佑作は俊憲の方を見つめ、言う。

「あんたが司会者なら聞きたい事がある、なぜ俺たちはこんなところに連れられ
 殺し合いをしなきゃいけないんだ?」

俊憲は徐に銃を下ろした後、モニターへ近づく。

「この大会、いやこれは一種の実験のようなものだ」

「実験・・・・・・だと?」

「そう、俺は帝国軍から任務を受けこの地に降り立った
 この任務は我が祖国の命運を賭けた実験なのだ」

「そんな実験になんで俺らをここに連れてきたんだ!」

「貴様らはランダムに連れてこられたのだ、つまり、君らは運がなかったのだよ
 最初はすぐ終わると思った、だが・・・・・」

俊憲はモニターをジッと見つめる。
そこに映されているのは激しく火花を散らしている戦闘だった。

「この麻寺暫は、私の期待を実現させてくれた
 こやつこそ最強の兵士に相応しい」

「最強の兵士?」

「こやつのクローンを大量に作り出し、全面戦争を起こす!!」

「なっ!?」

佑作、ホノカと京助も驚きの表情を隠すことはできなかった。

「クローンが死んでも再びクローンを作り出すことができる!
 どんな強敵であろうが、炎陽帝国に勝つ手段なぞないっ!!」

佑作達は炎陽帝国という単語にピンときた。
炎陽帝国とは略称であり、正式名称は炎陽東絶対主義帝国(えんようひがしぜったいしゅぎていこく)。
数十年前に作られたバチカン市国より極小の国である。メディアに知られ大規模に知られることになった。
その国は関係者以外の立ち入りを固く禁止されており、誰一人として入ることができなかった。
一部のカルトマニアからは、UFOの開発や宇宙人の基地があると噂が作られていった。無論、でっち上げである。

「雑魚を殺してくれた貴様らには感謝している、だが、もう用済みだ・・・・・死んでもらう」

再び俊憲は銃を上げ、佑作に向ける。
佑作も自分の武器である拳銃を取り出す。

「ほぅ、やるというのか、この百戦錬磨のこの俺に拳銃一つで・・・・・おもしろい」

「俺はお前ら炎陽帝国を許さない、お前を倒し生きて帰るっ!」

二つのトリガーが同時に引かれた。



鉄と鉄が擦れる音が森林道全体に響きわたる。
亮は苦痛の顔を浮かべていた。

「(ちょい、体力も限界に近づいておるな・・・・・)」

先ほどまで激戦を繰り広げていた暫は、全くと言っていいほどピンピンしていた。
この暫の状態に亮は再び認識する。

「(こいつ・・・・・・やっぱり最強や)」

力強く降られた日本刀は鉈を強く弾き飛ばす。

「ぐっ!」

その衝動は亮の全身に響いた。そのまま転倒する。
暫は相変わらずの無表情で亮へ近づく。

「(俺は・・・・・・こんなところで・・・・・死ぬわけにはいかないんやぁ・・・・・・!)」


亮にはたった一人の家族がいる、名をタマという。
生まれてすぐ両親を交通事故で亡くし、父の両親の家へと引き取られた。
周りの友達にはお父さんやお母さんがおり、なぜ自分にだけいないのか、当時の幼い自分には理解できなかった。

学校では元気に過ごしていた、しかし、寂しかった。
本当の両親の愛を知らず育ち、声・顔もまったく覚えていない。

本当に、辛かった。

そんなある日、祖母が一匹の子猫を引き取ってきた。
そのネコは捨てられており、雨に濡れて寒がっているところを祖母に拾われたらしい。

最初はあまり興味が湧かなかった、しかし一緒に過ごしていくうちに仲良くなった。
そのネコに名前をつけた、タマと。

自分が元気な姿を見せるようになり、祖父と祖母も喜んでいた。


高校二年の秋の頃だった――――。

知らされたのは五時間目のチャイムが鳴ったところだった。
祖父と祖母が轢き逃げされた。

急いで担任に車で病院へと送ってもらった。
ついたと同時に病院へ駆け込み、急いで緊急治療室へ向かった。

緑色の小さな光がスッと消え、中からマスクと手袋などをした医者が出てきた。

「残念ですが・・・・・・お二人とも死亡が確認されました」


その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
膝を地面に突き、泣き叫んだ。こんなに泣いたのはいつ頃だっただろうか・・・・・?

家へと送ってもらい、テーブルに苺大福が二つ置いてあった。
そこには紙もあり、「おかえり、おなかが空いたら食べてね」と書いてあった。

再び両目から大粒の涙がポロポロと流れ出てきた。

そんな中、足元になにかがやってきた、タマだ。
タマは「ニャー」と一声鳴き、亮に寄り添う。

「タ・・・・・・マ」

亮はタマを抱き上げ、顔を見つめる。
涙は、いつの間にか止まっていた。

「そうやな、お前がいるな、タマ」

いつしか笑顔を取り戻していた。

現在はペットを飼うのを許可されているアパートで一人暮らしをしている。
タマは長期間出かける際に、管理人に預けている。

この場所に来たのも、お墓参りの帰る途中だった。


「(自分の帰りを待っている家族がおる、そして、仲間も・・・・・!!)」

いつしか、体の底に眠っていた力が目覚め始めた。

「!!」

亮は颯爽と立ち上がり、鉈を大きく振る。
その急な攻撃に暫は腕を少し掠る。

「さぁ、始めようか第二ラウンド!!」