「うひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
轟とあがった咆哮に驚いて、須々木星斗は麻寺暫に視点を合わせる。
それは今まで見てきた何者よりも比べらることはなく、恐ろしく、畏怖すらしそうだった。
先ほどまで、自分が押していた人物が、今、自分を押している。立場逆転だった。
高速移動で、暫は星斗へと距離を縮める。
星斗は日本刀で太刀打ちしようと身を構える。
「なにっ!?」
暫は素早く星斗の下にしゃがみこみ、両脛(すね)をナイフ切り刻む。
痛みでもがき苦しむ星斗。その哀れない姿に、さらに高々と笑いだす。
星斗は激痛にを耐えながら、立ち上がり、日本刀を再び構える。
「図に乗るなぁ―――!!!」
颯爽と鍛えられた脚力で暫の元へ、駆ける。
いつしか寒気を覚えるほど凄まじい殺気を放っていた。
この若造を殺す、そのことしか考えられなくなっていた。
「死ねぇぇぇぇぇ! 若造ぅぅぅぅぅ!!!!」
「・・・・・・・・・フクッ」
本当に一瞬の出来事であった。
足が、腕が、四肢切断された。星斗には、それが理解ができなかった。
それほどまでに痛みはなかった。
自分の両腕、両足がボトボトッと音を立て落ちた瞬間、全身に今までに経験した事のない激痛が体中を走った。
絶叫せずには、いられなかった。
「ぐわぁああああああああああああああああああ!!!!
ワシの腕が・・・・・! 足がぁっ!!」
その泣き叫ぶ様子を、暫は卑劣に嘲笑う。
星斗はその暫の行動に、怒涛の怒りを覚えた。憎悪も兼ねて。
「主ぁぁぁ! よくもワシの両腕両足を! ぶった斬ってやる!!」
暫の表情は一瞬にして無表情となり、徐ろに暫の落ちた左腕から日本刀を持ち出す。
その行動に、星斗は感ずく。
「主・・・・・・何をする気じゃぁ・・・・・・・」
一度素振りをし、四肢切断された星斗の元へ近づく。
鋭く閃く日本刀は、星斗の頭上へと構えられる。
「やめてくれ・・・・・・・やめてくれっっ!!!」
その声は、あまりにも弱弱しかった。
「・・・・・・・死ね、糞ジジィ」
日本刀は頭から腹部にかけて、切り刻まれた。
星斗は叫ぶ間もなく絶命した。
しかし、死体を切り刻むのをいっこうに止めなかった。
首の骨は露出し、臓器も外に飛び散っていた。暫の表情は、まるでおもちゃで遊ぶような子供の顔をしていた。
最後には、頚部を切断し、その血を啜っていた。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
見慣れているはずのその光景を目にして、ホノカは泣き叫ぶ。
声と共に、暫は瓦礫に顔を向ける。
「(しまった・・・・・・!)」
この状況への対処は一刻を争う。
亮は歩霧との激闘の末に手に入れた鉈を強く握り締める。立ち上がった。
「俺も脆くなったなぁ~こんな洟垂れ坊主に畏怖しとうなんてな!」
亮は、それだけのことが、とても恐ろしかった。
恐怖心を無理やりにも押さえ込んでいた。
「亮・・・・・・・!!」
佑作は亮の凛とした顔つきを見つめる。それは、見たことが無いほど頼もしかった。
亮は鉈を再び強く握り締め、暫に向かい猛突進を仕掛けた。
「うらぁぁぁぁ!!!」
暫の構えられた日本刀に鉈は押さえ込まれる。
とっさに亮は大声で佑作たちに伝える。
「佑っ! こいつは俺がなんとかするっ! はよう行けっ!」
戸惑いを見せるも、佑作は二人を連れ、森林道を跡にする。
「(じゃあな、佑、ホノちゃん)」
亮は鉈を力強く、暫に向かって斬り込む。
両方の鋭い刃は、火花を散らす。
「そんなもんかよっ!」
亮は余裕の表情を見せていた。しかしそれは強がりを言っているに過ぎなかった。
本音はかなり恐ろしく、怖かった。
こんな畏怖してしまう奴とは戦闘したくはなかった、なぜだ?
俺はなぜこんな事をしているのか? 自分でも理解ができなかった。
大切な仲間を守りたい、ただ、それだけだった。
佑作たちはエリア4へと向かっていた。
赤い扉は近づいてはならない・・・・・最初の放送で聞いたこの言葉、気になっていた。
もしかすると、何か大きな手がかりが手に入るかも知れない。
全運を賭け、その場所へと到着する。
「ここか・・・・・・」
恐ろしいほどの恐怖感が全員に襲い掛かる。
ドアノブに手をかけ、回す。
ギイッ、と音を立て、赤い扉が開く(鍵がかかっていないのはさっきの巨大な揺れが原因だろう)。
そこは全エリアとは比べ物にならないほど別空間であった。
よくわからない機械などが近くを覆い尽くしていた。
佑作たちは音や声を出さずに、慎重に奥へ奥へと進んでいく。
そして、大きなフロアへと出る。
そこには、モニターがあり、亮と暫が激戦を繰り広げていた。
後ろから、足音が聞こえ、それに気付いたのはカチャッと音が聞こえた頃だった。
発砲された銃弾は京助の左肩へと命中した。
「ぐっ!」
ホノカは古瀬へと駆け寄る。
「古瀬先生っ!」
「まったくなんてことだ、我が軍が落としたミサイルで鍵が壊れてしまったのか」
煙が立つ拳銃を下ろし、奥のほうから杖をもった年老いた男性が姿を現す。
佑作らは直感で分かった。
「お前が、この大会の司会者ってわけだ」
年老いた男性は徐に佑作の方を向く。
「如何にも、俺の名は剣崎俊憲(けんざきとしのり)、この大会の司会者だ」