「ちわーっす」

ある居酒屋に入ってきたのは、黒いコートを着た20代の男であった。
それに気づいたのは長身でオールバックの関西風の男だった。

「よぉ! 久し振りやな佑!」

「半年振りか、全然変わってねぇな」



二人の会話に入るように、一人のロングヘアーの女性が喋り出す。

「こんにちは佑作さん!」

佑作はあまりにも外見が変わりすぎて一瞬誰だか分らなかったが、脳内にフラッシュされたのは、

「ホノカ!?」

であった。

「はいそうですよ~もう忘れちゃったんですかぁ?」

「いや、なんていうか・・・・ホノカ女っぽくなったな~って一瞬誰だか分らなかったよ」

ホノカは頬を少し赤くさせ、

「もうっ!」

と少しほっぺを膨らませた。
佑作は女の子らしい可愛い反応だと心で思っていた。



黄色いエプロンを腰に巻いた若い男がグラスに注がれたビールと牛乳、それに枝豆を持ってきた。
若い男はそれをテーブルに並べ、ごゆっくりどうぞと軽く礼をし戻っていった。

「さて、飲み始めますか!」

亮がグラスを持ち上げると、佑作とホノカもグラスを持ち上げた。
三つっのグラスを軽くぶつけ、「乾杯!」 と声を揃えてグラスに注がれた飲み物を飲む。

「ぷはぁぁぁ!!」

亮と佑作袖で口を拭うとグラスをテーブルに大きな音を立てながら置いた。
それと同時にホノカはグイッとグラス一杯に注がれた牛乳を一気に飲み干し、同じく大きな音を立てながらグラスを置いた。

「ぷはぁ」

なぜか二人は笑ってしまった。
ホノカは状況を把握できず、首を傾げる。


「あれから半年も経つんだなぁ、時の流れは速いもんだなぁ」

「そうやな、あんな地獄のようなとっから生還できたんのも奇跡やしな」

あの残酷な大会・・・・元より残酷な作戦は人権を無視したようなものだった。
一生涯風化することのない記憶、強く深く刻まれている。



炎陽帝国のニュースは少し前に放送された。
それはテロリスト組織により皇帝が暗殺されてしまい、国事態が完全に起動停止してしまった。
マスメディアも無断で炎陽帝国に入り込み、映像をTVで中継された。
近々この国も崩壊することを全世界で決められ、それを拒否すらできず受け入れられる。

崩壊することを決めた完全なるもの、それはある極秘ファイルであった。
それは、『最強クローン兵士製造計画』と書かれており、中には残虐な作戦などが書かれており、クローンを作りだし全面戦争を勃発させることだった。
さすがにこれには全世界が驚愕し、即座に炎陽帝国崩壊を決めた。
これはソビエト連邦とは異なり、国名を変えずそのまま封鎖するらしい。


佑作達が激戦を繰り広げたあの地下は、まだ潜入されていない。


佑作は過去を振り返る最中、ある事に気づく。

「そういえば、誰が俺達を日本まで運んだんだ?」

亮は枝豆を食べながら、その話題について話す。

「やっぱあの女じゃないか? でもなんで俺らを・・・・・?」

「敵・・・・じゃなかったのかな?」

その疑問を知るよしもまったくなかった。


ある工場にて、武装した1人の男が木箱に座った女に近づく。

「現在炎陽帝国内には六ヶ国の人間がいました、その内の三ヵ国には大統領もいました」

「そうか、御苦労であった、下がってもよいぞ」

「はっ! 失礼します!」


その会話を着ていた短髪の男が女に近づく。

「皇帝も死んで炎陽帝国も崩壊、俺らの使命も終わったな」

「そうね、長かったわね、復讐期間」

「まったくだ」

短髪の男は女の横にある木箱に腰を下ろした。
天井には小さな穴が開いており、そこから光が漏れている。
それをジッと見つめながら、短髪の男が喋り出した。

「組織が解散したら、郁美はどうするんだ?」

「そうね・・・・残りの人生でも楽しみましょうかしら、ペインは?」

「俺か・・・・使命を果たした今俺の生存理由なんて存在しない、また夜の世界に身を潜めることにする」


夜の世界で両手を血に染めてきたペインには、夜の世界が自分に相応しいと思っていた。
母国で生まれ10歳の時に母国に両親を殺され、無理やり国家作戦に参加させられた。
自分と同い年の子もいれば、年の離れた子や大人もいた。
10歳の子供に武器を持たせて殺し合いをやらせるなどあまりにも残忍すぎることだった。
奇跡的に生き延びたのは五人、その中にはペインと郁美も含まれていた。

二度生き延びた参加者は再び地獄に放り込まれ、十人で殺し合いをさせられた。
地獄の最中、信頼関係を持つ者たちも出てきていた、しかしそれも脆いものだった。
敵にとっては好都合であり、纏めて始末できるのである。

生き残ったのは3人だけであった。

「俺は二度の殺し合いで野生の血に目覚めちまった、それ以来平気で人間ぶっ殺せるようになった
 人間ってのは欲深くてやな生物だ、自分が人間であることを憎む」

「そうね、私もあの時から人を蟻のように殺してたもの、自己嫌悪に陥った時期もあった
 こんな風にした国家が憎い、自分が憎い」

ペインは胸ポケットから煙草を一本取り出し、火を点けて吸う
吸った煙は口から、蒸気機関車のように噴き出す。

「皇帝死んで国家崩壊してもなんか俺の過去は崩壊させられないんだよな・・・・・」

「鈍器でブン殴って記憶喪失にしてあげようか?」

唐突に言われた恐ろしい言葉にペインは微妙に畏怖した。

「・・・・・無表情でそんなおっかねぇ事言うんじゃねぇよ」

そう言うと、脳裏にある映像が過り思い出した。
それは本部に連絡した後どこに行って何をしたのかを。
なぜ思い出したのか、ペイン自身も分からないまま質問をする。

「あの子たちを日本に帰した」

「生存者がいないと思ったらお前だったのかよ・・・・・」

あの後組織が地下に潜入し死体を片づけていたのだが、三人だけ死体が見つからなかった。
ペインも国内の何処かに潜伏しているのかと今日まで思っていた。

「なんでそんなめんどくさいことしたんだよ? あのまま放置しても良かったんじゃ無いのか?」

「そうかもしれないわね、だけど彼らはあの過酷な作戦を生き延びた、昔の私ならそのまま放置してたかもしれない
 だけど彼らを見てて昔の私たちを見ているようで何だか変な感じでだった」

「それで助けたと?」

「あの子たちにはまだ未来が待っている、これ以上夜の世界の住人を増やしたくもなかったしね」

ペインは煙草を地面に捨て踏みつけた後、小さい溜息をした。

「まったく、昔からお前の行動には驚かされっぱなしだよ」

「それはどうも」


「ありがとうございやしたぁー!」

佑作達は飲み終え居酒屋を後にした。
佑作の背中にはホノカがおぶらされていた。

「ホノちゃんお酒苦手なのになんで無理やり飲んだんやろ」

「お前が酒を飲め飲め言うから本当に飲んじまったんだろ」

顔が真っ赤になりぐったりとするホノカは少し魘されていた。
慣れないアルコールを頑張って飲んだせいか、気分が悪くなってしまったのだった。

「私は総理大臣れすぅ・・・・あぁ・・・・・やめろぉ禿ジジイー」

「一体何の夢みてるんだろ?」

「さぁ・・・・?」

二人は苦笑しながら帰宅する。
再び飲み会ができることを楽しみにしている三人であった。