――――どれくらいの時間が経ったのであろうか。

何も無い広い荒野を果てしなく歩く三人の若者。
先ほど前、人間同士殺し合い、大金か命を得るという恐ろしい計画につき合わされていたばかりだ。
やっとの思いで脱出できたものの、今いる炎陽帝国から脱出しなければならない。
視野に見えるのは、枯れた大地と、炎陽帝国兵士の死体だけだった。

「随分来たみたいだけど、一体いつになったら海辺近くに出れるんだろう」

佑作たちが海辺に向かう訳は、船を盗み出し、そこから日本へと帰るという寸法であった。
しかしそう簡単に成功するはずもなく、もし万が一見張りがいたとしたら、銃社会の炎陽帝国は銃を持っており、確実に撃たれるであろう。

「ホンマに大丈夫なんやろうか? せっかく生き延びたのに死んだら洒落にならへんで」

「こんな血臭いところにいるよりはまだましだ、俺らは絶対に生き延びる」

そんな会話の中、ホノカの視界に何かが映る。思わず声を上げた。

「あれ! 海じゃないですか!」

「おっ、ホンマや!」

「やっと着いたか」

三人は全力疾走で海辺へと走り出した。



ザザッ―――。

通信機から聞こえる雑音が広大な海の上で響く。
今大会の司会者であった剣崎俊憲を殺害した千草郁美は本部へと連絡する。
そんな中、郁美に声をかける一人の男がいた。

「その様子じゃもう任務完了したみたいだな」

「・・・・・・ペイン、どうしたのこんなところで」

その男の名はペイン、テロリスト組織『蛇』の幹部の一人でもあり、郁美の戦友でもある。
ペインは近くの大岩に腰を下ろし、ポケットから煙草を一本だし、吸う。

「炎陽帝国の幹部は全員暗殺した、あのお方も計画通りに進んで喜んでるぜ」

「そう」

郁美は何の興味も無くただ返事を返す。

「ターゲットのジジィがやってたくだらない実験で、数人生存者が確認されたらしいな
 あんな過酷な戦場を生き残るなんて、タフな奴もいるんだなぁ」

「まぁね、今回はなんか特別ていうかまぐれというか偶々あのメンツだったらしいし
 私もあの最強二人が生き残ると思っていたもの、正直それは驚いたわ」

「まぁ、俺らも嘗てはこんな戦場に狩り出されて戦友を多く亡くしたっけな・・・・・
 正直俺はもうあんなおぞましい戦闘は御念だね、だから俺は炎陽帝国をぶっ潰す」

ペインは立ち上がり、吸っていた煙草を海へと放り投げる。
すると郁美の持っていた通信機から渋い男の声が聞こえてくる。

「コード名"コブラ4"、任務完了した、これより本部へと帰還する」

郁美はそう言うと通信機の電源を切り、何処かへと歩き出す。

「おい、何処行くんだ?」

「ちょっと、ね」

ペインには理解不能であった。



砂浜には銃弾や壊れた銃、それに戦車まで捨てられていた。
佑作たちは海辺に到着し、見張りなどが居ないか慎重に辺りを見渡し、居ない事を確認した後船を捜し今に至る。
しかしそう容易なことでもなく、船愚か周りにはゴミなどしか落ちていなかった。

「どうする・・・・・このままじゃここから脱出できないぞ」

佑作は足元にあった空き缶を蹴り飛ばす。
後ろを歩いていた亮は

「立ち止まって何もしてないより放浪してた方がまだ希望があるんやないか」

と、言う。

この厳暑の中を放浪するのもかなり体力の消費であろう。
幸い食料と水はまだ少しだけ残っている、これをどう有効的に使うかが生き残る術である。

そんな中、ホノカはあまりの暑さにバタンと熱い砂の上に倒れこむ。
佑作は驚き、急いで駆けよる。

「おぃ! 大丈夫か!?」

「ごめんなさい、頭がボーッとなっちゃって・・・・・」

「こりゃあ日陰で休ませないと駄目やな
 あそこの森林で休もうや」

亮が指差したのは荒野に唯一存在した森林である。
佑作と亮もここまで来てかなり体力を消費している、安心は出来ないがここで休むしかない。
亮はホノカを抱え、森林へと向かう。


森林の涼しい涼風と日陰により、ここは休憩するのに絶好の場所であった。
亮はホノカをゆっくりと下ろす。

「とりあえず睡眠を取らないときついから寝たほうがええな
 俺が見張りをするから二人は寝といてくれ」

「あぁ、すまない」

佑作は横に寝そべり、静かに眼を閉じた。
耳に聞こえてくる音は、鳥の囀りや草木の靡く音だった。

「ぐっ!」

亮の急な声に佑作は飛び起きる。
視界に映ったのは倒れている亮と、一人の女であった。

「誰だ・・・・・お前!」

「私の事ぉ~忘れちゃったんですかぁ~? なんてね」

聞き覚えのある声、それは紛れも無く千草郁美であった。

「もう大会は終わったんじゃないのか!」

「まったくうるさい子ね」

郁美は颯爽と佑作の後ろへと回る。
そして白いハンカチを佑作の鼻にあてる。

「少し・・・・・寝ていなさい英雄さん」

佑作は力を失い深い眠りについた。







ザーッ・・・・・ザーッ。

海の匂いがうる、そして太陽の輝かしい日差しがあたる。
佑作が気づくとそこは見覚えのある砂浜であった。

「ここは・・・・・・日本か?」

すると同じく隣で倒れていた亮も起き上がる。

「佑・・・・・あっ! あの女は!?」

「分からない、俺も気が付いたらここで倒れてた」

「そか・・・・それよりホノちゃんは何処や?」

佑作と亮は辺りを見渡すが、ホノカの姿は何処にも無い。まさか・・・・と最悪の展開も考えた。
すると階段を駆け下りる一人の女性が居た、ホノカだ。

「大丈夫ですかー! 佑作さーん亮さーんっぶ!」

階段の最後の段に引っかかり、熱い砂に顔を埋め込む。

「おいっ! ホノカ大丈夫か!?」

「えへへへ」

その表情はまるで小さい子供が照れてるような仕草であった。
三人は辺りを見回す。

「俺たち・・・・・無事に生還できたんだな」

「俺も未だに信じられへん・・・・しかし誰が俺らを・・・・・まさかあの女か?」

「まぁまぁ、誰が助けたなんていいですから、皆で飲みにでも行きましょうよ!」

「おっ! いいねぇ! 久しぶりの宴だー!」

三人は階段を素早く駆け上がり、長く続くアスファルトの道を突っ走った。

Death&death 皆殺し編 完