蛇など抱いていないと言うのです。どうやら私と会う度にその蛇を意図的に見せ付けている様子、私はヘランターニの不可思議な行動に頭を悩まし続けました。これは後から分かった事実ですが、平安時代の末期にも私は今の女房と結婚しており(七度目)、私は天皇家の長男として誕生し、女房は藤原南家の足利家に誕生しました。そんな二人が結婚して男の子が誕生したのですが、当時は承久の乱が起こって天皇家そのものが南朝と北朝に分かれて激しく対立しているご時世、私の女房は天皇家の血筋に生まれた息子を案じて、何と天皇家から自分の子供を抱えて逃げ出したのでした。結局、誘拐犯の彼女は南朝からも北朝からも追われる嵌めになって、四国の山奥に逃げ込んだものの、行き場を失った彼女は子供を抱えたまま四万十川の滝壺に身を投じたのでした。源平合戦の歴史に残る悲しい物語の一つなのですが、その御姫様と子供の「骸(むくろ)」をヘランターニがずっと守護していたのでした。ヘランターニは私に、「お前が彼女を守ってやれなかったからこんな悲劇を生んだのだ」と訴えていたのでした。遥か昔の涙を誘う因縁話ですが、そういう過去の話を持ち出しては何かに付けて反抗して来るヘランターニに対して私はいつもブチ切れていました。


 
四万十川源流の滝
 



次回に続く